研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2016年9月4日日曜日

ホンダの新型スポーツカーNSXは、先代モデルのような問題が発生するサスペンションの採用はしなかった


先日発表された、新型NSXは、見事に変身を遂げていた。先代ではプロトタイプのメディア向け試乗会で、足回りのおかしな動きに対して、サスペンション開発担当者と、けんか腰の質疑応答までに発展したのである。

当時の我々の試乗会におけるテスト走行では、アクセル全開でステアリングから両手を離す、ということを行っていた。その目的は、路面の凹凸などの影響を受けたドライバーが、無意識のうちにステアリングを操作していることが多いからである。

その話はこのくらいにして、とにかく気持ちの良いスポーツカーではない走行性能に、どうにも腹が立っていた。そのときの雑誌には「走行安定性に疑問あり」という表現を書き記した。

で、なぜそのようなことが起きたのだろうか。サスペンション開発担当者だって、このような状態でOKとは思っていなかったので、その問題を最後には認めた。

サスペンション構造のコンセプトとしては、サスペンション(フロント)が作動しても、タイヤ(ホイール)にトー変化が起きないというもの。確かに理想的なのだろうが、逆にトー変化をうまく利用して、ドライバーの感覚よりも先を行くような走りが出来ないこともない(そんなクルマがあった)。

サスペンションが作動(上下に動く)しても、そのことによるトー変化を抑制するには、かなり複雑でゴムブッシュを各所に使用しなければならない。

問題はここにある。ゴムブッシュは普通に製造すると、その弾性にばらつきが多く、あるクルマメーカーの方が研究した結果、±20%に及ぶという。つまり最大40%の硬さの違うゴムブッシュが出来る。

このゴムブッシュを使ったのでは、計画通りにサスペンションが動くはずもなく、ダメ車のレッテルを貼られることになる。

ゴムブッシュの研究をしっかりと行っていた自動車メーカーの担当者は、「そのばらつきが出たのでは、自分達の目標とする足にはならないので、ゴム屋と綿密に研究を行い、最終的には±7%(定かではないが一桁だったと思う)にまでこぎつけたという。

そんなわけで、先代NSXは直進性の悪い、かつコントロール性も問題を抱えた状態で見切り発売された。このマシンで、モータースポーツにチャレンジしたドライバーは、優勝できるまでに数年掛かってしまったほどである。問題がどこにあるのかを見極めることが難しく、フロントサスペンションの動きを止める、というところまでなかなか進まなかったのだろう。

コントロール性と直進性の悪さを少なくするためにメーカーが取った方策は、前後ホイールのトーを大きくつけるというもの。その結果、改善されたようには思えないが、タイヤの磨耗は恐ろしいくらいにすごかった。普通に高速道路を走らせているだけで、リヤは4000km程でツルツル。フロントは6000kmぐらいだったと記憶する。当時勤めていた会社の別の編集部が、このNXSを購入して、長距離テストなどしていたから、素性の悪さをしっかりと見ることが出来た。

新型NSXは、フロントのロアアームにダブルジョイントを用いたWウイッシュボーン。これによりキャンバー変化を小気味良く使用。更にステアリング操作することで仮想キングピン軸が前後に動くもの。その結果、外側のタイヤに踏ん張り感を強く発生させ、安定したコーナリングと、コントロール性を得ている。

ロアアームを2本としたダブルジョイントサスペンション。ステアリング操作することで、タイヤの性能を滞りなく使いきれる。基本的にはWウイッシュボーンなので、走行性には疑問を挟む余地はなさそうだ
 
ロアアームをダブルジョイントとする方式は、日本車では珍しいが、欧州車ではかなり前から、ごく普通のセダンにも採用されていた。アッパーアームをダブルジョイントとする方式は、アウディが数十年前から確立させており、これも同様にステアリング操作することで外側のホイールアライメントにはキャスター角が多くなり、内側ホイールは少なくすることで、回り込みが素直で、粘りのあるハンドリングを実現している。


さて、ホンダの新型NSXはどうなのだろうか? 試乗する機会もないので、結論を導き出せないが、先代のモデルに出ていた問題点をしっかりと把握していれば、素晴らしいスポーツカーが誕生、ということになるだろう。