研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2011年3月11日金曜日

緊急脱出用ハンマーは正しいところに装備していないと、いざというとき役に立たない

欧州で見た光景。それは観光バスや電車にも緊急脱出用ハンマーが装備されていること。

スイスに出かけたとき、最初に気が付いたのは、あの脱線した世界で一番遅い特急列車の中。次が観光バスの中で、ここでは搭載されていたことに気づくのが遅れた。どちらもベルトカット用の刃物は付いていない。

欧州の観光バスの窓は開閉できないデザインで、特に緊急脱出用ハンマーは必要と思われる。日本では、スライドの窓を使っているから、何かあっても開けられると思いがちだが、ボディが歪んでしまったら、開閉不可能。となると日本でも観光バスには装備するべきだと思う。

事故などでクルマの中に閉じ込められたときに有効活用できるのが、緊急脱出用ハンマーだが、車室内のどこにどのように装備するかで、実際の緊急時に役に立たないことがある。

よく見かけるのが(メーカーの試乗車にも多い)センターコンソール横のカーペットに取り付けるスタイル。

この場合であると、例えば、池や海などに飛び込んでしまったとき、ドアが開かないし(水圧で開かないし開ければ即沈没)、ウインドウも電動であると電気系がショートして作動しない。手回しなら余裕でウインドウを下げることが出来るが・・・

ここでは緊急脱出用ハンマーを取り出し、尖っている方を使って軽くドアのウインドウを叩けば、強化ガラスはバラバラになり、窓から脱出すれば助かる。つまりセンターコンソールのカーペットへ取り付けていても、十分に役に立つ。

しかし、事故や閉じ込めはこのように正立した状態で起きるとは限らない。横転したままであることも多い。となると、シートベルトに縛り付けられた状態の車内から出ることはできない。

「ベルトのバックルを外せば良いじゃないか」、などという軽い気持ちがあるなら、実際に体験すると、シートベルトのバックルが外せないことが分かるだろう。手が届かないわけではなく、バックルは引っ張られているときに、自由にならないようロック機構が装備されているのだ(シートベルトも)。試しに、乗車してシートベルトをしてから、そのベルトを引きながら、バックルを外してみると分かる。ボタンが押せないはずだ。

横転してしまうと、体重がシートベルトを強く引いてしまい、バックルは解除できない。ここから脱出するには、ベルトを切断しなければならない。

そこで、緊急脱出用ハンマー(ベルト切断機能のついたもの)の出番であるが、カーペットに取り付けてあると、横転した場合、見える状態でも手が届かない。クルマが火災でも起こしていたら、焼け死ぬのを待つだけ。

これでは緊急用脱出ハンマーが有っても役に立たない。ここまで説明すれば、どこに取り付ければ良いのか見当が付くだろう。

そう、フロアマットに取り付けておけば良いのだ。そうすれば、横転すると同時にフロアマットは自分の頭のところは落ちてくるはず。もちろん、後席の天井に移動してしまうこともあるだろうが、ハンマー単体でなければ、それほど遠くへ動かないであろうし、多少移動しても手が届く範囲にあるはず。

ワンボックスやミニバンであると、問題が出そうだが、それを想定すれば、緊急脱出用ハンマーを取り付けたフロアマット(或いはハンマーそのもの)と、コンソールボックスあたりを、紐で繋いでおく、という考えで解決できる。

緊急脱出用ハンマーを装備しているのなら、ぜひこのあたりを参考にして欲しい。説明書には書いてないことでもある。


1.スイスの「世界で一番遅い特急列車」に装備される、緊急脱出用ハンマー。気になったのは、説明がないこと。車内アナウンスがあっても、理解できなければ役に立たないので、これは説明書を壁に貼り付けてもらいたいものだ。

2.観光バスの中にも緊急脱出用ハンマーが装備される。事故に対する想定が日本より進んでいるという証だろう。

3.乗用車の中に装備するときには、このようにフロアマットへ取り付ける。そうすれば横転したときにも緊急脱出用ハンマーを手にすることが出来る。なお、装備するなら写真のようにベルトカッターの付いたものを選びたい。

4.話は違うが、ドイツのアウトバーン・サービスエリア有料トイレで見た光景。便器の中に小さなサッカーゴールがあり、その前には紐で小さなボールが釣り下がっている。狙うよな~「ゴール」

2011年2月14日月曜日

リヤシートベルトのバックルが全席共通であってはいけない理由はどこにあるのだ

クルマの開発者に、何故リヤのシートベルトは、3座共通のバックルとして、どこのバックルにもタングプレート(差し込む方)が差し込めるようにしていないのか、と聞いてみると、まるで“神様”でも有るかのような答えが返ってくることが多い。

その答えとは「指定された正しい場所にベルトが来ていないと、シートベルトとしての性能が発揮されない」からだという。これはつまり事故を予見し、どのような形で事故が起こり、どのような形で乗員にダメージが加わるから、ここを押さえておかなければ意味がない、と言うことを知っていての発言? そんな馬鹿なことがあるか、予見なんていうことは不可能であるし、そうだとしたら“神の技”以外にない。なので、これはかなりいい加減な答えである。

でも、時々いるんだ「左は左の、中央は中央のバックルにタングプレートを入れるようにしなければ、シートベルトとしての機能が正しく発揮されないから、3座共通と言うのはダメ」、と言う設計者が。しかし、その設計者が言うところの間違った位置へ取り付けていたほうが、被害が少ない可能性は50:50のはず。なのに、決められた位置を主張し、そのために「わが社のクルマでは隣のバックルへの装着は出来ません」、と来た。そこで「貴方は神様ですか」と問いかけたこともある。

このように説明するヤツ(失礼)に限って、フロントのシートベルトは裏表に関係なく、また助手席側に対しても装着できる、と言う使い勝手にこだわっていることを知らない。

日本でもリヤシートベルトの装着が高速道路走行では義務付けられたが、その前にクルマとしてやっておくことが重要。それは、如何に装着しやすく造るかである。しかし、日本車では装着しにくいクルマ(メーカー)が多いのにはあきれる。

装着のしやすさとは、単純な話。バックルとタングプレートが素早くロックできれば良いだけのこと。でも、そうなっていないクルマ(メーカー)のほうが非常に多い。何故だか分からない。「決められたバックルに正しい向きでタングプレートを装着していないと、シートベルトとして機能が確実ではない」、というのだが、何のことを話しているのか、分かる方は、リヤシートベルトの装着で、一言いいたい人ではないだろうか。

何を言いたいのかと言うと、例えばリヤのシートが3人掛けで、中央のバックルが左側に有る場合、あるメーカーのクルマでは、左側に座る人が、シートベルトを装着できるチャンスは、最大4回の行動を取らなければならないような設計があること。

つまり、そのクルマでは左側のベルトバックルが2本出ており、どちらのバックルが左側のベルト用なのか、目視しなければ分からない。と言うことは、シートに腰掛けた状態でそれを確かめることは不可能。

また、そのバックルには裏表があり、ベルト側のタングプレートと合致しなければ装着は出来ないクルマもある。2本有り、裏表が有るので最大操作は4回あることとなる。これじゃベルトを装着しろといっても、素直に行動は難しいし、行動してもその答えが返ってこないのだから、ベルトの装着をしなくなる。

あるとき、妻とタクシーに乗る機会があり、彼女は右側で私は左側に座った。当然我が家ではリヤシートでのベルト装着は数十年前から当たり前の習慣だから、右側に座る妻も私が強制する必要はなく、タングプレートをバックルに押し込んだが「これ壊れている」と言う言葉を発した。そこで「壊れていない、ベルトを裏返しにしてみなさい」とアドバイスをすると、装着完了。

私のほうは、1度目で拒否され、ベルトをひっくり返してヒットした。そのときの運転手さんに「リヤシートのベルト装着は、どんな感じですか」と聞いてみたところ「運転免許を持っている方でも、リヤシートベルトのことは皆目分かっていないようで、最初にうまくヒットしないと、自宅へ到着するまでカチャカチャやっている人が殆どです」、と言う話をしてくれた。つまり自分のやり方が間違っていると言う判断をしてしまうのだ。作る方が間違っているのだが。

運転手がシートベルトを装着するような行動を取ると、セクハラになる可能性があるので、手は出さないと言う。妻の場合には、クルマに興味がなく、我が家のクルマでは、装着しやすくしてあるので「壊れている」と言う結論を出したのだと思う。

装着しやすくするには、どのバックルにでも裏表に関係なくタングプレートが入れられるようにするだけのこと。隣のバックルに入れたところで、シートベルトの機能に違いが出るはずもない。大切なことは、シートベルトをするということであり、正しい(何を基準として言えるのだろう)位置でなければベルトの役目が発揮されない、なんて言うことは誰にも言えないのである。

リヤシートベルトで大切なことは、事故で車外に放出されないことが第一。次いでフロントシートの乗員に危害が及ばないようにすることと同時に、自分へのダメージを最小限に止めることだと思う。全ての席で3点シートベルトも良いが、その前に重要なことは、ベルトの装着をしやすくするということ。

リヤシートベルトで3座とも共通のバックルを使用しているメーカーは、やはり欧州車に多い(日本車にもあるが)。その欧州のクルマでは、座圧センサーとベルトセンサーが装着され、乗員がシートベルトをしたかどうかが、運転手に分かるモニターが装備されている(規則がある)。にもかかわらず、ベルトは装着しやすいのである。

装着しやすくすることを無視して、自分達だけのお仕着せで設計・製造するのは、如何なものだろう。いくら優秀なテクノロジーが有ったところで、基本をしっかりと使っていなければ、何の意味もないと思う。


1.これが一般的な日本車のリヤシート・ベルトバックル。座ってしまったらどれが自分のものか判断は難しい。最初に触れたものにこだわることになり、それが正しくないと「壊れている」という結論を出してしまう。
2.そこで我が家では、中央のベルトをシートの下にしまいこんで使用する。タングプレートは裏表に関係なくバックルへ差し込めるクルマなので、これで間違うことはない。

3.中央以外のベルトはバックルが共通で、裏表もなく差し込める、という構造は日本車に多い。

4.フロントだって、このように左右・裏表に関係なく、ベルトの装着は可能だ。

5.輸入車には、リヤシート・バックルの全が共通であるというものが多い。この写真から判断できるだろう。中央の3点ベルトは右シートのバックルに。左のベルトは中央のバックルに差し込まれている。

6.このようなバックルもある。バックルベルトの内部にスプリングが組み込まれており、常に座る乗員の方向へ向いている。これなら間違えることはない。3座ともバラバラにシートスライド可能で、脱着できるシートなので、このように考えたのだろう。

7.それ以外にも、バックルの取り付けがベルトではなく金属のプレートを使うタイプ。これであると、勝手な位置に移動することもないため、使用するバックルを間違うこともない。

2011年2月4日金曜日

新型ヴィッツに試乗してきたぞ 上級車にも迫る作りこみ

リコール問題が取沙汰されているトヨタだが、新型はそのようなことが起きない作り込みをしていると確信したいところ。

ところでプリウス以外の売れ筋はヴィッツだろうから、思いの高さを高くして開発したに違いない。そのヴィッツの新型に試乗したので、インプレッションを書いてみた。最初に乗った1.3リッターのアイドルストップ搭載モデルで、クオリティの高さを感じてしまった。何のことはない、作り込みが上級モデル並みで、走り出す感覚や他のクルマと同列に並んで走るときの気持ちの安らぎは、これまでにないコンパクトカーといえるだろう。アイドリング時の振動が殆ど感じない処理にも敬服した。

走行音は静かで、特に新開発した1.3リッターはエンジン騒音の減垂性がよく、アクセルを大きく踏み込んでも、小気味良い唸り音を感じるだけ。それにも増して、新エンジンを搭載するなら、IQのプラットフォームをベースにしてストレッチすれば、ホイールベースの延長と前後重量バランスの最適化が出来たと思うのだが。

何故そのようにしなかったのか開発者に聞いてみると「確かに、IQのプラットフォームであれば、ミッションとデフの位置がこれまでのクルマのレイアウトと違って、前方になりますから、重量配分的には優れているため、初期の段階では検討したのですが、製造のコストなどを考えたときに、現行のプラットフォームで不都合な点を改良すれば十分という結論になったからです」、という話だ。

IQの駆動系やプラットフォーム、ステアリング周り、リヤサスペンションなどはヴィッツ以上にコストが膨らむようだが、それ以上にユーザーに対してのメリットは大きいように思うので、それを使わなかったのは残念である。

もちろん良いことばかりではない。この燃費狙いの仕様にはタイヤも燃費重視のものを装着してあり、それが気になる走行性を示した。緩い下り勾配のコーナリングで、アクセルペダルを半分ほど踏み込みながら走ろうとすると、有ろうことかオーバーステアのように、フロントが回り込んでしまうのである(フロントホイールアライメントのトーが影響するので原因は定かでない)。1.5リッターモデルではニュートラル。RSでは更に速度を10km/h高くしても、何も起きない。

また、スポーティなサスペンションとしてバネなどが硬いRSであるが、こいつのほうが道路の継ぎ目を連続して走行する場合、はるかに快適だ。言ってみれば下から突き上げられたときに“お釣りが来ない”のである。

何が違うか開発者に聞いてみると「バネとショックが違います。ショックは単に減垂力のことだけではなく、内容も違うのです」、という話である。でもそのショックを他の仕様にも採用するつもりはないようだ。

1.3リッターモデルではアイドルストップを装備しているが、このシステムはすでにIQの1300で採用していたもの。トルコンのドライブプレートにオーバーランニングクラッチを組み込み、リングギヤとセルのピニオンギヤは常時噛み合ったまま。セルとリングギヤが噛み合う音がしないから、ドレッシーな感じで再スタートする、というのだが、とてもそうは感じない。

確かにセルのピニオンがリングギヤに噛み込むときの音はしないが、その音はたいしたものじゃない。なのでピニオンギヤとリングギヤが噛み合って回る音のほうがうるさく、他社の廉価版システムとの違いを感じることは出来なかった。

このオーバーランニングクラッチを使うセルモーターの方法は、すでにバイクでは当然のものとしており、セルのギヤからリダクションのギヤまで、綺麗にシェービングされているため、ギヤが噛み合って回る音は感じない。バイクのセルを勉強しておけば、ヴィッツでも少しはドレッシーな始動になっただろうに、と思う。

アイドルが一旦停止し、再始動する条件は各社違いがあるようだが、ヴィッツはステアリングを左右に動かしても再始動しない。他のメーカーでは、右左折時の発進遅れを考慮して、一時停止状態から、ブレーキやアクセルの操作をしなくてもハンドルに手をかけたとたん再始動させるのだが。

この点について開発者は「ブレーキペダルから足を離した瞬間、0.35秒後には再始動が完了しますから、ステアリングのトルクセンサーから信号を取っていません」ということだったが、左足でブレーキペダルの操作をしている場合、同時進行的にアクセルを踏むタイミングもあり、やはり再始動に遅れを感じる。再始動条件にはブレーキスイッチとブレーキ液圧検知を採用しているということだが、少しストローク的に鈍感すぎることが、他社のそれとは再始動時間の差が出ているようにも思う。

ただ、アイドルストップした後に少し前進させるようなとき、他のクルマでは時速20キロ以上とか、数十メーター走行しないと、など再始動の条件は厳しいが、ヴィッツの場合5m程クリープ走行させると、再びエンジンは停止する。距離を計測してアイドル停止の条件としているのか、と聞いてみると「そうではなく、時速2キロで走れば停止の条件となります。たぶん、クリープ走行で5mは、それに合致したのでしょう」という話だった。


1.これがアイドルストップ後に再始動させるとき、セルモーターからの力を伝えて、再始動後はエンジンからセルモーターへは回転が伝わらない、ATのドライブプレートに組み込まれたオーバーランニングクラッチ。特別新しいものではなく、バイクではこれがスタンダード。ドレッシーな始動音を求めたという話だが、そんなことは感じなかった。ピニオンギヤとリングギヤの噛み合う音が汚らしいからだ。

2.アイドルストップが付いたクルマには、非常に大きな容量のバッテリーが搭載される。表示を見ると85Ahとある。以前2.4リッターのディーゼルターボを乗っていたが、それに使われていたのは75Ahだった。汎用性が低いバッテリーなので、ディーラーで交換するときに高価だろう。

3.こちらは1.5リッターのエンジンルーム。バッテリーは極普通のサイズ。

4.1.5リッターのエンジンはこれまでのものを流用。全部の仕様でいえることは、ゆっくりと走らせている限り、上級モデルに匹敵する走行フィーリングを持ち、挙動が穏やかに造られていること。特に新エンジンとした1.3リッターは、バランスが良いのか、エンジンの負荷を大きくしても、綺麗なエンジン音を発する。

2011年2月1日火曜日

改造プラグから始まった着火性に優れる点火プラグを考察する

20年以上の前だが、改造プラグの流行った時期がある。きっかけは、当時の読者がアイディアを出して実験した“スラントプラグ”という名称のものだった。このようなことから、当時は私もいろいろな形状の改造プラグを作り、紙面展開した。

改造はエスカレートし、接地電極を二つに切り開きV字の電極にしたものまで造ったが、熱負荷が心配だったので高負荷で使うことはしなかったが、当時はそれなりに効果があったように記憶している。このような経緯からスピリットファイヤーの切り開いた接地電極は、当時私が考えて誌面に発表したため、日本では私以外特許申請できない状態にある。

その後プラグメーカーはいろいろな形状の電極を開発したが、真似のできるのは、日立のクロスカット。中心電極に十字の切込みを入れただけのものだったからだ。直ぐに自作したが、結果は不明だった。

点火プラグがこのままで行き着くところにきているのかと思っていたら、どうやらそうでもなさそうな気配だ。これまでの考え方や求められることは、安定したスパークを長期に渡って確保することに主眼が置かれていたのだが、最近では、単に燃焼させれば良いのではなく、より確実に燃焼させることに目標を変えてきた感じで、燃焼室内に対する電極の向きがどのような影響を持つのか、あるいは、その向きによって失火が起きる可能性はどのくらいなのか、などの研究が行われ、どのような形状の電極が理想的なのかの研究も行われ始めた。

電極を細くする理由は、エッジや細い部分からのスパークが自然であり、耐熱金属では磨耗するために、白金やイリジウムと言う金属を使用している。また、細くすることで、熱引きが小さくなるため、スパークによる火炎核が小さくなりにくく、点火エネルギーに繋がるため、失火が少なくなることも細い電極を使う理由だ。

最近の研究課題は、高効率を目指した小排気量の高出力エンジンに対する、厳しい温度環境と振動などに耐え、ヘッドへ取り付けられたときの電極の向きが理想的ではなくても、失火が起きにくい形状などが求められている。また、どのような方向から混合気が電極の間を通過するかは、エンジンの造り方で変わってくるため、一概に方向を決められないこともある。

基本的な実験では混合気が電極の間に入ってくる角度を0度、90度、180度などで確認すると、0度と90度は理想的だが、180度は失火が起きやすいということになっており、これは実験などしなくても空気の流れを考えればおのずと分かる。そのため、私は気筒数以上のプラグを用意し、締め付け後の電極の向きを整え、アイドリング時の失火改善に役立てている。


1.これがスラントプラグと命名された改造プラグ。中心電極を斜めにヤスリで削り、それに沿わせるように接地電極をねじっている。どのような理屈でこの形になったのか説明はなかった。

2.混合気がプラグの下から迫って来たときでも、接地電極が邪魔をしないよう、ふたつ割にして、接地側のどちらからでもスパークが起きるよう考慮した。条件の良いほうでスパークすることにより、要求電圧は下がり点火時期は安定するばかりではなく、点火コイルの発熱も少なくなるので、安定する。と考えて造った改造プラグ。

3.日立のクロスカット。中心電極に十字に切り目を入れただけ。エッジを多く造りスパークしやすくしたのだろう。これならまねは出来そうだ。

4.接地電極の位置から本物のようには行かないが、45度ずれた位置にクロスカットを作る。金属用の糸鋸を使えば可能だ。ただし、いずれの改造プラグも削りカスの除去に十分な注意が必要。また、接地電極を曲げ伸ばしするので、劣化による折れも十分に考慮する必要がある。

5.これらが高着火プラグと呼ばれるもので、現在の主流だが、やはり締め付け後の電極角度によって、失火の原因を作り出しやすい。

6.失火の原因を作り出しにくい電極形状と、熱・振動耐久性をこれまで以上に高めたプラグ。右の電極形状は失火のリスクを少なくするらしい。着火性としては僅かだが左の形状という結論。いつごろ販売が開始されるのだろうか気になる。

2011年1月4日火曜日

左足でブレーキを踏むことを前提とした、ブレーキ優先制御とAT限定免許との関係がおかしい

AT車の暴走に端を発したブレーキオーバーライド(ブレーキ優先制御)だが、国土交通省の方向としては、積極的にこのブレーキオーバーライド制御を採用して欲しい、と言うことなのだが、何かおかしくないか。

そして、そのことを具現化させる会議なるものを立ち上げたが、そこに加わっているメンバーは、一体どこまで左足ブレーキのことを理解しているのだろうか。どこの自動車メーカーがどのような経緯で取り入れたのか、そのことも分かっているのだろうか。

それにも増して、唯一(世界でといっても良いかもしれない)「左足でのブレーキ操作がしやすいペダル配置や、ブレーキブースターの機構からシート、左の膝位置なども考慮した」、と開発責任者が言うクルマがあるのだが、そのクルマがどこのなんと言うクルマなのか知っているのだろうか。この会議には、何名かの著名な自動車評論家が加わっていたはずだから、彼らは試乗会で十分知る機会があり、開発責任者に話も聞けたはずだ。でも、常に左足ブレーキの感触を気にしていない方であれば、気がつくことはないだろう。そのようなことが頭に入っていないで、会議をやったところで、先進的な意見など出るはずもない。

このような経緯を知って、現在どのような制御がその先輩たち(クルマと開発者)は行っているのか、十分に理解した上での話し合いが重要だと思う。上っ面な情報だけでの会議では間違った方向へ導きかねない。そして、先輩たちは第2世代(バージョン2)の制御となっているのだが、どのように進化させたのか、ご存知だろうか。

また、日本の自動車教習所におけるAT限定免許や、運転講習では「ブレーキペダルを右足で踏むこと」、となっており、万が一にも左足で踏もうものなら、教官から大目玉を食うという。なのに、国土交通省は「左足でブレーキを踏んだ場合に、もし右足で踏んでいるアクセルペダルを戻し損ねても、しっかりとブレーキが効くように」というのである。何か変だと思うのは私だけだろうか。つまり「左足ブレーキが前提での制御を取り入れろ」、と言うのだから。

AT車を乗る場合、遊んでいる左足を有効に(健常者として)使わない手はない。増して、基本的な動作として、ブレーキを左足で踏むことによって、アクセルとブレーキの踏み間違いによる暴走事故はなくなる。これ当然の話。なのに、絶対に右足だと言うのはおかしい。右足でないと力が入らない、と言う人物もいるが、腕の筋肉とは違い、両足とも同じ力を持っているはずだから、この方の考えはあまりにも時限が低い。

左足だと、急ブレーキの場合、しっかりと踏ん張れず運転姿勢が乱れるとか何とかの言いわけもあるが、フットボードを踏みつけていれば、しっかりと体を押さえられるとでも思っているのだろうか。急ブレーキ時の運転姿勢や体重を支えてくれるのはシートベルトである。それより制動による減速力をブレーキペダルの踏む力にしたほうが、よほどましだと思う。左足でのブレーキ操作が、如何に安全で事故となる状況が起き難いか、と言う話はしないが(考えれば分かるはず)、正しい運転姿勢を取っていれば、何も問題は出ないし、出たことはない。

そして、パニックブレーキでは両足に踏ん張る力が入るため、左足でブレーキを踏むと、同様に右足でアクセルを強く踏みつけるので、制動距離が伸びる、と言う話しをする方がいるけれど、それは経験したことなのだろうか、それとも憶測の話なのか。私自身、実際にそのようなことを経験したことはないが、そうならないために組み込まれるのが、ブレーキ優先制御(ブレーキオーバーライド)でもある。

AT車の暴走事故は単純そのもので、少しのパニック状態からブレーキペダルのつもりで、アクセルペダルを思いっきり踏みつけ、大きなパニックに陥ってしまうことで起きる。本人はブレーキのつもりだから、自分が間違っていると言う自覚はない。その結果、事故が起きる。

このAT車によるアクセルとブレーキの踏み間違い事故は、何も一般ドライバーに限ったことではない。関係者からの情報では「救急車はかなりやってます。緊張からだと思います」、と言うことなのだが、更にビックリしたのは警察車両で特にパトカーであると言う。どの事故も大きくない状態なので、内部での処理としているようだが、これも左足でのブレーキ操作が出来れば、何も起きないはず。

もちろん誰でもが絶対に左足でブレーキペダルを踏め、なんて言うことは言わない。それは個人の自由だからだが、せめて教習所ではAT限定免許を取る場合「左足での教習にしますか、それとも右足ですか、教習の途中で逆の選択をしてもかまいません」、ぐらいのことはあってもしかるべきだと思う。でも、このような教習をやるには、教官がどちらの足でもブレーキペダルを踏めるように訓練していないと成立しないが。

またアメリカ人はAT車の運転で、左足ブレーキを使う人が多いと聞く。そして、ある日本の自動車メーカーの人がアメリカに赴任したとき、一番最初に言われたことは「左足でブレーキが踏めないのなら、1週間時間をやるから、その間にマスターせよ」と業務命令が出たとか。何故そこまでこだわるのかと聞いてみると「研究・開発に対して、自分たち(つまりアメリカ人)と同じ生活・行動のパターンを持たない連中の話は聞かない」という気質があるからだと言う。なるほど・・・

左足でのブレーキ操作も慣れてくると、両足でのブレーキ操作が出来るようになる。もちろん右足でのブレーキ操作がしっかりとやれての話ではある。パニックブレーキを両足で、と言うのはチョイと無理のような気もするが、渋滞路での長時間走行では、意識的に両足でペダルを踏むと、力が要らない。というよりも足の重さで十分停止しておける。

また、バイクの話だが、昔のイギリス車は左足ブレーキで、極最近までインド製のイギリス設計バイク(ロイヤルエンフィールド)は左足ブレーキだった。もちろん日本製のバイクでも、その昔には左足ブレーキがあったし、あのハーレーでさえ一部の車種に左足ブレーキがあったのだ。


1.開発責任者が「左足で踏みやすく、使いやすいブレーキを作りました」と言うクルマのペダル周り。今でこそたいした評価とならないだろうが、その当時(8年ほど前)はその素晴らしさにビックリした。試乗会で、「左足でのブレーキ操作が素晴らしいのですが、何かあったのですか」と開発責任者に尋ねると、「そうでしょう、分かる人には分かるんです。良くぞ感じてくださいました」と、身を乗り出してきたのだ。

2.左足でのブレーキ操作がやりにくかったので、少し大きめのペダルパッドを取り付けた。もちろん高さが上がらないように、ペダルのゴムを取り、間にスリップ止めを挟んでいる。自然の操作感が重要であるのだ。また、左足でブレーキペダルを踏ことに違和感をなくすには、右足とは評価基準が違うところにある。それは、左足では構えている状態からペダルを比較的ゆっくりと踏む機会が多く、マスターシリンダーから油圧が高まり、パッドを押し当てるまでのフィーリングを中心にチューニングする必要があるというが、右足であると、いきなりペダルを踏みつけるので、パッドが制動を開始してからのフィーリングを評価することが多いからだという。

3.もちろん右足でもブレーキペダルを踏める。間にツイタテを入れて・・・なんていう話ではない。重要なのは、左足でのブレーキ操作が出来る人に対して、使いやすいペダルの設計をしてあること。また、左足でブレーキペダルの操作が出来れば、バカバカしい事故から大きな事故へ結びつくこともなくなる。

4.慣れると、両足でのブレーキ操作も出来る。普段使うと言うより、渋滞で足が疲れたときに、両足で踏むと、踏むと言う力が必要なく、足の重さだけで停止しておける。
5.左足の位置が重要となるので、このようにスポンジパッドを貼り付けて解消。本来は膝を当てるようにしたいのだが、その位置にコンソールなどがないので、ここで我慢。それでも、左足の位置が決まるため、はるかに踏みやすくなっている。

2010年12月19日日曜日

ポイント式点火装置と外部抵抗付イグニッションコイル

丸型イグニッションコイルには外部抵抗付があるが、このコイルは抵抗無しのものと比べ、高速時の電圧低下を少なくすることが目的。

外部抵抗無しのコイルではコイルに流れる1次電流は、電流を流そうとしたときゆっくりと立ち上がるため、低速時ではポイントの閉じている時間が長いため、1次電流は十分に流れる時間がある。(図のi)しかし、エンジンが高速回転となると、ポイントは閉じている時間が短くなり、1次電流が十分流れないうちにポイントが開く(図のi)ため、エンジンの回転数が高くなるほど2次電圧が低下してくる。

そこで、外部抵抗付のコイルは、1次コイルの巻き数を減らすことにより、1次電流の立ち上がりを良くして(図のi)高速時の2次電圧低下を少なくした。

1次コイルの巻き数を減らせばコイルの抵抗値も減少し、図のiのように低速時または停止時の1次電流が大きくなると共に、コイル自体の発熱も高くなるため、外部抵抗として1次ターミナルのプラス側へ1.2~1.5Ωの抵抗を直列に入れ(1次コイルとの合計抵抗を2.5~3.0Ω)、1次電流が大きくなり過ぎないようにしている。

なお、1次コイルの巻き数を減らすと、点火エネルギーが減少するため、外部抵抗付コイルでは抵抗なしコイルよりも1次電流を大きくして、点火エネルギーの減少分を補っている。(図のiiよりも上にあることで理解できる)


1.エンジン回転数と1次電流の関係はこのようになる。フルトラ点火方式では、閉角度制御という内容が加わり、ある回転数から1次電流を増やす制御が加わり、高速時の2次電圧低下を防いでいる。

ポイント式点火装置とイグニッションコイルの関係

ポイント式点火装置(セミトラを除く)では、ポイントが閉じているときに、イグニッションコイルの1次側に対して、3~4A程の電流が流れているが、次にポイントを開くと、コイルの電流が急激に遮断されることで、自己誘導作用により1次コイルには約300Vの電圧が発生。それに伴い2次コイルには、相互誘導作用により、瞬間的に10000~30000Vの電圧が誘起する。これが点火プラグへのスパークとなる。

このように作用するとき、1次コイルに誘起される電圧は1次電流に左右される。つまり、変化する割合に比例する。したがってポイントが早く開けば電流変化が早くなり電圧は高くなる。また、1次電流が大きくても電圧は高くなる。

ポイントが開いた状態から閉じるときにも1次電流は変化するが、コイルにはコイルに流れる電流を変化させると、その変化を妨げる性質があるため、この場合の1次電流は緩やかに立ち上がり、コイルに誘起される電圧も低く、放電電圧に達しない。なお、2次コイルに誘起される電圧は、1次コイルと2次コイルの巻き数比に比例する。


1.ポイント式点火装置の回路図。セミトラではないので、イグナイターなどはない普通点火方式。

丸型イグニッションコイルの構造を理解する

丸型、あるいは普通型と呼ばれるイグニッションコイルだが、その構造は至って簡単。入力電圧の割りに出力電圧が高いので(12Vを使って30000Vとするので)、特別な構造かと勘違いしてしまうが、基本的にトランスのような構造である。ただ、入力から出力に至るまでのプロセスが違うだけだ。

丸型のイグニッションコイルでは、1次コイルと2次コイルがコア(薄い珪素鋼の板を重ね合わせたもの)に巻かれている。2次コイルは0.05~0.1mmの細いエナメル線を15000~30000回巻き、その上に0.5~1.0mmのエナメル線を150~300回重ねて巻いている。コイル1層ごとにコイル間の短絡を防止するため、薄くて絶縁性の高い絶縁紙が巻き込んである。

鉄板をプレスして作った外筒との空間には、ピッチかオイルを充填して絶縁すると共に、使用中にコイルから発生する熱を放出させる役目も持つ。

2次コイルの巻き始めは鉄心に沿わせスプリングを介して2次端子(高電圧を取り出す側。俗にコイルコード差込側)に接続されている。2次コイルの巻き終わりは、1次コイルの巻き始めと繋がっており、1次ターミナルのプラス側へ接続される。1次コイルの巻き終わりは、1次ターミナルのマイナス端子に接続される。なお、両方のコイルは同方向へ巻いてある。

1次ターミナルのプラス側へは、イグニッションをONとした場合、バッテリーのプラス電気が作用する。同様にマイナス側はポイントと繋がり、ポイントが閉じている場合にはマイナスの電気が流れている。



1.これが普通型(丸型)イグニッションコイルの断面

2.イグニッションコイルの構造を図示するとこのようになる

2010年12月14日火曜日

ポイント式点火装置のメンテナンス その②

その①では、普段定期的に行う必要のあるメンテナンスを含めて取り上げたが、今回は、そのメンテナンスの最中に不都合な部分を見つけた場合どのようにするか、ディスビを分解しながら解説したいと思う。

不都合箇所として出やすいのがポイントの焼損や異常な磨耗。その原因には要求電圧がプラグギャップの磨耗で高くなったことやコンデンサーの不良、各接続端子の抵抗増大などがあるけれど、コンデンサーが取り付けられているとは言っても、ポイントは開く瞬間に僅かなスパークが起きるわけで、少しずつ焼損は起きてくる。これを防ぐには、セミトラ(永井電子などに商品がある)を採用するしかないが、使用する点火コイルは、純正であることを要求される。

ポイントの焼損がひどければ、取り付けられた状態での耐水ペーパーによる磨きは不可能。取り外して接点部分を確認し、オイルストーンで研磨するか、新しいものに交換。オイルストーンによる研磨は、様子を見ながら少しずつ行わないと、傾いたまま研磨することになるが、そうなったらベース側か羽側(カムで動かされる側)をネジって、中心が接するように矯正する。ポイント面の理想は中心が接していることだからだ。

バキューム進角がスムーズでなかったら、バキュームホースの亀裂などないか確認する。もちろんバキュームが作動するダイアフラムは、漏れがないことは重要だが、ダイアフラムから伸びる作動ロッドの先に繋がるベースプレートが、スムーズに回転しなければ意味がない。ポイントの焼損でオイルストーンによる研磨が必要な状態だったら、ついでにベースプレートを取り外して、回転の動きに問題ないか確認したい。

ぎこちない回転であったら、錆やグリース切れなどが考えられるので、十分に洗浄してから、ベアリング部分へ少量のグリース(耐熱グリースかリチウムグリース)を塗布して解決する。

このような症状が出ているときには、遠心ガバナの作動もスムーズではないはず。ベースプレートを取り外した内部を目視すれば、錆とその汚れが付着して、全体の動きに渋さが出ていることを予想できる。ポイントカムと一体となったガバナアッパー部は、中心に見えるボルトを取り外せば引き抜けるが、シャフトとの回転をスムーズにするため、上下に薄いシムが入っているので、扱いには注意が必要。

外したポイントカムは、汚れと錆などを除去するため、400番の耐水ペーパーで周囲を磨き、耐熱グリースかリチウムグリースを少量全周に擦り込む。多すぎるとグリースが飛び散ってポイントを汚し点火不良の原因となる。

ガバナの動きがスムーズではない原因のひとつは、ガバナピンとカムプレートのスリット間の渋さにある。ここのグリースが固着して段付磨耗のような状態を作り出しているため、スリットのピンが当たる側を耐水ペーパーで研磨してやると効果的。仕上げは耐熱グリースかリチウムグリースを少量塗布する。着けすぎると飛散して動きが阻害される原因を作ることになる。

全ての作動を確認して組み付けたら、ポイントのギャップを0.45mmとする。シュクネスゲージを使えばより正確になるが、使い方をマスターしないと不正確この上ない状態となるので、隙間から引き出すときの抵抗がどのくらい必要なのか、あるいは抵抗を感じてはいけないのか、何回も確認・調整して正しい値を求めることが重要。

最後は点火時期の調整だが、点火タイミングマークは見難いので、ホワイトマーカーなどで印を付けたほうが良い。エンジンを始動させて、進角状態の確認でも、最大進角位置にマークをつけておくとハッキリと確認することが出来る。

クランクをレンチで回し、イニシャル点火時期にマークを付けたら、その位置に固定。イグニッションをONにし、ディスビの締め付けボルトを緩めてディスビを左右に回して、コイルコードからスパークがある位置で止める。

コイルコードをディスキャップへ戻し、1番シリンダーのプラグコードへタイミングライトのセンサーをクランプ。センサーの感度によっては隣の点火信号も拾ってしまうので、できるだけプラグ近くで信号を取るようにする。

エンジンを始動し、点火時期を確認すると共に正しい点火時期となるよう、ディスビをゆっくりと動かして調整。進角状態の確認では、スロットルバルブを僅か開いたときに大きく進角し(バキューム進角が最大となる位置)、そこから更にスロットルを開くと、一旦進角が元に戻ってから、エンジン回転上昇と共に進角して行けばOK。


.焼損の激しいポイントは取り外して修正するか交換。修正ではオイルストーンで研磨するが、それには慣れが必要。

.オイルストーンでの研磨。平行に研磨できるようになるのは経験が必要。でも、傾いて研磨した場合では、羽側(鉄板が薄い)を曲げて矯正すれば良いだけ。ポイントが合わさっているときに、お互いが平行であれば良いのだ。もちろん、様子を見ながら少しずつ研磨するのは当然。

.取り外したベースプレートの動きを点検。ここは二重のプレートとなっており、ベアリングを挟んで回転する構造。回転と言っても10度ほど動くだけなので、どうしても異物が溜まりやすい。

.ベースプレートの構造には各種あるが、このクルマでは鋼のバネ力によってボールを押し付けているので、どうしてもその部分が汚れやすい。しっかりとパーツクリーナーなどで洗浄し、ボール部分へグリースを塗布して動きをスムーズにする。

.ベースプレートを取り外した内部を見ると、長い間メンテナンスがされていなかったことを物語る光景がある。これではガバナ進角としての役目が、十分発揮されていなかったことは想像できる。点検で、ディスビのローターを握って捻ったときの感触がその状況を物語っていた。

.ポイントカムを取り外したら、とりあえずカム全周の研磨を400番の耐水ペーパーで行う。その後、リチウムグリースなどを擦り込むように塗布する。ガバナピンの入るスリット部分も、固着しているグリースを耐水ペーパーで研磨するように磨き上げる。

.ガバナウエイトの動きやガバナスプリングの状態などを点検し、パーツクリーナーで洗浄した後十分に乾燥させ、問題がなければポイントカムのスリット部分にリチウムグリースなどを少量塗布して組み付けるが、このときに入るシムを忘れないように。

.組み付けたらクランクをレンチで回しポイントが一番開く位置にして、ポイントギャップの調整を行う。0.45mmという数字は、目視で何とかできるともいえないので(出先の現場ではそれで十分だが)、シュクネスゲージを使用するが、ポイント接点から、あるいはカムの谷とポイントヒールの間から、どのくらいの力で引き抜ければ良いのか、何回か調整して正しいギャップを求めること。

.点火時期を確実に調整するには、どうしてもタイミングライトが必要になる。しかし、タイミングライトでタイミングマークを見るのは難しい(特にこのクルマのようにフライホイールにタイミングマークのあるものでは)ため、予めホワイトマーカーを使って印をつけておくことが望ましい。

10.ディスビの締め付けボルトを緩め、イグニッションをONとしてから、コイルコードからのスパークで、イニシャル点火時期を求める。これは、あくまでもエンジンが始動できる状態を作り出すことであり、そこで点火時期を決めるわけではない。

11.タイミングライトのセンサーを1番シリンダーのプラグコードへクランプしてエンジン始動。アイドルでの点火時期を調整してから、エンジン回転を上下して、進角状態を確認する。エンジンを停止しディスビの締め付けボルトを締めて終了。

12.点火時期マーク(正しくは上死点マーク)は一般的にクランクプーリーにある。その場合には、タイミングギヤケース上の角度数字は読めるが、プーリーにあるマークの切り欠きが見えないので、この場合にもホワイトマーカーで印を付けたい。

2010年12月9日木曜日

ポイント式点火装置のメンテナンス その①

簡単な機構で点火プラグへ火花をスパークさせるポイント式点火装置は、メンテナンスが重要で、それを怠るとエンジン始動不能と言う状態にまで発展するが、例えそうなっても、ある程度いじれる人がいれば、簡単な手当で回復させることが出来た。それほど簡単な機構が、長い間使われてきた理由かもしれない。電子点火装置が当たり前となった現在では、現場での回復は不可能である。

その①では快調にしておくメンテナンスなので、火が出なくなったと言う想定はしない。普段から調子良く使うためには、どのあたりに注意して様子を見ておくべきかについて述べてみる。その②では、問題を見つけたときの対処を取り上げたい。

.まずディスキャップだが、取り外して外観の検査。これは、ひび割れやプラグコードの差し込まれている部分に対して行う。ひび割れがあれば交換だが、プラグコードの差込部分に出来てしまった白あるいは青い腐食は、パーツクリーナーで洗浄し、出来れば接点復活剤などを塗布する。内部ではセンターピースの状態を見る。スプリングにより押し出される形にあるので、スムーズに出入りするか、指で押して点検。ローターから電気を受け取るセグメントも破損がないか、異常な磨耗はないかを点検。ギザギザの磨耗は清掃しないでそのままにしたほうが、電気のロスが出ない。

.ローター側の点検では、セグメントに配電する先端に異常磨耗がないかを点検。この先端のギザギザ磨耗も、そのままにしておくほうが、電気的ロスを防げる。

.ポイント接点部分の点検を行う。マイナスドライバーで強制的に開き、両方の接点に異常焼損がないか目視する。同時にポイントヒール(カムが当たる部分)の磨耗点検や、カムに僅かなグリースの塗布なども考える。塗りすぎるとポイントの汚れる原因になるので注意する。

.ポイントに焼損があるときには、400番の耐水ペーパーを二つ折りにして磨く。短く持ち往復のストロークを小さくしないとペーパーが折れ曲がる。磨く回数は10回往復をペーパーの位置を替えて2回行う。耐水ペーパーは100円ショップやホームセンターで売っている。

.磨き終わったら、綺麗なボロキレにブレーキクリーナーを染み込ませ、ポイントに挟んで引き抜き磨きカスや油分を除去する。この作業は2~3回やる必要がある。油分が残っているとスパークしない原因となるからだ。

.ポイントのギャップ量も重要項目で、正式にはこのようにシュクネスゲージを使って、0.45mmとするのだが、1.0mmの半分と言う判断でもOK。直接ポイントにシュクネスゲージを差し込むのではなく、ポイントが最大に開く状態としてから、ヒールとカムの低い部分のギャップを測っても良い。この方がポイントを汚さなくて済む。狭すぎるとポイントの開くタイミングで切れが悪くなり、特に始動時ではスパーク性能に影響する。また、広すぎると、高回転ではIGコイルに電気を流しておく時間が短くなるため、スパークエネルギーが低下し、ミスファイアの原因となる。

.ポイントを開閉するカムシャフト(ローターシャフト)は、常に同じタイミングでポイントを開くことが重要となるので、この部分のガタは全ての性能を大幅に低下させる。めったに磨耗するものではないが、360度の方向へ揺すってガタのないことを確認する。

.点火装置にはエンジンの回転上昇に併せて点火時期を早める装置がある。それが遠心ガバナで、ポイントカムの回転方向へねじり、軽い力で数度動いてから手を離したときに、素早くスムーズに元の位置へ戻ることが重要。これがスムーズに作動しないと、素早く正しい点火時期が得られず、燃費や加速性能に影響する。

.点火時期の進角には、エンジン回転数と関係するガバナ進角の他に、エンジンの負荷を検出して、それに併せた進角を行う装置がある。それがバキューム進角とかバキュームアドバンサー、あるいはオクテンセレクターと呼ばれるもので、スロットルバルブの開閉角度とエンジン回転数によるバキューム量で進角幅を決めるもの。上側の写真は進角していない状態(作動確認の小さな突起が突き出している)で、ホームセンターで販売されている工作用の注射器などを使い、キャブに差し込まれているホースを抜き取って、注射器に接続し、注射器のピストンを引いてバキュームを造ったとき、突起が引き込まれればOK。また、その状態が保持できれば内部のダイアフラムに破損はない。口でくわえて同様な確認も出来るが、あまりお勧めできない。この作動はエンジン始動中にアクセルを少し開閉してみると、突起の出入りが確認できるはず。
              

10.ポイントからコイルまでのコードを途中で繋いでいる場合には、その接続部分も磨いて電気のロスを防ぐことが必要となる。意外に忘れられている分部なので、よく注意して観察したい。

11.点検が終わったら点火時期の確認。クランクシャフトを回して、基本の点火時期マークをあわせたら、次にディスビの固定ボルトを緩め、ディスキャップからコイルコードを引き抜き、アースとコード間でスパークの確認できる状態としてからIGキーをONとし、ディスビをゆっくりとローターと逆の方向へ回し、プラグコードからスパークが起きたところで、ディスビの固定ボルトを締めて終了。スパークが起きなければ、すでにポイントが開いていると判断し、ローターの回転方向へディスビを回し、ポイントを閉じてから、逆方向へ回してスパークするところを探す。


フィアット500の点火時期調整