このレポートは、最初のタイトルを「数式を使わないサスペンションの話」ということでまとめていたが、結論からすると、サスペンションではなく、走行安定性になるので、タイトルを現在のものに変更した。(以後割愛)
内容は筆者が携わってきたバイクやクルマいじり、それ以外にも改良から製作、はたまた、各分野の技術者から得たヒントを織り交ぜ、経験などを加えて自分流にまとめたもの。数十年前に書いた部分もあるので、今では「化石」状態の部分も。面白い読み物、ぐらいの感じで目を通してほしい。(以後割愛)
ミシュランXがノーパンクタイヤ!!?
ヨーロッパ車の事故車におけるボディ修整に求められる精度では、日本車のような高い修整精度を要求していない、と言うことは最初にも書いたが、その点については、日本の高性能ボディ修整機がヨーロッパでは必要とされないので、引き合いがない、とあるボディ修整機を売るメーカーが、フランクフルトで行われたアウトメカニカで話していたことを思い出した。
これはいったいなぜなのだろうか。アウトバーンのあるドイツでの話である。ボディ修整に精度がそれほど要求されないと言うことは、サスペンションパーツの取り付け点精度もそれに準じることになる。ということはそれよりも重要な部分で、クルマの走行安定性が保たれているということか?
日本車のように高いボディ修整を要求しない現実。つまり、タイヤをきちんと設計どおりに動かさなくては、走行安定性を得られない、と勘違いしているクルマメーカーのエンジニアが造った日本車に対して、如何にして、勝手に向きを変えようとするタイヤをコントロールするかが、挙動安定性に関係する、ということを重要視しているのがヨーロッパ車であると見ている。
クルマは路面からの不規則なタイヤの動きを、ボディに伝えないような設計とすることで、横風にも強くなる。というのは、タイヤはあるきっかけで(常に外乱を求めている)勝手に、自分の好きな方向へ行こうとするから、ある程度タイヤそのものを、遊ばせておく必要がある。この“いなし方”が難しいのである。
そのヒントとして前後左右のタイヤが、クルマの操縦安定性に対し、互いに頼らないような設計とすること、は重要なポイントではなかろうか。
また、なぜバイアスタイヤからラジアルタイヤに交換することで、それまでどうしようもなくハンドルを取られていたクルマが、安定して走るようになるのだろうか。その答えは、ラジアルタイヤは、路面からの外乱を受け付けない特性を持っているからだが、その素晴らしい特性に頼ったクルマ造りが考え物である。
日本のクルマメーカーは、ひとつのチャンスを無駄にしてしまった。というのは、1960年後半から始まったクルマの大衆化で、操縦安定性が問題になり始めた。それは、フロントサスペンションを独立懸架とするなどの他、クルマを小型軽量化したことによって発生する、ごく当然の結果であったのだが、それに対する回答は出せなかった。試行錯誤しているところへミシュランが1949年に開発していたラジアルタイヤに着目。
当時は、スチールベルトの入ったこのミシュランX(定かではないが1965年ごろから輸入され始めた)を、そのスチールベルトによって、刺さった釘が、タイヤをパンクさせない、ノーパンクタイヤである、というキャッチフレーズで販売されていたし、そのための見本として、輪切りにされたタイヤに刺さる釘は、見事?に突き抜けていなかった。
チューブレスであるが、当時はそれに対応出来るホイールもなく、チューブを入れて使用するなど、本来あるラジアルタイヤの性能は、完全に無視されていたわけである。それほど、タイヤに対する認識度がなかった。
しかし、日本のクルマメーカーは、このラジアルタイヤに目を付けた。ミシュランタイヤの技術者のレポートをまじめに読み、自分たちのクルマに、そのラジアルを取り付けたに違いない。そして、問題になっていた操縦安定性の悪さが、なくなっていたことにびっくりし、ひとつの結論を出した。それは「タイヤが悪い」、というものだった。
サスペンション・ジオメトリーとボディ剛性については考えていたが、それはあくまでもスタティックな状態での計算で、動的なものではなかったから、いざ動かしてみると、問題が出てくる。その問題となる種がどこに存在するのか、はたまた、その種はどのようなことに発展するのか、殆ど分かっていなかったように思われる。
カマボコ道路を走行すれば中央方向(右)にハンドルは取られ、それが不規則に連続する道路では、安心してハンドルを握っていられない状態が続く。これが何故起きるのか、分かっていれば、ある程度解決の策はあったのだが、そこに到着する前にミシュランのタイヤが登場した。
では、何故カマボコ道路ではハンドルが取られるのかと言うと、それはキャンバースラストが強く発生するからである。サスペンションが作動することによって、あるいは作動しなくても、その路面形状になれば、アライメント(静的も動的も)の変化でキャンバーが変化し、それに合わせてトーの変化が出る。これを無視してサスペンションやボディを設計すると(当時は見よう見まねで設計していたから、本質を理解していない)、バイアスタイヤではトレッドが路面形状に合わせて接するため、タイヤの周長が変わり、短い周長(直径が小さい)方向へタイヤは移動しようとするが、そこへ更にトーが加わると、これこそキャンバースラストとなり、強い力でクルマの向きを変える。それも、左右のタイヤで勝手に突如として発生するから、走行性は最悪になる。
キャンバースラストとは、バイクや自転車のコーナリングで発生し、これがないとコーナリングは出来ない。絶対に必要なものなのだが、バイクや自転車では必要でも、クルマではいらない力となる。これを発生させないようにサスペンションとそれを取り付けるメンバー、ボディなど総合的に造らないと、安定性の高いクルマはできない。