研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2016年5月28日土曜日

第25回、人とくるまのテクノロジー展だが、衝撃的な情報も出展者から入手した


5月25日から27日までパシフィコ横浜で開催された、人とくるまのテクノロジー展を見に出かけて感じたこと。それは、開発の最前線で活躍している方が、説明員として現場にいるケースが少ないということ。バイク、自動車の開発に携わってきたOB達のほとんどが、この会(自動車技術会)の正会員として会員登録していないことが、大きく影響しているからだと思う。「仕事では関わっていたが、もう離れたい」という意見を知り合いの自動車メーカー開発者から聞いたことがある。

私自身は、この展示会が始まったばかりのころからクルマ雑誌の取材として、「人とくるまのテクノロジー展」には訪れており、取材をしなくてもいい生活になっても、自動車技術会の会員には20年近く前から入っていて、好きなバイクやクルマのテクノロジーを学び、知りたいことに精力を注いでいるのだが、仕事として開発に取り組くんできた技術者たちは(もちろん、まだ外部で活躍されている方はいるが)、メシより好きでバイクや自動車の開発をやってきたのではないのだろう。

人事異動の命令でやってきたから、気持ちの入った、感性に訴えるようなバイクや自動車は(特にバイクはこれが重要)、今の日本では出来ない状態なのだ、という結論に達した。何とかして、好きなことを仕事に結びつけるような人材開拓をして欲しいものである。入社のときに希望職種を述べても、それとは逆の方向場所へ配置するなどを行っているメーカーもある。これでは素晴らしい商品はできっこない。メーカーの人事担当者ばかりではなく、文部科学省の教育プログラムにも関係する話だ。

我々が若かりしころ、高校時代は3年間バイクで通学。大学もメグロ650セニアやトライアンフ650ボンネビルなどの、大型バイクで通ったり、その後入手したクルマで通ったり、朝から夕刻までエンジンのオーバーホールを行い、試運転を兼ねてそのままツーリング、なんていう、好きなことに精力を傾けていた。それでも、落ちこぼれ(当時はこんな言葉はなかったか)のレッテルを貼られることもなく、社会人となるときは、好きなバイクがトコトン乗れる、バイク雑誌の編集という仕事を選んだ。自叙伝はこのくらいにして・・・

衝撃的な情報とは(我々の認識が甘いからかもしれないが)ピストンの材質に関しての話。現在、ピストンの材質はどういうものだかアルミが当然のように使われているが、実は、近い将来希薄燃焼化が更に進み、アルミでは熱的に持たないということから、鉄に変更されるという。もちろん普通の鉄ではなく薄く軽く作れる材質の鉄成分が多いものだろう。

アルミの鍛造は熱的には強く強度はあっても膨張係数が高いので、熱負荷が多い場合には向かない。

鉄のほうが熱的には遥かに強いし強度も高い。熱膨張も少ない。今の技術なら軽いものは造れる。ガソリンエンジン用でもディーゼルのようなクーリングチャンネルは必要となってくるが、ストラットを同時鋳込みするような作法は必要なく、部分的に製造加工したものを溶接で繋ぎ合わせれば済む。

また、ル・マン24時間耐久レースで優勝しているアウディ・ディーゼルは、恐らく鉄(もちろん鉄の成分を多く含んだ)のピストンではないかという。そして、ディーゼルでは噴霧した燃料が空気としっかり混ざるよう、ピストン頂面にキャビティという大きな凹みを設けているが、この形状も皿をひっくり返したような逆台形の形状が実験されており、この方が燃焼も安定しているらしい。2000バールを超え、2500バールに近づいている噴射圧力が、これまでの考え方を変える必要に迫っているのだ。

ディーゼルでは、予混合燃焼の技術開発も進んでおり、このエンジンでは、燃焼が穏やかになることから、ディーゼル特有の騒音もなく、排気ガスもきれいになる。特にHC(つまり煤になる)は燃焼が全体に淀みなく広がることから、燃料の燃え残りがなくなり、結果的に大幅に減少する。更に、燃焼温度も低くなることからNOx発生のリスクも少ない。

バイクのブレーキにもフライバイワイヤーの時代が来る。ホンダではすでに一部を電子化したものが市販されているが、ブレーキパッドをディスクに押し付けるキャリパーへの力は、あいかわらず液圧を使用する。ところがNTNが考えるものは、基本的な作動部分は既存のマスターシリンダーを使用しながら、その先の力の部分に、同社が開発したボールネジを使った、電動モーターアクチュエーターを使用するというもの。バイクのブレーキは、操作したときのフィーリングが重要なので、簡単ではないと思うが、実用化は望みたい
 
既存の技術にとらわれすぎると(えてして、安全を考えて実用化されている技術を使ってしまうことが多い)素晴らしいものの開発製造は実現しない。失敗もまた進歩なりであることをしっかりと認識すべきなのだ。

電動過給機というものが進化しているようだが、これをはっきりと実用化するには、ダイソン博士に相談したほうがいいと思う。効率の高い掃除機を発明した方だから、当然それをひっくり返せば送風機であり、ひらめきに優れる博士なので、内燃機関用としてもっと優れたものを提案してくれるかもしれない