ハイブリッドの燃費にも迫るという、デミオ・スカイアクティブだが、プレスインフォーメーションには、肝心の表現が抜けている。それは、圧縮比を上げることの目標が、ミラーサイクル(アトキンソンサイクル、高膨張比エンジンなど呼び方は様々)状態での走行性を上げること。そのために出た結論が、見かけ上の圧縮比を出来るだけ高くしておくことが重要で、14という数字になった。

見かけ上の圧縮比(気筒容積+上死点での燃焼室容積:上死点での燃焼室容積)をこれまでのエンジンより高めておき,ノック等異常燃焼が問題となる低速域では吸気バルブの閉時期を遅らせて実圧縮比を低下させるもの。デミオ・スカイアクティブの場合、低中速域はオットーサイクル・エンジンの圧縮比で高膨張と言った方が、ある意味正しいかもしれない。
もちろんこれを達成し、更に燃費を効率よく向上させようとするには、なみなみならぬ技術を詰め込んでいる。例えば、圧縮比を上げるには、ピストンの頂面を限りなく飛び出させ、バルブとの接触を回避するリセスを切り込む、という手段になるが(ディーゼル燃焼とは違うので、フラットな頂面では出来ない)、このような設計とすると、熱効率が悪くなる。
それは、点火プラグとピストン頂面が近すぎる結果、燃焼で得られた熱が直接ピストンへ伝わり、膨張過程が妨げられること(つまり効率が悪い)。
そこで取り入れたものは、リーンバーンエンジンのようなキャビティを造ること。一般的には、キャビティを造ると、ピストン頂面の表面積が大きくなるので、熱を受ける面積ということだけ考えれば、燃費が悪くなるのだが、ピストン頂面のペントルーフ角度とバルブ挟み角から、燃焼室のあるべき形状を求め、シリンダーのボアが決まれば、キャビティを造ることへの抵抗もなくなる。

確かに熱効率を判断するS/V比(燃焼室表面面積/燃焼室容積)はキャビティを造らない場合に比べ大きくなるが、それでも10%以下に抑えている。数字上のS/V比より重要なのは、点火した後の火炎が、直下に有るピストンへ当たらず、キャビティの中で広がりながら膨張させること。そして、ピストンから逃げる熱を大幅に少なくした結果、効率の高いエンジンが完成した。

ちなみに、圧縮比だけで見ると、プリウス1.8のエンジンは13有るが、これは完全にミラーサイクル・エンジンでオットーサイクル(普通燃焼)にはならない場合でのこと。
バルブタイミングを比較してみると面白いことが分かる。プリウスはミラーサイクルだけしか狙っていないということ。そのプリウスは吸気の開き角度がBTDC29度~ATDC12度、閉じ角度はABDC102度~61度。排気は固定で開きはBBDC31度、閉じはATDC3度。
対してデミオ・スカイアクティブは吸気の開き角度はBTDC36度~ATDC38度、閉じ角度はABDC110~36度。排気側も変化し、開き角度はBBDC9~52度、閉じ角度はATDC48~5度となる。
バルブタイミングの可変目的がエンジン性能は元より、燃費と排ガスを目的としたミラーサイクルの確立であるから、吸気カムシャフトの位相には電気モーターを採用して、レスポンスをアップしているのもスカイアクティブの特徴。
排気カムは油圧を使うが、カムの位相を変化させることで、内部EGRのコントロールを緻密に行い、排ガスばかりではなく、ノッキング防止に使われる。

積極的にミラーサイクルとオットーサイクルを使い分けながら、出来るだけミラーサイクル状態を保つために、ミラーサイクル専用のプリウスよりも圧縮比が高いエンジンを完成させ、ミラーサイクル状態でも、トルクと燃費のいい状態を持続させることに成功したのが、スカイアクティブ・エンジンである。
BTDC=上死点前 ATDC=上死点後 ABDC=下死点後 BBDC=下死点前