バッテリーの液レベルは、見ないふりするのが正しい
クルマやバイクに搭載される鉛バッテリーは、充電と放電のたびにガス(水素と酸素)が発生して、少しずつ電解液(濃液硫酸を蒸留水で希釈したもので比重が1.26~1.28)中の蒸留水も蒸発する。数ヶ月あるいは数年使用すると、バッテリー液のレベルが低下することで、蒸発していることを確認できるため、バッテリーのメンテナンスは、バッテリー液レベルの点検、ということを推し進めてきたが、実はそれほど簡単な話ではない。
バッテリーの様子を正しく見ていないと、確かにエンジン始動で問題が出たりする。昨日まで元気にセルが回っていたのに、今日はなんだかおかしい、と言う経験は、長くクルマを乗っていると、1度や2度あったと思う。その原因がメンテナンスに関する場合であったり、バッテリーの寿命であったりするから厄介である。
メンテナンスと言っても、それほどややこしいものはない。エンジンオイルのように、液の交換などと言う作業はないからだ。せいぜいターミナルの締め付け具合や、接続状態、バッテリー固定ボルトの緩み(緩んでいても、性能には関係ない。ただし締め付けボルトがなくなると、落下してショートする)ぐらいなもの。これで終わり。
何か忘れてはいないか?と言う問いかけをする方もいるだろうが、あえてそれを忘れよう。それとは、バッテリーの液レベルのことである。
昔は、バッテリーのメンテナンスで忘れてはいけない「筆頭項目」であったように思うが、それは大きな間違いだった。
バッテリーの液レベルが意味するものは何か、よく考えてみると、液レベルや量が大切なのではなく、その内容であることに気が付く。内容とは、電解液(蒸留水と濃硫酸の混合液)の硫酸分比率である。バッテリー液中の硫酸分比率は、つまり比重で判断できる。
大切なのはバッテリー液の比重であって、液レベルや量ではないのだ。ついこの間までは液レベルを最優先し、液補充により何が起きるのかが無視されていた。で、比重のことは考えずに、バッテリーの液レベルが低下していたら、補充液(蒸留水など)をアッパーレベルまで注入するよう指導されていた。
しかし、それがそもそも間違い。何故バッテリーメーカーは、未だにバッテリー液レベルについて、管理するよう指導しているのかわからない。それでいて、液補充が出来ないバッテリー(完全シールドバッテリー)の販売や、液レベルがろくに見えないようなケースの採用をやって、何とか問題を取り繕っているようにしか見えない。
バッテリー液のレベルは、使用する過程で少しずつ減少する。しかし、全ての電層で同じ量が減少するわけではない。バッテリー製造過程でのばらつきで、各電層間で発生電力の違いが出る。バッテリーを取り外して、充電してみるとわかるが、各電層で泡の出方が違うはず。これがバッテリー液の減少に結びついており、泡の出る電層ほど液レベルの低下は早い。
さて問題は、ここでバッテリーの液比重(つまり硫酸分)がどうなっているかである。これまでの経験からすると、たいてい泡のよく出ている電層は、比重が低い。つまり硫酸分が極板から排出されてこない。極板が劣化し始めている証拠である。ただし、ひとつの電層で考えて、その部分に使われる極板の全ての部分で劣化しているわけではなく、部分的である。(劣化はサルフェーションと呼ばれる酸化した状態)
このサルフェーションの中は、硫酸分が取り込まれた状態で、充電しても硫酸分を放出しないため、その電層の液比重は下がったままとなる。さらに、充電時には、容量が少ない分だけ集中して電解液は反応し、液レベルは低下する方向となる。
しかし、劣化し始めている電層でも正しい比重(1.26~1.28の硫酸分)を欲しがっている。それは、まだ正常に働ける部分があるからで、比重を正常にしてやることが必要になる。でも、バッテリーのメンテナンスでは、液レベルの管理がうるさく言われ、ついつい液レベルが低下している電層へ、補充液(蒸留水など)を入れてレベル合わせをしてしまう。
しっかりと液レベルが合わせられた結果、何がどうなったかというと、電解液が薄められ、それまででも低下していた比重はさらに低下して、硫酸分は下がり、充放電出来ない領域まで追い込む結果を作り出してしまう。
液レベルを無視して、そのまま使い続ければ、まだ数ヶ月は十分使用できたはずだが・・・
バッテリー液で大切なのは、比重、つまり硫酸分であるので、どうしても液レベルを調整したいのなら、全ての電層で比重を見ながら、電解液を補充するのか、蒸留水を補充するのか見極める必要がある。それもかなり大変で、生半可な知識では出来ない。
であるから、バッテリーの液レベルについては、ただ単に見るだけにとどめるべき。異常にバッテリーの液レベルが低下し、極板が露出しかかっているような電層を見つけたら、他の電層が正常でも、バッテリーの寿命と考え、できるだけ早いうちに交換するべき。
間違っても、補充液(蒸留水など)を入れて、液レベルを合わせないこと。これをやると、たいてい1カ月以内にバッテリーは使い物にならなくなる。また、場合によっては数日でセルが回らなくなる。
バッテリーの液レベルを見ても、そのまま無視していれば、必要な性能を保った状態で、しっかりと使い切ることが出来る。これを肝に銘じておきたい。
バッテリーの取り付け状態は、交換後数ヶ月経ってからチェックする。ある程度落ち着いてから見たほうが判断しやすい。ブラケットが動くようなら、ふたつある締め付けナットをそれぞれ半回転ぐらい締めこむ
ターミナルの締め付け状態も確認。緩んでなければ問題なし。今のバッテリーはこの部分に酸化物(緑青・ロクショウ)が湧き出ることはないはず
ターミナルの締め付けが弱かったら、一度完全に緩めておいて、出来るだけ下のほうにバンドを押し込み、その後にしっかりと締める
バッテリー液のレベルは・・・見えない。何のためにあるのだろうか液レベルの表示???
バッテリーを取り外して、前後に傾けるなどすると、液レベルが動くので、何となくそれらしいことが分かる。一番左の電層は他の場所に比べて5mmほど低下していた。それにしても、全ての電層で液レベルは最低ラインに近い
フィラープラグを外して内部を覗いてみると、まだ電極が見えるまで液レベルは低下していない。これまでであると「ヤバイ、蒸留水を補充して、液レベルを上げなければ」となったのだが、これが大きな間違い。大切なのは、液レベルではなく、バッテリー液の硫酸分、つまり比重だからだ
バッテリーが元気かどうか(まだ使えるかどうか)、エンジン停止後24時間以上経ってからの電圧を計測すると12.67Vであるから、いきなり始動不良とはならない状態
では肝心の比重を測定する。一番液量が残っていると思われる電層から
この部分は1.28~9で、少し比重が高いが、さしたる問題はない
一番液量が低い電層では、どのようなことになっているのだろうか
この電層は1.27~8という状態。バッテリーとして必要な比重を保っているので、使用する上での問題はない。やはり液レベルが低い電層は比重が低い。
でも、どの電層も液レベルは最低。ここに蒸留水を入れれば、液レベルは上がるけれど、硫酸は希釈され一番重要な比重は下がる。だから、液補充はやるべきではないのだ
バッテリーを交換したら、ラジオなどのチューニングばかりではなく(やらなくても事故にはならない)、パワーウインドウのオートでは、挟みこみ防止機能を働かせるための初期設定をやっておくこと。完全に開放した状態から、少しスイッチを引き閉まりきってから、2~3秒そのまま保持する。これで初期設定は完了。
なお、ホンダ車のように、初期設定(挟みこみ防止)を行わない場合には、オート作動のしないクルマもある(開発者に敬礼)