研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2015年11月20日金曜日

数式を使わない、クルマの走行安定性の話・17/17


トレールをいかに付けるか、これが一番重要かも知れない 

お買い物カートや会社内で使用する椅子などに使われる、自在キャスターの作動について、少しおもしろい考察をやってみた。自在形キャスターであるから、ステアリングヘッドに対するキャスター角はゼロ。しかし、オフセットされた位置にあるホイールスピンドル(中心)により、移動するとトレールができあがっている。

この自在形キャスターの転がりスタイルは、ホイールが引きずられる形になる。引きずられることにより、トレールがホイールスピンドルより前側にできあがるため、ごく普通のバイクやクルマと同様に、ハンドリングは安定することになる。

キャスター角はゼロでも、トレールは存在するということが重要で、それによる安定性はある程度確保できるが、上からの荷重がかかることで、ホイール自体が自然に進行方向を向くという、セルフアライニング(センタリング)特性は存在しない。

それでは、ホイールを前側に持ってくるようにセットし、適当な角度のキャスターで安定性は出せるのかというとそうではない。マイナストレール(進行方向のホイールスピンドル前方にない場合)ではダメ。椅子に取り付けられているもので試すと、左右が勝手な方向へ行きたがる。せいぜい引きずり側にならないことぐらいで、このセッティングで4個の自在キャスターを取り付けたら、極端に発生するトー変化により、ブレーキング現象が起きる。

左右をタイロッドのようなもので繋いだ場合では、片側の外乱による乱れが、そのまま反対側へ伝わるため、直進時の安定性は存在しない。左右をつないで安定性を出すという考え方は間違いで、それぞれ独立した中で安定性を作り出すセッティングが求められる。

写真をちょっと加工して、キャスター角ゼロのものを、45度ほど傾けると、路面と接する位置で判断した場合、トレールが出来上がっている。これによって直進性が保たれる
 

自在キャスターでも、キャスター角を45度以上(これはホイールの大きさやオフセ ットの量で違う)として、トレールを正しい位置に付けるようセッティングすると、 なんと左右勝手に広がっていた(トーアウト)、あるいはつぼんでいた(トーイン) ホイールも、自動的に正しい進行方向を向くようになり、向きを変えるような仕草に対しても、十分追従する。

このことから、重要で大切なのはキャスターを付けることではなく、トレールをいかに付けるかである、ということがわかる。

本稿の16号で記載したナッハラウフにするかフォアラウフにするかも重要である。つまり、トレール量を同じとした場合、キャスターの位置をホイールスピンドルの前側とするか後ろ側とするかで、ステアリングを操作したときのタイヤに対する荷重ポイントが違ってくるからである。

キャスターの位置をホイールスピンドルの前方に持ってくると言うことは、つまり、キャスター角がゼロでもトレールを存在させることが出来る、椅子やお買い物カートに使われる自在キャスターと同じ?

キャスター角をゼロにしなくても、僅かに付けて荷重を利用できるセルフアライニング作用を生かし、さらに十分なトレールでステアリングの安定性を期待できる。ただし、トー変化とキャンバー変化で、キャンバースラストが起きないサスペンションジオメトリー(作動軌跡)は必須項目である。