フィアット500に2気筒モデルが戻ってきた。でも、搭載されているエンジンはアッとビックリするツインエアの900cc。ツインエアエンジンは、吸気バルブの開閉に油圧を使うところに特徴がある。
カムシャフトから駆動されるそれぞれのプランジャー式油圧ポンプは、アキュムレーターを持ち、途中に有るソレノイドバルブを制御して吸気バルブの開閉タイミングを自由に取ることができるもので(バルブスプリングは使っている)、バルブとピストンがぶつからない範囲で急激なバルブ開閉も可能であるため、エンジン性能ばかりでなく、排ガス性能にも大きく貢献する優れものだ。
もちろん自由にバルブのリフト量も変更できることから、スロットルバルブを持たない構造として、エンジンレスポンスと燃費の向上に寄与している。
考えてみれば、スロットルバルブを持たないということは、吸気バルブの裏側には常に過給圧か大気圧が掛かっているわけで、アクセルペダルを踏み込んだ瞬間に、次の燃焼に必要とされる空気が入り込む形となるため、燃料の噴射量に合わせた空気量を瞬時に取り込めることから、HCの発生も少なく燃焼に関して一瞬の遅れも生じないと言うことになる。
このエンジンは、自然吸気ではなく小型のターボチャージャーを装備する。もちろん小排気量エンジンで不足するトルクを補うためであるが、ツインエア機構との協調制御は素晴らしく、過給圧が高まる、ということは微塵も出さずにごく当たり前に鋭い加速性能を発揮する性格だ。
そして、500ツインエアのミッションは5速ギヤAT(セレスピード)である。シングルクラッチを電子制御しながら、シフトチェンジするのだが、新しいモデルとなるたびにシフトアップ時の加速G変化が少なくなり、アクセルペダルを軽く踏んで、そのまま保持するように穏やかな運転では、ギヤのつながりに違和感など変化は見られず、エンジン回転と振動の変化を感じるだけでアップシフトしていく。
アイドリング近辺では少しメカ的な金属音が混じっていたが(クランク後端で1/2逆回転するバランサーのギヤ音かもしれない)、それもほんの少しアクセルを踏んだときから、一切のメカノイズは消え綺麗なエンジンサウンドのみが残る。
特に全開加速を行うと、まるでBMWの水平対向エンジンバイクに乗っているかのような、ズズズズ~ンという穏やかで力強いサウンドと、これまた応えられない振動(いや鼓動といったほうが良いだろう)を味わうことが出来る。BMWのボクサーエンジン(水平対向)を知っているドライバーには、たまらない感触だ。
このフィアット500ツインエアには、アイドリングストップ機構が採用されている。2気筒(等間隔燃焼の360度クランク)ということもあり、停止寸前のときの振動は大きく、再始動時も同様な振動が有るのは致し方ないところだろう。
また、再始動から発進可能な回転までに、僅かだが他の4気筒モデルと比べ、時間がかかるのも止むを得ないことかもしれない。特に左足ブレーキを使用するドライバーでは、ブレーキペダルを離した瞬間からアクセルを踏むので、発進までのギャップに違和感を覚えてしまうことになる。
パワー走行ばかりでなく、最先端の燃費走行用ECOボタンがインパネ上に慎ましく付いているが、これを使うとかなりおとなしい走りと、穏やかなハンドリングになる。例えば、アクセルを少し踏んで、ゆっくりと発進させた場合、1速から2速へのアップシフトは通常より700回転ほど低い。2000回転でアップシフトし、2速になると1200回転ほどだから、2気筒エンジンでは駆動系のノッキング限界。2速へ入った瞬間はドドドドドという排気音と軽い振動を伴っているが、別に悪いことではない。
2気筒モデルだからといって、走行中の騒音を蔑ろにしていないのは、うれしい限りである。エンジン音やエキゾーストサウンドを、ロードノイズで邪魔されないのは、走らせる喜びがいっそう高まる。
ロードノイズが室内へ侵入しないよう、リヤのタイヤハウス内にはインナーフェンダーを装備している。チッピング処理よりインナーフェンダー取り付けのほうがコストは安いとも思えない。最近はコンパクトカークラスとなる日本車でも(スズキのスイフトでは)、リヤのタイヤハウス内へインナーフェンダーを取り付けている。そのため非常に静かである。同様なことが行われているのだろう。
1.外観はこれまでのフィアット500と大きく変わるところはないが、どことなく精悍さが加えられた。
2.お洒落なスタイルは日本車にはない優しさがある反面、一旦アクセルを大きく踏み込むと、その走りはイタリア車そのものに変貌する。
3.エンジンルームには、ターボ付きの2気筒が収まる。900cc2気筒だからと侮れない性能は、魅力がぎっしりと詰まっていた。
4.搭載されるエンジンがこれ。2気筒360度クランクだから等間隔燃焼。アイドリング近辺ではバランサーギヤからと思われるメカ音が出ているが、少しアクセルを踏めばその音は消える。
5.ツインエアエンジンの特徴である吸気バルブの駆動方式は、エキゾーストカム側に設けられた、それぞれ専用のカムによるプランジャーポンプが油圧を造り、アキュムレーターに蓄圧させながら、電磁バルブの開閉で吸気バルブを押し開く。バルブスプリングの使用で、自由な開閉タイミングを選べるばかりではなく、開閉量の制御も可能なことから、スロットルバルブレスのシステムも採用している。
6.ダッシューボードの左には、申し訳なさそうにECOボタンがある。これを押すとギヤシフトのタイミングが早くなって、穏やかな走りとなるばかりではなく、ステアリングの操作感も、アシスト量を増やし優しい方向へ変化する。
7.セレスピードのシフトレバーには、オートモードとマニュアルモードがある。マニュアルモードを使用すると、気持ちの良いシフトでそれまでとは打って変わったスポーティな走りが味わえる。