研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2012年1月27日金曜日

ピストンのフリクションをゼロにしたら どうなる?

ピストンのフリクションに対する研究はかなり進んでいると思うが・・・

 エンジンの効率を上げるため、各部のフリクション低減に対して躍起になっている状況は見て取れる。でも、フリクションをゼロにする研究はなされていないようだ。

ピストンのフリクションを低減するため、ピストンのスカート部分にはWPC処理や二硫化モリブデンコーティング(パターンコーティングもある)などやっているが、直接シリンダー壁とピストンスカートが接することを狙っての処理ではなく、オイルが介在するときの引き摺りを少しでも減らすように願うだけ。

言ってみれば、オイルを弾くような表面処理がなされることで、引き摺りを少なくしようと言うのである。

その昔は、条痕仕上げと言う表面加工で、僅かなギザギザ仕上げの部分にオイルを保持させると言うもの。この仕上げはディーゼルエンジンで始まり、数万時間使用された建設機械エンジンのピストンを見たことがあるが、シリンダーとピストンが接したような跡はどこにもなかった。

このようにピストンとシリンダーとのフリクションを低減してきたのだが、低減と言う研究だけで、フリクションをゼロにする、と言う研究はなされていない感じだ。コンピューターでシミュレーションしたくても、ベースとなるデータはない。

試乗会などで、エンジン開発担当の技術者と話しをするときに、ピストンのフリクションをゼロとした実験などやったことがありますか? と聞いてみるが「そんなこと考えてみたこともありません」の返事ばかり。そこで次のようなことを話す。

ピストンとシリンダー間のフリクションをゼロにして研究する方法は簡単。

実験に使用するシリンダーをボーリングする(STDから0.25mmオーバーでいい)。そして使用するピストンはSTD。ピストンリングは0.25mmオーバーサイズ。

これで普通に組み付ける。エンジンを始動してもピストンのサイドノック音は出ない。クリアランスが大きく、ピストンの振れている範囲をピストンリングによって抑えられてしまうからだ。

実験エンジンなので耐久性はなくてもかまわない。トップリングが燃焼熱にさらされて都合が悪いと言うなら、トップランド(トップリング溝からピストン頂面までの部分)だけ0.25mmオーバーサイズの、頭だけ大きなピストンを造ればいい。

短時間の実験が終了して、耐久テストに持ち込みたいのなら、ピストンスカート部分にピストンリングを追加する、サードリング方式を取り込めば解決する。ただしリングとピストンの形状でフリクションは増加してしまうが。

では、こんな馬鹿なことが現実にあるのか、と言うと、実は経験しているのである。

それは今から45年ほど昔の話。大学時代、当時のアルバイトと言うと、もっぱらバイクの修理や再生を頼まれてやることでの金稼ぎ。

エンジンからのオイル漏れ修理で持ち込まれたホンダ・ドリームC72(写真はホンダコレクションホールから)。このエンジンにはサイズ違いのピストンが組み込まれていた。それがとんでもない性能となって現れた。ものすごくダッシュするのだ。オーナーは、しばらく乗っていたがエンジンは非常に快調だった、とのこと。ピストンが小さくても、意外に耐久性がありそうだ。

あるとき、「修理屋に出したバイクだがオイル漏れがひどく直してほしい」と言う依頼があった。持ち込まれたホンダC72を見ると、シリンダーガスケットの不良なのか、オイルがいたるところから噴出していた。

エンジンを降ろしシリンダーヘッドを取ると、ピストンとシリンダーのクリアランスが異常に大きい。

シリンダーを外して確認すると、ボーリングしてあるようで、ピストンリングは0.25という刻印がある。しかし、新品に交換してあるとは言うものの、ピストンはSTDである。

これでは、サイドノック音が出てしまうので、ピストンはオーバーサイズに交換しますか、と言うことをオーナーに伝えると「いや、音は出ていなかったので、そのままでいい」と言うので、部品交換はせずに、ガスケット交換と液体パッキンの使用で修理。これでオイル漏れは完璧に治った。

さて試乗してみる。確かにピストンのサイドノック音はせず、普通のエンジンになっている。しかし、暖機するための空吹かしをやると、やけにレスポンスがいい。そして少しエンジンのメカ音も大きくなる。

ギヤを入れゆっくりと走り始め、バランスの取れる速度(4~5km/hぐらいだろう)を保ってから、アクセルをいきなり全開に。

すると、びっくり仰天の事態が発生した。何と、ドン臭いビジネスモデルのC72は、フロントを大きく持ち上げて数メートルのダッシュ。

そして、フロントが着地したときの衝撃のすごさ。サスペンションがボトムリンクでストロークが小さなバイクでは仕方がないことであるが、まさかの事態を予想できず、ビックリだけが残った。

当時のエンジンではピストンとシリンダーは接触していただろうから、ピストンリングの張力と相殺するのは難しいとしても、いかにピストンがフリクションとしてあるかの証明にはなるし、また、簡単にピストンのフリクションをゼロとした実験ができると言う話。

ここにもブレークスルーはありそうな感じである。

ピストンを取っちゃたらどうなるか、そりゃエンジンとして成り立たなくなる。そこから最低限のピストンの役割について考えると、今までの考え方が正しいのか。単純に、ピストンとシリンダーのクリアランスにこだわっていただけではないのだろうか・・・