研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2011年8月30日火曜日

デミオ・スカイアクティブのエンジンはミラーサイクルを充実させたものだ

ハイブリッドの燃費にも迫るという、デミオ・スカイアクティブだが、プレスインフォーメーションには、肝心の表現が抜けている。それは、圧縮比を上げることの目標が、ミラーサイクル(アトキンソンサイクル、高膨張比エンジンなど呼び方は様々)状態での走行性を上げること。そのために出た結論が、見かけ上の圧縮比を出来るだけ高くしておくことが重要で、14という数字になった。
これが新開発された、デミオ・スカイアクティブ・エンジン。圧縮比14という数字だけが一人歩きしているが、実は燃焼の膨張比を大きく取ることを目的にしたミラーサイクルエンジンで、ミラーサイクル状態でも十分なトルクが得られるよう、見かけ上の圧縮比を大きく取り、エンジン負荷によって一番効率の良い燃焼を取り出す作戦だ

見かけ上の圧縮比(気筒容積+上死点での燃焼室容積:上死点での燃焼室容積)をこれまでのエンジンより高めておき,ノック等異常燃焼が問題となる低速域では吸気バルブの閉時期を遅らせて実圧縮比を低下させるもの。デミオ・スカイアクティブの場合、低中速域はオットーサイクル・エンジンの圧縮比で高膨張と言った方が、ある意味正しいかもしれない。

もちろんこれを達成し、更に燃費を効率よく向上させようとするには、なみなみならぬ技術を詰め込んでいる。例えば、圧縮比を上げるには、ピストンの頂面を限りなく飛び出させ、バルブとの接触を回避するリセスを切り込む、という手段になるが(ディーゼル燃焼とは違うので、フラットな頂面では出来ない)、このような設計とすると、熱効率が悪くなる。

それは、点火プラグとピストン頂面が近すぎる結果、燃焼で得られた熱が直接ピストンへ伝わり、膨張過程が妨げられること(つまり効率が悪い)。

そこで取り入れたものは、リーンバーンエンジンのようなキャビティを造ること。一般的には、キャビティを造ると、ピストン頂面の表面積が大きくなるので、熱を受ける面積ということだけ考えれば、燃費が悪くなるのだが、ピストン頂面のペントルーフ角度とバルブ挟み角から、燃焼室のあるべき形状を求め、シリンダーのボアが決まれば、キャビティを造ることへの抵抗もなくなる。
ピストン頂面にあるキャビティは、希薄燃焼エンジンで使うものとは違い、ここに混合気を溜める目的はない。点火直後の火炎がピストンへ当たらない距離をとるための、「逃げ穴なのだ」。もしこの穴がなかったら、点火後の火炎が膨張に入る前からピストンに当たり、せっかくの熱が無用にピストンから逃げてしまう。それを防ぐことが目的だ

確かに熱効率を判断するS/V比(燃焼室表面面積/燃焼室容積)はキャビティを造らない場合に比べ大きくなるが、それでも10%以下に抑えている。数字上のS/V比より重要なのは、点火した後の火炎が、直下に有るピストンへ当たらず、キャビティの中で広がりながら膨張させること。そして、ピストンから逃げる熱を大幅に少なくした結果、効率の高いエンジンが完成した。
カットエンジンで見るピストン。全部をクロームメッキしているので、光り輝いて判断がしにくいが、上死点にあるピストンと点火プラグの位置関係は、このキャビティがなかったら、異常とも思えるほど接近していただろう

ちなみに、圧縮比だけで見ると、プリウス1.8のエンジンは13有るが、これは完全にミラーサイクル・エンジンでオットーサイクル(普通燃焼)にはならない場合でのこと。

バルブタイミングを比較してみると面白いことが分かる。プリウスはミラーサイクルだけしか狙っていないということ。そのプリウスは吸気の開き角度がBTDC29度~ATDC12度、閉じ角度はABDC102度~61度。排気は固定で開きはBBDC31度、閉じはATDC3度。

対してデミオ・スカイアクティブは吸気の開き角度はBTDC36度~ATDC38度、閉じ角度はABDC110~36度。排気側も変化し、開き角度はBBDC9~52度、閉じ角度はATDC48~5度となる。

バルブタイミングの可変目的がエンジン性能は元より、燃費と排ガスを目的としたミラーサイクルの確立であるから、吸気カムシャフトの位相には電気モーターを採用して、レスポンスをアップしているのもスカイアクティブの特徴。

排気カムは油圧を使うが、カムの位相を変化させることで、内部EGRのコントロールを緻密に行い、排ガスばかりではなく、ノッキング防止に使われる。
見かけ上とは言うものの、圧縮比14が生半可な状態で達成できたわけではない。ミラーサイクル燃焼から目標となる性能を取り出すためには、シリンダーのボアを小さくし(71×82mm、1298cc)、バルブの挟み角などはもとより、吸気ポートの角度まで計算してもとめたタンブル(縦渦)の効果もある

積極的にミラーサイクルとオットーサイクルを使い分けながら、出来るだけミラーサイクル状態を保つために、ミラーサイクル専用のプリウスよりも圧縮比が高いエンジンを完成させ、ミラーサイクル状態でも、トルクと燃費のいい状態を持続させることに成功したのが、スカイアクティブ・エンジンである。

BTDC=上死点前 ATDC=上死点後 ABDC=下死点後 BBDC=下死点前

2011年8月26日金曜日

イグニッションコイルに外部抵抗器は何故必要か その2

今でこそ見たことのない人が多くなったポイント式の点火装置。そこに使われてきたイグニッションコイルは、そのままであると高回転に対応しないという状況が出ていた。それを解決したのが一次コイルの巻き数を減らし、減らした分の抵抗をプラス端子に直列配線すること。これがトータルの抵抗を同じに設定した外部抵抗器付きのイグニッションコイルということになる。

自己誘導作用と相互誘導作用というものを利用して、高電圧を発生させるのがイグニッションコイルの役目となることは前回説明した。

構造的なことから見ると、ポイントを閉じて一次コイルへ電流を流した後、ポイントを開いたときの一次コイルにおける自己誘導作用で発生する高電圧を、一次コイルと二次コイルの相互誘導作用で更に昇圧させることで、その瞬間、点火プラグにはスパークが起きる。
コイルに直流電流を流しても逆起電力の関係で、最大となるまでに僅かに時間がかかる。その時間はコイルの一次抵抗により変わる。抵抗が小さければ時間は短くなる

一次電流と二次電圧の関係をグラフで見ると、スイッチをOFFした状態からONしたときにも電流は変化し、磁界は発生するが、コイルのインダクタンス(誘導係数のこと。回路に電流を流したときの電磁誘導の大きさを表す定数で、誘導起電力と電流変化の比)のため電流は急激に流れないので、それによる磁界の変化も緩やかに立ち上がり、二次コイルに誘導される電圧は低く、点火プラグへスパークさせるような放電電圧に達しない。
スイッチ(ポイント)が開いた状態から閉じるときにも電流は変化するが、コイルの自己インダクタンスのため、電流は穏やかに流れるため磁界の変化も小さく、二次コイルに誘起される電圧は低く、放電する状態にはならない

大きな相互誘導起電力(点火プラグへの電圧)を得るには、一次コイルへ流れる電流を出来るだけ大きくし(限度がある、発熱が大きいと磁界が低下して起電力が低下する)、その電流の遮断を急激に行えば良いことになる。

ここに流す電流の大きさと、その遮断速度が磁束の変化の速さ、更に磁束変化量の大きさに直結する。つまり、点火エネルギーに影響を及ぼすことになる。

ところがエンジン回転が高くなると、ポイントの閉じている時間は短縮される。これは一次コイルに電流を流す時間が短くなり、その電流も低下してくる。

一次電流の低下は、つまり二次電圧に関係して、十分な昇圧とはならず失火が起きる。これを防ぐのが、外部抵抗器である。

フルトランジスター点火などでは、閉角度制御(ポイントでいうと閉じている時間を制御すること)なるシステムを組み込んで、ある回転以上となると一次コイルに流す電流の量を多くしているが、普通のポイント式ではそれが出来ない。そこで考え出されたのが、一次コイルの巻き数を減らし、減らしたことで起きる抵抗の低下を、外部に抵抗を取り付けて補うという方式。その抵抗はインダクタンスに関係なく、電圧とのつじつまを合わせることに作用する。

一般的な例で言うと、ポイント式点火装置で使われる普通のイグニッションコイルは、一次コイルの抵抗値が3Ω程(12V専用)だが、それを1.5Ωとした場合のコイルの巻き数は半分となり、そこに流す電流を妨げるインダクタンスは小さくなる。

言い換えると、イグニッションコイルに電流を流しても、直ぐにコイル全体へ行き渡るわけではなく、例えば3Ωのイグニッションコイルでは0.01秒掛かるが、それを1.5Ωとすると0.006秒に短縮する。これが重要なことで、高回転或いは多気筒エンジンでは、このように電流の立ち上がり(コイルへの満充電)を素早くしないと点火性能は発揮されない。

インダクタンスが小さくなるとコイルに流れる電流は直ぐにいっぱいとなり、点火性能を確保できるというわけだ。

テストベッドに使っているIGコイルへ流れる電流を計測すると、4.20アンペア

コイル本体の一次抵抗は1.7Ω。外付け抵抗器で3Ω近くになるよう調節する。そうしないとコイルに流れる電流が多くなり、発熱による弊害が起きる

外付け抵抗器を通して一次コイルの抵抗を測ると2.8オーム

外付け抵抗器の抵抗部分は、電流が多いので巻き線抵抗となっており、発熱(火傷するほど)するため、絶縁部分は碍子を使用する。抵抗の数値は1.2Ωとなっているが、実際とは少し違うようだ。この程度は問題ない





2011年8月13日土曜日

イグニッションコイルに外部抵抗器は何故必要か その1

結論を先に言ってしまうと、高回転まで安定したスパークを得るため、ということになる。

ポイント式普通点火装置では、4気筒以上のマルチシリンダーエンジンが、高回転高出力化できない理由があった。

ポイント式普通点火の時代であるから、この話しはかなり前のことになるのだが、当時はその理由を理解する人が少なかった。多気筒化すれば全てのフリクションが増えるからではない。同じ排気量なら多気筒化することによって燃焼室が小さくなる(シリンダーボアも)ため、エンジンの最高回転を高く設計できるので、それをギヤで減速すれば駆動トルクは上がる。つまり加速はよくなるのだが。

ただし、その条件が整っていなければ高回転を望んでもそれは無理。バルブタイミングや燃焼室形状、バルブの径などだけが関係している訳ではない。

忘れてはいけないのが点火装置である。そして、当時のポイント式点火装置で、ディストリビューターを使用したものでは、エンジン回転が高くなると点火エネルギーの不足が生じてしまう。その結果、不完全燃焼となりHCを多量に放出するだけではなく、エキゾーストマニホールド内で燃焼するため、オーバーヒート現象まで引き起こす。もちろん急速燃焼とならないため、エンジン回転は上がらない。

その理由は、回転上昇によってポイントの閉じている時間が少なくなるからだ。つまりイグニッションコイルに対して、十分な電気エネルギーを送り込むためには、それ相当の時間が必要。多気筒とディストリビューターが合体すると、ポイントカムは気筒数のカム山が必要となり、ポイントカムが高回転となればポイントが閉じて、イグニッションコイルへ通電している時間は回転の上昇と共に少なくなる。結果、点火エネルギーの減衰が起き、吸気量に見合った燃焼とならないのだ。
ディストリビューターを使うポイントでポイントがひとつのものは、気筒数分だけポイント開閉用のカム山がある。カム山の数だけポイントは閉じている時間が少なくなる。エンジン回転を上げると、そのことが問題を引き起こす


点火装置に関わるシステムの話になるのだが、これを知るにはコイルの自己誘導作用について理解しておく必要がある。

コイルに直流の電流を流すと磁界が発生する。ただし、コイルには磁界の発生を妨げる方向に起電力が起きる。

このためコイルに電流を流したとしても、電流は直ぐに最大とはならず、一定の時間後に最大電流となる。この時間はイグニッションコイルの巻き数によって違うが、100分の1秒~1000分の1秒単位である。

また、コイルに電流を流しておきながら、これを急激に遮断すると、コイルには電流を流し続けようとする起電力が一瞬発生する。
直流はコイルに電流を流すと、その瞬間だけ電流が流れる。また、電流を切った瞬間にも電流が流れる。この特性を利用したのがイグニッションコイルである


このようにコイルに対して電流を流し始めるとき、電流を絶つときに、コイルの磁束の変化を妨げようとする現象がコイル自身の中に生ずる。これを自己誘導作用と呼び、そのときに発生する起電力を逆起電力と呼ぶ。

ところで点火装置に使用するイグニッションコイルは、ふたつのコイルを並べた状態で(鉄芯に巻かれている)、入力側のコイルを一次コイルと呼び、そこに流れる電流を変化させると、出力側となる二次側のコイルには、一次コイルの磁界の変化を妨げる方向に起電力が発生する。これをコイルの相互誘導作用と呼んでいる。

つまり、一次コイルに一定の電流が流れているときは、磁界が変化しないので、二次コイルには起電力が発生しない。
これがイグニッションコイルとしての原理。コイルに電流を流すことで、起電力を溜める。一定の電流が流れているので磁界が変化しないため、二次側コイルに起電力は発生しない


しかし、この状態から電流を遮断すると、今まで発生していた磁界が急になくなるので、二次コイルには磁界の消滅を妨げる方向に起電力が発生する。
電流を切ると、その瞬間逆起電力が発生し、電流が流れる


直流電流ではこのように動作するが、交流電流では、周波数(正弦波)の関係で、交互にプラス・マイナスに電流が変化することから、二次コイルには、一次コイルとの巻き数比に合わせた電圧が常に発生する。つまり相互誘導作用が連続的に起きている。一般的なトランスがそれである。
これがトランス。直流では使えないが、交流(発電所が作る電気がそれ)はトランスを使って電圧の上げ下げが簡単に出来る。ただし効率は悪い。最近では、一般家庭でも最終的に直流化して効率を高くする、インバーター制御が当たり前。テレビやPCも直流を使う。そのため、発電所からの電気も直流のほうが効率が高く、変更しようではないかという運動が起き始めている

                                                               以下次回に続く