研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2020年9月24日木曜日

トヨタが試作した2ストロークエンジンについてケチをつけた16

トヨタがポペットバルブ式2ストロークエンジンを試作したことがあったのをご存知だろうか。当時は、2ストローク開発が盛んで、スバルが開発していたのはポペットバルブではなく、バイクエンジンのようにシリンダーに開いたポートで吸気と排気のタイミングを取るもの。

もちろんスーパーチャージャーを装備し(クランク室の1次圧縮がないから、過給装置は絶対に必要)、クランク室はウエットサンプで、オイルリングが取り付けられているのは当然。 排気タイミングも重要で、当時バイク(ヤマハのYPVSとかホンダのATACなど)でしっかりと開発が進行していた構造を採用した。しかし、実験で造ったのは1シリンダーモデル。これでやれると思い、4気筒としたら、排気タイミングの機構が動かない。

更にクランク室のオイルが燃焼室に入り、排気煙がひどいばかりではなく、アイドリング回転も高くて普通に走行できる状態ではなかった。 そんな状況は、実際にそのスバル2ストロークを研究所に取材に出かけていたので、目の前で見ていた。単気筒試作エンジンを造った方と、その実験結果をマルチシリンダーに使って設計した方が違っていたのは、不思議なことだった。

原因は、各シリンダーの熱が、他のシリンダーにどのような影響を与えるか、と言う考えに及ばなかったこと。「聞いてくれれば教えてあげたのに」と、開発者に申し上げたが、失敗作扱いで、すでに開発は終了していて・・・

話は代わって同時期に、トヨタが試作した2ストロークエンジン試乗会での性能を、フリーライターから聞いて「どのように設計したのかを想像できた」 その性能は、とにかく回転が上がらない。動くことは動くが、走ると言う表現は使えない。回転計を見ると2000rpmが精一杯、と聞いていたので、おおよそ見当がつく。

そして、その年のモーターショーにそのエンジンが展示されていたので、開発者を捕まえて、かなり強烈な質問を浴びせた。 「このエンジンは、ヒョットすると、4ストロークと同じように、吸気側のバルブが大きく、排気側が小さい設計ですね」と言ったものだから、その担当者は「その通りです、よくわかりましたね」と言ってきたので、「いくら過給しているからといって、その過給圧で排気と掃気を考えた場合、吸気バルブと排気バルブの開口面積は、4ストロークと同じに考えたのでは、ただ始動できるだけのエンジンとなって、中身がないでしょう」、と言ったものだから相手は少しビックリ。

バイクエンジンのように1次クランク室の過給圧を利用して、掃気と排気を行えれば、それに越したことはないが、ポペットバルブを使用した2ストロークとなると、そんな理論は通用しない。

スーパージャージャーを採用して、その圧力により僅かの時間に開いている吸気バルブから空気を押し込み、僅かな時間に開いている排気バルブから排気ガスを押し出し、かつ、シリンダー内に新気となる空気を十分に送り込ませる必要がある。 吸気工程が存在しないと言っても過言ではない状況だから、それは非常に短い時間で完結させなければならないわけで、そうなると吸気側のバルブは小さくして(1シリンダー4バルブだったら、3ブルブを排気側とするなど)、過給圧を高くし、しっかりと空気を送り込みながら、掃気と排気を助ける設計が絶対に必要だからだ。

ここに行き着かなければ、2ストロークポペットバルブエンジンは実用化しない。 また、カムシャフトはエンジン回転数と同じに回転し、バルブの開閉もそれに合わせて、4ストロークの倍となるため、バルブそのものやバルブスプリング、リテーナーなどの関係パーツは、チタンなどの軽量素材を使う必要がある。 その後に他のメーカーが試作した同様な機構の2ストローク軽自動車のエンジンでは、ムービングパーツの全てをチタンとしたものが、モーターショーで展示されたこともあったが・・・

トヨタの場合、そのモーターショーには別の2ストロークエンジンが展示されていたと思う。排気量の小さな(600ccだっだと思う)2ストローク2気筒の試作エンジンで、スーパーチャージャーはルーツではなくリショルム式が採用されており、過給圧を高めてエンジンとしての資質に成功している。 この試作エンジンを搭載した試作モデルの取材申し込みにも広報を通さずに可能となり(後日話はしたが)、当時の東富士研究所に出向き、エンジン音や走行状態を見て、その完成度の高さに驚かされたが、やはり製造コストの問題が尾を引いており、量産化にはならなかったのは残念。同時期にヤマハも同様なエンジンの開発をやっていたと言う記憶があるが、取材していないので詳細は不明だ。