今から50年ほど前のオフロード界は、ヤマハから発売されたDT1が話題を独り占めにしていた。
スリムで軽量、強烈なパワーはないが、その扱いやすさは特別。開発のライダーは今でも元気な鈴木忠男(チュー)さん。先日のモーターサイクルショーでお会いしたとき「4月15日のイベントには参加されるのですか?」と言う質問をすると「当然です。私が開発ライダーでしたから」と即答。でもチューさんは「本来ならプライベーターではなく、ヤマハが主催するべきだと思うのだが・・・」。確かにその通りだと思う。本社が出てこなくても、支店でいいわけだし。
ビンテージバイクのモトクロス大会なので、マシンばかりではなくライダーも気遣いしながらアクセルを開ける。レースばかりではなく、進行ものんびりとしたもの。アットホームとはこういうものなのである。目くじらを立てず、全てに優しく、安全にイベントを楽しむ。年齢も関係なく、パドックに行けばそれこそ、中学校の同窓会的な話題で盛り上がる。
そのDT1と言えば、発売当時モーターサイクリスト編集部でモトクロスに参加していた関係もあり、当時の編集長が「試乗記は先輩の***が書くので、君はカメラマンを兼ねて、ついでに乗って来い」と言ううれしい業務命令。そして試乗DT1は2台あり、1台はGYTキットを組んだものと、他は完全ノーマルのもの。
当時は浜松周辺では警察もそれほどうるさくないのだろう、メーカーがこのようなチューニングキットを組み込んだバイクを試乗車として貸し出していたのだ。
ただし、GYTキットを組んであると言っても、マフラーはレース用ではなかったから、エンジンパフォーマンスとしては強烈ではなかったが、高回転まで気持ちよく吹き上がる特性は、それまでには味わったことのない、気持ちのいいものだったと記憶している。
その前の年のモーターショーには、このDT1が展示されており、晴海の貿易センターで行われるこのイベントに、我々メディアは搬入当日の午後に会場へ入り、しっかりと撮影、更にいじりまわしていた。スリムで軽量なDT1をトレールと言う言葉を知らなかったので、間違って「トライアル」と言っていたら、広報の方に「それ違いますとレールと言います」と訂正されたことを思い出す。