研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2014年12月28日日曜日

不定期連載 数式を使わない、クルマの走行安定性の話・7/17


トルクロッドもなくサスペンションアームも持たない独立懸架

サスペンションは、コーナリングの性能を上げるための全体設計ではなく、ニュートラルな走行時におけるサスペンションのあり方を最重点項目として考えるべきである、と考える。コーナリングにおける横力は、直進時におけるクルマの不安定要素をいとも簡単に越えてしまうわけで、コーナリングが素晴らしいクルマが直進安定性がいいと言うことはない。逆に、直進安定性のいいクルマは、コーナリング性能も素晴らしいというのが事実でもある。

ステアリングを切ったときの、クルマに発生する横力の計算は簡単に求められるのだが、直進時における外乱に対しては、いくらスーパーコンピューターを使えども分析できる状況にはならない。

コーナリングの特性から言うと、日本車は、タイヤのコーナリングパワーで曲がるのに対し、西独車はコーナリングパワー+キャンバースラストをバランスよく使っている。そのためレーンチェンジや高速コーナリングでもロールが少ない。特にフロントの沈み込みは少なく、タイヤからのスキール音はでにくい。

ル・マン24時間耐久レースでのことだが、89年に見たマーシャルカーはメルセデス560SELのノーマルカーである。これにオフィシャルが4人乗ってあのグループCカーを引っ張るのだ。これがただのクルマであったのなら、スピードが遅いことにドライバー達からクレームがでる。しかし、メルセデスは違っていた。ストレートでのスピードはもとより、コーナリングもバランスを崩すことなくレーシングカーを引っ張ったのである。翌年登場した日本車のマーシャルカーは、もちろんバリバリの3リッター・ターボ付きレーシングカーであった。

タイヤは幅が広くなればなるほど、路面の凸凹を受けながら、グラグラしながらも目的の場所に向かって転がっていく。このときに発生するグラグラ力はかなり強いものがあり、これをどのように処理するかが一つのポイントでもある。

リヤサスペンションにおいては次のような事例も見られる。まず一つ目は1953年式のメルセデスベンツ300に見られる。 デフをボディ(このときにはシャシーを採用していた)に取り付けて、その両側にスイングアクスルとするタイプである。スイングアクスルとなれば、当然タイヤにかかる前後方向の力を処理するために、ラジアスロッドやトルクロッドの取り付けがあるのが自然なのだが、このベンツ300は当然とも言える、ロッドの取り付けを行なわなかった。次回にはもうひとつの例を記載します。

1953年式のベンツ300。前オーナー曰く「当時は、外車に決まった価格は無く、オークションだったので、輸入の数が少なかったベンツ300は、ロールスロイスより高かったのだぞ」と。我々のところに来たベンツ300はなんと左ハンドルで、コラムシフトのマニュアルミッション(当時はろくなATはなかったので)。ステアリングにはアシストなど付いていない
 
 
つまり、ラバーマウントされたデフを中心にして、タイヤは前後に、自由に動くことになる。これがいったい何を意味するものなのか。NVHだけではないように思う。

フロントは上下アームが非常に短いWウイッシュボーンで、形や寸法からして、どう考えても素晴らしいサスペンション回りとは思えない。

12年ほどたった中古のベンツであったが、その時の走りときたら素晴らしいものであったことを覚えている。とにかく、ステアリングの遊びが多いにも関わらず、どのような路面状態であっても、ハンドルを取られることがないばかりか、左右に振られたり、向きが変わることもない。この状態が100km/h以上まで続いたのである。120km/hまでは出したが、それ以上は出せる道路がなかったので、確認できなかった。

知り合いから譲り受けたベンツ300だったが、当然整備が必要な状態であったため、下回りは分解して交換するのだが、デフのピニオンギヤベアリングはテーパーではなくローラーが使われていた。そのベアリングだが、DIN規格であるのは当然のこと。日本製でも呼び名こそ違っても同じサイズのものがあるので、それを使う。大学時代の機械製図の先生は、JIS規格作った方で、「面倒だから、時間もないし、DINの寸法をまねた」と教えてくれていたため、躊躇無くベアリングは日本製を選んだのだ。

これはそのベンツ300のボンネット先端に取り付けられていたボンネットマスコット。ラジエターキャップと勘違いしていた方もいるようだが、そうではなく、これを取り外すとその中にラジエターキャップがあったと思う。破損したためか、オリジナルとは違っている
これが当時のベンツ300に使われていたヒーターファン。エンジンルーム内に、左右ひとつずつ取り付けられていた。それ程強力ではなかったように記憶する 
 

2014年12月21日日曜日

バイクの駆動系にトーショナルダンパーの硬さアジャストを付ける


クルマでは、トーショナルダンパーのことを、駆動系の捻り振動や曲げ振動低減のために使用されるダイナミックダンパーである、と説明しているが、バイクの場合ではリヤスプロケットばかりではなく、クランクからの1次減速ギヤ(クラッチなどがある部分)の部分に組み込まれることも多い。ただ、クルマのようにダイナミックダンパーとしての目的は無い様に思うのだが。捻り振動はバイクでも目的に入るだろうが、ややこしい話は別として・・・本題に入る。

ダンパーラバーはスプロケットが取り付けられるリヤドリブン・フランジとホイールハブの間に挟みこまれ、加速・減速でのショックを和らげる役目なのだが、経年劣化するとその感触が悪さを発揮する
 
バイクのリヤスプロケット取り付け部分には、ギヤの変速ショックやアクセルの開閉で起きるギクシャク感を低減する目的で、ゴムの挟まれている場合があり、それが災いというか、感触の悪い方向へ劣化する体験をしているのである。

全てのメーカーが、このダンパーゴムを採用しているわけではなく、ホンダ車に多い。

例えば、同じオフロード車であっても、ヤマハTT250Rでは、リヤのハブに直接スプロケットが取り付けられているのが、同年代のホンダのXLR250Rでは、ストロークの大きなゴムダンパーを間に挟む感じで組み立てられる。

もちろん、このゴムダンパーは簡単に交換できるので、シフトショックやアクセル開閉の感触が悪くなったら、交換すればいいのだが、そのダンパーが絶対取り付けなければならないダンパーだとしたら、そのバイク造りは、少し疑問がわく。

ここのゴムが劣化(熱による加硫が進み硬化する。更に摺れて磨耗する)して、ダンパーのストロークが多くなってしまうと、僅かにアクセルを開けたとき(エンジンブレーキ状態の減速中から穏やかにやると)、一瞬遅れて動力(駆動力)が発生するかのように感じてしまう。

どのようになるかというと、エンジンの回転が空転した後となるので、ガツンという軽いショックを伴ってから駆動力が伝わる。実に愉快な感触なのである。

開発実験で、過酷な走行後を長距離、長時間、高温・低温にわたって行わないと、一般ユーザーが感じる経年劣化による不快感は出ないだろうから、それならそのような状態となった(絶対同じではないが)ダンパーゴムを作って、感触を確認すれば済むこと。

で、その確認が出来た後の処理が問題。ただ単純に「ダンパーゴムの耐久性を引き上げる。とか、交換すれば済むこと」とやったのでは、次に進む楽しいバイクは出来ない。

リヤスプロケット取り付け部分にゴムによる緩衝装置として、絶対に必要な状態であるなら、そのダンパーストロークを可変にする装置を組み込めば済むはず。

スプロケット取り付けボルトを利用して、ダンパーゴム側へ突き出している動力伝達部分をカム状にし(挟んだスチールプレートを膨らませるような形でも良い)、これを外部から回しゴムダンパーへ動力を伝える部分の厚さや圧力を可変にすれば、新車のときからライダーの好みに合った、駆動系の伝わり方が選べるはず。

新車の時には、まるでシャフトドライブでもあるような、アクセルの開閉に間髪を入れず反応していた、気持ちの良い感触のバイクが、1万キロ近くなると、「あのときの感激はどこへ」の寂しさも防げる。簡単に出来そうな感じなのだがな~

2014年12月8日月曜日

不定期連載 数式を使わない、クルマの走行安定性の話・6/17


バイクで大切なのはステアリングヘッド

バイクの話をしてみよう。クルマとはコーナリングにおけるスタイルが違い、リーンにおけるタイヤのキャンバースラストが、コーナーを曲がる力となる。では、直進時はどうかというと、これはクルマと同じことが要求される。フレーム剛性と、サスペンション剛性、そこにホイールとタイヤの剛性まで関係し、安定性を出す。

そして、その裏にはキャスター/トレール、タイヤの幅も考えた設計がなされるが、最近のレーサーレプリカのように、キャスター角が立っている設計は、短いホイールベースと合わせ、太いタイヤを使用して、コーナリング性能を上げても、ヒラヒラ感を求めた結果、自然の成り行きであのような設計になったもの。

タイヤが太くなれば、当然路面からの外乱は受けやすくなる。それをキャンセルするにはラジアルタイヤの採用であったり、トレール量の変更であったりしたわけだ。しかし、ここで大切なことはステアリングヘッドである。

バイクにおけるステアリングヘッドの役目は、コーナーを曲がるためばかりでなく、直進性と走行安定性を保つためでもある、と考えたらどうだろうか。このステアリングは感じないぐらいのストロークで、絶えずグラグラしながら、バイクのバランスを保ち続けている。

路面からの外乱は、直進時ばかりでなくコーナリング中にも受ける。つまりスムーズにステアリングヘッドが左右に動くことで、バイクのバランスは保たれることになるわけで、もしこのステアリングヘッドががっちり締め付けられていたとしたら、直進しながら横転するし、コーナリングするために、リーンしても旋回性能は発生せず、ハンドルをライダーが切る、という行為をしなければならない。

一度コーナリングを開始したらそのままの姿勢を保ち続けようとする力が強く、立て直すことは出来ずに転倒する。仮に直進に戻すために、バイクを立て直したらその瞬間反対側へ転倒する。

バイクのステアリングヘッドは、ライダーに感じさせないぐらいのストロークと周波数で、絶えず左右に動いていることは知っておきたい。このことはクルマにもいえることで、タイヤに対し、クルマが安定して走るに足りるストロークで、自由にしてやるのがポイントではなかろうか。

また、ゴムは摩擦が大好きであることを忘れてはいけない。そして、その摩擦は非常に強いもので、縁石に接触した大型トラックをいとも簡単に跳ね上げるほどである。

ゴムは摩擦が大好きで、そこが一番と言うことの証明として次のようなものがある。それは平ベルトと中央が高くなった樽型プーリーの関係である。

一般的には、Vベルトを使うと考えられがちだが、プーリー間の距離があり、テンショナーなどを使えない場合、また、回転方向を右や左に変える必要があるときなど、たすきがけができることから平ベルトの方が融通が利く。

この平ベルトに対するプーリーは、前記したように中央が高くなった樽型である。何故樽型なのかを考えてみると、それはベルト/ゴムが摩擦の多いところを好むからである。平ベルトと樽型プーリーの回転する様は、実にユーモラスで、外れそうになると中央に戻り、またはずれそうになると中央に戻る、という動作を繰り返す。欠点はスリップすると瞬間に外れてしまうことである。

これはタイヤと路面との関係にも似たものがある。何事もなくタイヤが転がっているときには安定しているクルマが、スリップを始めたとたんコントロールを失うのと同じだ。

2014年11月28日金曜日

家の電話、子機のバッテリーをダイソーのニッケル水素で蘇らせる


家で使う電話に子機が付いていると便利だけれど、こいつのバッテリーは4~5年で劣化して、充電していても満足に話ができる状態ではなくなってしまう。

我が家にあるのはブラザーの電話機。

交換は難しくはないので、ホームセンターや電気店で購入すれば復活するが、ネットで安く購入しても1500円ぐらいになってしまう。

性能ダウンしたそのバッテリーをよく見ると「ニッケル水素、2.4800mAhとある。

つまり、普通に市販しているニッケル水素バッテリーの1.2Vをふたつ直列に繋いだだけ?であると判断した。

ダイソーのニッケル水素バッテリーと組み換える。こちらのほうが容量が大きい。ステンレス用の半田が必要となる
 

バッテリーの大きさは単3だから、ダイソーで売っているものが使える。ダイソーの単3ニッケル水素バッテリーは1300mAhであるから、子機専用のバッテリーより容量が大きい。

専用バッテリーから流用するのは、プラグの付いたコード部分とバッテリーを直列に繋ぐステンレスの薄い板だけ。

コード部分とバッテリー端子を繋ぐ部分にもステンレスの板があるので、それもバッテリーからはがし、ダイソーのバッテリーに半田付けする。

ただし、ここで使用する半田は、ステンレス用を使わないとダメ。半田ごては40Wもあれば十分。

バッテリーの端子に半田だけを流しておく。同様に直列とするステンレスの板、コードについている板にも、ステンレス半田を流しておけば、作業が楽。ただし、短時間(2~3秒)で半田の作業を終わらせないと、バッテリーが不良となるので注意が必要。
 
半田付けが終わったら、ショートなどを起こさないことも目的に、ビニールテープで固定する。これはテープ巻きの途中

 
めでたく完成した子機のバッテリー。現在元気に働いてくれている
 
半田付けが終わったら、ビニールテープなどで固定し、子機に収めれば終了。安く出来た・・・

2014年11月24日月曜日

トヨタが発表したFCV(燃料電池車)「MIRAI」は、FCの特性とバッテリーのいいところを先取りしていた


6月に説明会を受けて出した内容は、FCとバッテリー(ニッケル水素は正しかった)によるレンジエクステンダーだと考えたが、実は判断が少し甘かった。

それは当然のことで、大きなバッテリーを搭載するわけではないので、EV走行がメインということはありえない。そうなると、ハイブリッドで、エンジン+発電機の代わりに燃料電池(発電装置)からバッテリーとモーターへ電気を送るシステムだということがわかる。

プリウスのようなハイブリッドとも違って(それは当然。エンジンではないので直接駆動力を生むわけではないのだから)、あくまでもモーターによる走行となる。バッテリーだけでの走行が可能なのはプリウスと同じだ。

では、搭載するニッケル水素バッテリーは何に使うのかというと、発進・加速時など大きな電流を必要とするとき。その要求される電力を燃料電池から一気に取り出すと(発電させると)、負荷変動が大きいため燃料電池にダメージが加わる。

燃料電池の耐久性が損なわれるから、このようにして、直接燃料電池からの発電電流だけを使用して走行していない。数十年前の試作段階では燃料電池からの電流を直接モーターに与える方式を取っていたので、少しアクセルに対する反応も遅かったが、駆動用バッテリーが搭載されれば話は違う。

アクセルを踏んだ瞬間の電流をバッテリーが請け負い、そこに燃料電池からの発電電流を加えることで、更にモーターを回す電力が生まれ、加速力が増す。

搭載するニッケル水素バッテリーは2.5リッタークラスのハイブリッド用を流用しているそうだ。そのバッテリーを効率よく充電するために、FC昇圧コンバーターを取り付け、燃料電池で発電した電気を650Vに昇圧する。

リヤシートとトランクの間に駆動用のニッケル水素バッテリーを搭載する。水素ガスボンベはトランク内とリヤシート下側
 
高電圧によるモーターの小型高速回転型は最新のプリウスと同じ考え。これによって、燃料電池スタックのセル数を少なくすることが出来て、コストの低減が成り立った。

販売価格は670万円(消費税抜き)。消費税込みだと723万6千円。販売台数は2015年末までに400台だが、2014年11月18日現在、確定注文代数は、自治体、大手企業がほとんどで、一般からの注文は少ないという。販売開始は2014年12月15日だ。

全てが手作業での組み立てになるため、生産台数は非常に少ないようだが、これで近い将来、現在のハイブリッド並みに普及させることが出来るのか疑問に感じてしまう。

ところでトヨタが発表会を行う前日の11月17日に、急遽説明会を行ったホンダは、翌日発表されたトヨタのシステムと販売価格について、どのような感想を持っただろうか。ホンダが搭載するバッテリーにこだわって、リチウムイオンを使えば、コストは高い。

そして、燃料電池から駆動バッテリーに充電する方式だとしても、その電圧をどこまで高めるのが高効率なのか、高電圧モーターとして回転数を高くし(回転を高くすると消費電流が少なくなるので、その分トルクは小さくなるのだが・・・)、それをギヤで減速することにより駆動トルクを稼ぐ方式は、ホンダとしては実績が薄い。

トヨタの場合プリウスでの実績は、このようなところにも生かされているが、ここまで来るのにどれほど右往左往したことか。しかし、その右往左往した部分がトヨタの場合でもFCVに全て当てはまるとは限らない。完成形は多数のユーザーの手に渡って、ありとあらゆる使われ方の試練を受け、それからであるような気がする。

また、トヨタは水素ステーションについて、国の方針に沿ったものとしているが、ホンダは違う。スマート水素ステーションを、さいたま市に設置した(これまでアメリカでは太陽光パネルなども使って実験的に行ってきた)。

ホンダ独自のコンプレッサーが不要な高圧水分解システムを採用したもので、圧力は35MPa。車両のボンベ最大圧力の半分ほど。インフラ整備も大事だが、その前にクルマが巷に出なければ、そのインフラは誰のため?

2014年11月15日土曜日

不定期連載 数式を使わない、クルマの走行安定性の話・5/17


サスペンションメンバーを使えば、外力を分断して計算出来る

最近のクルマには、サスペンションメンバーを採用することが多くなってきた。このメンバーを取り付けることで、サスペンション全体の剛性を高められた、という話を聞くが、これに対する考え方は少し違って、剛性だけではない。メンバーを採用すると言うことは、応力をそこで寸断できることを意味する。つまり、サスペンションアームから入り込んだ外力に対する計算を分断できる。

外力を分断できるということは、ねじりや曲げの力に対するボディ剛性とも関係する。それは、ある程度のボディ剛性を持ったものに対して、サスペンションメンバーを高剛性に造り、それに併せてサスペンションアームを造った場合でも、ある一箇所から入った外力をボディに伝えることなくブッシュのストロークと、各アームのたわみで処理し、サスペンションを設計値どおりに作動させることが可能になる。

また、外力を他のサスペンションメンバーに伝えないということは、ボディに対するゆがみや、前後アライメントの狂いは発生しないわけで、クルマは直進安定性が高くなる。つまり、極端にボディ剛性を高めた場合と同じこと。初代ゴルフに見られたボディ設計とその直進安定性からも分かる。もちろん、高速安定性にはそれまでの日本車では考えもしなかった秘密があった。それは、フロントサスペンションの高速走行時に発生するアライメント変化を利用したもので、これについてはあとで説明する。

どれくらいの力が、どのように及ぼすか分からないときには、前記ように分断し、それぞれ独立して設計をする。このようなことは建設、特に橋梁には当然のこととして行われる。それは、橋桁と柱の取り付けに関してである。

一見すると一つの橋梁で、橋桁は1本につながっているかのように見えるが、実は柱間にかかる橋桁を1スパンとした、同じもののつながりなのである。あくまでも柱と柱の間だけにかかる橋桁だけで、どのような荷重が掛かり、その荷重が移動していったとき、どのように橋桁がたわむかの計算を行う。ごく単純な荷重の計算であり、後は地震に対するマージンを上乗せすれば事足りる。そして、造られた橋桁は、落下しないように片側だけ柱に取り付けられるが、あくまでもピンによる取り付けで、たわみを吸収する構造。反対側の柱に対しては、固定するものは何もなく、自由にスライドする。

両側ともにピンのないものもある。そのような構造の場合には橋桁の上に乗る道路や鉄道の道床が、橋桁のずれを防ぐような取り付けを行う。

では何故一つの橋梁で、橋桁を1本につないではいけないのだろうか。それは、一箇所に掛かった荷重が、柱を支点として、そこに掛かっている、全ての橋桁と柱に対し、影響を及ぼし、その結果、上からの単純な荷重ばかりでなく、支点による逆の、下からねじり上げられる力も入るからだ。

当然用件は無限大にある。そして、作用反作用の応力に対する計算はとてつもなく莫大な量でむずかしい。もちろんそれに対する橋桁の構造はとてつもなく巨大なものとなる。柱と柱の間が全て埋め尽くされる構造、言ってみればダムのような形になってしまう。ところが、1スパンだけの構造計算であれば、ごく単純に終わり、構造も単純になる。

この考えを元にしてクルマのボディ構造と、サスペンション構造を設計すれば外力/応力をうまく分散するようなクルマの設計が出来るはずである。そのひとつの現れが、サスペンションメンバーを採用した方法といえるのではないかな。なお、メンバーとボディとの取り付けは、ボルトによるダイレクトな締め付けであっても、あるいはブッシュを使っていても、必要な目的は達せられる。ただし、ブッシュを使った方が、より分割した外力に対する計算がしやすいと思う。

2014年11月8日土曜日

スズキCARRYのオートギヤシフトに乗ってみた


現在、世界最高のギヤミッション・オートマチックだ

軽トラックでもトルクコンバーターを使用したAT(ステップAT)はあるが、どうにも効率は高くないし、駆動力は力強さという点から、現場で酷使される軽トラックとしては魅力が薄い。

同じ仕様であると販売価格が3ATと同じ。そして、JC08モード走行燃費は5AGSが一番いい。ただし、それが使用時の燃費と結びつくわけではないが、全体的にいい方向へ行くことは確かだ

機械的な精度と、それを働かせる制御がマッチングすれば、ステップATに負けない、ギヤミッション・オートマチックが出来る。それを証明したのがスズキキャリイに搭載された5AGSだ

やはり、ダイレクトに駆動が伝わるMTが求められるのだが、今ではAT限定免許という方が多い時代。

そのような背景もあって生まれてのが、ギヤミッションのシフトをオートマチックにするというもの。

欧州メーカーではかなり前から、このギヤミッション・オートマチックを採用しているが、アップシフトするたびに加速力が大きく抜けるため、身体をドライバーの運転方法にかかわらず、前後に揺す振られ、決して乗り心地がいいものではなかった。

だからといって、軽自動車ならこのようなシフトの悪さが許されるはずも無く、ツインクラッチとはいかないまでも、昔のステップAT(電子制御される前の話)並みか、それ以上が求められる。そして開発されたのが、スズキ・キャリーに搭載された5速オートギヤシフト(5AGS)である。

その結果、さすがに気持ちがこめられている。発進加速の最中でもシフトのたびに発生するはずの、不快な加速力の変化を感じさせないのだ。

アクセルを少し踏んでの発進加速は当然だが、一番変化の出易いアクセル半分踏みでの発進加速でも、非常に素直で、文句のつけようが無い状態。それこそ、一昔前のステップATよりも加速力の変化が無いぐらいである。

今、世界で一番のギヤミッションATがスズキのキャリイに搭載されている5AGSと断言できる。こいつを超えられるメーカーは出るのだろうか、楽しみである。

欲を言わせてもらうなら(開発者には話したが)、マニュアルモードでのシフトは、もっと素早く出来ないのか、それによるショックが出ても当然のこととして受け入れられるので、ドライバーの意思を優先し、スパッとシフトアップ、シフトダウンが望ましい。

このマニュアルモードにおいても、オートモード同様にショックの無いことを重視しているということだったが、それは違うように思う。

MTでのシフトダウンは、エンジンブレーキを重視したいことから、クラッチを繋いだときのショックは出てきて当然であり、スムーズにクラッチを繋ぐようなことをやっていたら、空走時間と距離により速度が速くなって、エンジンブレーキどころではなくなるからだ。そう考えれば、オートギヤシフトのマニュアルモードでも、同様なプログラムは必要と判断した。

そういえば、トヨタが10年以上前に発売していたMRSのクラッチペダルレスでは、ギヤミッションでありながら、クラッチは電子制御であっても、ギヤシフトはマニュアルモードのみ(オートモードは開発していたが完璧ではなかったという)。

アクセルを踏んだままのシフトでも、インジェクターの制御と点火時期の制御で、違和感のある大きなシフトショックは無かったと記憶する。電制スロットルが採用される前でこれが出来たのだから、現在の技術を使えば、MRS以上のマニュアルモードによるシフトが完成できても不思議ではないだろう。

2014年11月7日金曜日

新型マツダ・デミオの1.5リッターディーゼルは、2.2リッターエンジン開発とは違った苦労があった


デミオクラスに搭載されるディーゼルエンジンであれば、1.5リッターとなることは自ずと判断できるのだが、ただ単純に排気量が小さなエンジンを造れば済むようなことではない。それがガソリンエンジンとポスト新長期を目指したディーゼルエンジンの大きな違いである。
新開発の1.5リッターディーゼルエンジン。マーケットは日本ばかりではない。アメリカでは魅力を感じてもらえないので、輸出するつもりはないという話だ
 
当然、Noxは後処理なしで、2.2リッター同様に基準値以下。アメリカ輸出のため2.2リッターではEGRの量を増やして対応しているが、1.5リッターとしてはアメリカ輸出を考えていない。それは、排気量が小さいと(アメリカ人は多少燃費が悪くても、とにかく大きなトルクを要求するので)、いくらディーゼルの燃費が良いからといって、購入する気持ちが働かないからだという。


もちろん先輩である2.2リッターエンジンがあるから、それと同等の燃焼効率で軽いフットワークを望まなければ話は簡単だが、それでは許されない世界をマツダ自身が作り上げてきた。

製造コストもそうであるが、小さなエンジンルーム内に収めるには、2.2リッターエンジンでやってきたことの一部を大きく変更しなければならなくなる。それがインタークーラーの取り付け場所と形状である。

すでに欧州メーカーでは取り入れているが、吸気コレクターの容積を上げ、そこに水冷式のインタークーラーを取り付けるという方法を採用した。排気量の大きなエンジンでは効率が悪くなる状況でも、1.5リッターであるなら、十分高い冷却効率とスペース効率、充填効率を確保できたのである。

吸気コレクターの中に納められた水冷式のインタークーラー。コンパクトであるだけではなく、過給パイプも短くなり過給遅れが小さいのも特徴
 
また、吸気マニホールドとターボコンプレッサーを繋ぐパイプが短くなるため、過給圧の上昇が早く、過給遅れの症状が小さくなることも見逃せない。

最大過給圧は2気圧でインジェクターの最大噴射圧力は2000気圧。これは2.2リッターエンジンと同じ。ただ大きく違うのはインジェクターの駆動がピエゾ素子からマグネット式に変更されたこと。それによるコストダウンはかなりあるというが、求める性能は十分で、インジェクターとしての作動インターバルはピエゾが0.1mmS(ミリ・セカント)であるが、新開発のマグネット式は0.2mmS。これまでのマグネット式では0.4~0.5mmSであったことからすると、大きな飛躍であり、噴射パターンを少なくしても排気ガス問題も起こらず、燃焼音も小さいので問題は出ていない。

下が1.5リッター用に開発したマグネット式のインジェクター。作動インターバルはピエゾに及ばないが、目的の噴射パターンには対応している
 
インジェクターの作動は大半が5パターンで、DPF再生の時には6パターンとなる。通常の噴射パターンはパイロット・プレ・プレ・メイン・アフターである。

ターボチャージャーは2.2リッターのようなシーケンシャルツインではなく、シングルで、それにVG(バリアブル・ジオメトリー)採用とした。

タービンに排気ガスが当たる角度を自由に調整できるVGターボの利点を生かし、冷間時始動ではVGを全閉とし、部分燃焼した排気ガスが行き場を失い、これをシリンダーに押し戻すことで、初期の圧縮温度を高め、始動を確保している。2.2リッターのような排気バルブを一時的にリフトして、吸気行程でその排気ガスを引き込むというような機構は採用していない。

VG付きのシングルターボ。バルブを完全に閉めることで、冷間時の始動性を確保した
 
また、排気量の関係で冷却損失が大きいため、圧縮比は2.2リッターの14よりも高い14.8にせざるを得ない状況になっている。

さらにシリンダーボアが小さくなることで、これまでの技術では追いつかない状態が出たため、ピストン頂面の形状を変更することによりこれを改善。

何が起きていて、それをどのように改善したのか

燃焼室(ガソリンエンジンとは違ってピストン側にある凹み)の形状こそ2.2リッターエンジンからの踏襲したエッグシェイプだが、マツダのSKYACTIV-Dは上死点燃焼を目標としている関係で、燃焼室上部端面からシリンダー壁面までの距離が小さいと、ピストンが下がる前に燃焼ガスの初期火炎がシリンダー壁に当たり、シリンダー壁面熱損失が発生するため、燃焼室に近いピストン頂面の一部を削り、段付きとしてこれを抑制。

右が1.5リッターディーゼルのピストン。ピストン頂面を見れば、段付きの形状がわかるだろう。これで効率を高めている。左が2.2リッターのもの
 
また、インジェクターからの噴霧を出来るだけ小さく飛ばし、燃焼初期の高温ガスを、出来るだけ燃焼室壁面から離すことで壁面熱逃げを抑制し、燃焼効率を高いものとした。

これによるトルク特性は、2.2リッターのような山型ではないものの、5200回転まで気持ちよく回るエンジンにより、十分に楽しめるエンジン特性を得ている。
1.5リッターディーゼルエンジンの上にカバーが付くとこうなる。エンジン音の低減だけではなく、見た目にもバランスがいい

カバーを取り外すとこのように。ゴムのグロメットに押し込まれているだけの固定なので、引き上げれば簡単に取り外せる

2014年11月2日日曜日

点火プラグの締め付け後における接地電極の向きについて、えっ、考えていなかったの、という状況が見える


これまで、点火プラグの締め付け後における接地電極の位置によっては、アイドル時の失火に結びつくようなことが起きるので、そのような条件にならないプラグを選んで、取り付けると良い方向に行くということを書いてきたが、それがどうも、そはうまくは行かない、ということがわかった。

つまり、数十年前にトヨタが「アイドル時の不安定燃焼を防ぐため、プラグメーカーに対して、接地電極の位置とネジの関係を統一させた」事が大きく関係していたのだ。

自動車メーカーがシリンダーヘッドの加工をするときに、プラグのネジ切りに関して、常に同じ位置から切り始めれば、プラグメーカーが作る点火プラグの接地電極位置と、燃焼で都合の良い状態は作り出せる。

それは、接地電極の開放している側(溶接部分の逆)が、吸気バルブ方向を向くようにすること。

点火プラグをしっかりと締め付けた後、接地電極の開放している側が吸気バルブ方向を向いていれば、混合気が点火プラグの電極間を流れる確率は高くなり、失火や斑な燃焼を引き起こすことがなくなりやすい。

特に回転数が低い領域では、タンブル(縦の渦)やスワール(横の渦)の発生が少なく、条件が悪い。

その条件の悪さを少しでも解消したい、というのが趣旨である。

さてここでよ~く考えてみると、点火プラグはどれも基本的に同じ位置に接地電極がある。N社は確認(画像でもわかるだろう)、D社は未確認。

このように、ふたつの点火プラグは、ほぼ同じネジの位置に接地電極が溶接されている。なので、点火プラグをしっかりと(ここ大事)締め付けてから、電極の開放側が吸気バルブ方向を向いていなかったら(完全でなくともいい。前後60度ぐらいはOKの範囲)、新品の点火プラグをいくつ購入しても、求める状態にはならない。その対策は、シム(極薄のワッシャ)を自作するか、ショップで購入して、点火プラグを取り付けるときに、標準ワッシャとの間に挟んで取り付けて解決する
 
ということは、もし今取り付けられている点火プラグの電極の向きが芳しくない場合、いくら新しい点火プラグを購入しても、求める位置に点火プラグの電極位置は来ないということ。

全てのバイクと自動車メーカーがこのことに対して、まじめに取り組んでいるわけではいないので(品質のことから考えても損だと思うのだが)、このようなエンジンに遭遇したときには、自分で解決するしか方法が無い。

そのときには、自分で薄いアルミ板や銅板を用いて作るか、チューニングショップ(カー用品店でもありそうだが)で販売している、専用のシムを購入して挟み込む。

点火プラグのネジピッチはBとDが1.25mmでCが1.0mmであるから、それを計算して挟み込むシムの厚さを計算すれば良い。

この方法で、ほぼベストな向きに点火プラグの締め付けが完了したことで、アイドル回転近くから穏やかに発進するとき、不意に発生していた、大きなミスファイヤーも無くなり、安心して走行できるように改善できた。

特にバイクで排気量とシリンダーボアの大きな2気筒や1気筒のエンジンにおいて、発進時にミスファイヤーやパスエンスト(パスッと言ってエンストするから)が出ていたら、この方法で解決出来る可能性は高い。

2014年10月25日土曜日

不定期連載 数式を使わない、クルマの走行安定性の話・4/17


荷馬車の車軸はガタガタが正しい!!!

もうひとつ面白い現象を考えてみよう。それは馬や牛が引くに馬車である。この荷馬車に付けられる車輪は、車軸に対してかなりガタガタである。人間や自転車で引くリヤカーにはボールベアリングが採用されていたにも関わらず、荷馬車の車輪はガタガタで、トーやキャンバーが常に変化する状態に取り付けられている。

これがいったい何を意味するものなのか、車輪の挙動変化や牛の動きを見てみるとなにかが分かる。例えば、どちらかの車輪が石などに引っかかり、動きが一瞬止まったときなど、このガタガタ車輪はトーがアウトになったりインになったりして、受けた外乱を処理しながら荷重の移動を行い、車体の姿勢変化もなく荷馬車は向きを変えることなしに前進する。

ところが、この車軸をボールベアリングで支持したとたんに、彼らは荷馬車を引かなくなる。もちろん衝撃荷重が強く作用すると、ベアリングが破損してしまうことにもなるのだが、そのような問題が発生する以前での話だ。なぜかというと、衝撃的に入る外乱の処理能力が、ボールベアリングの採用で失われたからである。

もちろんここに細い空気入りタイヤが使われていたら少し状況は違ってくる。空気入りタイヤがある程度までの衝撃的外乱は処理してしまうから、荷馬車の走行性にそれほど影響を与えないだろう。

ではなぜ彼らは荷馬車を引くのをやめたのであろうか。それは、車軸のガタがなくなり衝撃的な外乱を処理できなかった反動が、車体に伝わり、前方にのびたアーム(鞍に取り付けて、荷重と牽引力がかかる)がかれらの脇腹を叩くき、その痛みに耐えきれず牽引するのをやめると考えられる。

速度としてはわずか45km/hでのことであるが、車輪は堅くダイレクトな動きとなるために、より強調されることになる。こんな低速車にも、外乱の処理をする必要がある。

馬による牽引車では以下のような状況も見られる。それは、イギリスやフランスの競馬にあるもので、馬に騎手が直接乗るのではなく、小型の馬車を引き、そこに騎手が乗タイプのもの。この馬車に使われるタイヤは、細いが空気入りのもの。車輪とスピンドルは、当然のようにボールベアリングかテーパーベアリングである。走路はハードコートで、舗装ではなく泥と砂を混ぜて固めたもの。当然馬のひずめ等による凸凹や車輪による轍がある。

ここで馬車を走らせれば、路面からの外乱処理が問題になる。しかし、馬車には外乱処理のシステムは取り付けられてはいない。もしここで、馬と騎手だけによる走り方と同じ襲歩(しゅうほ・ギャロップ)としたら、たちまちのうちに馬も馬車も横転するだろう。とにかく、前後左右の足が同時に浮き上がっている状態が、入れ替わりに生じるので、当然のことといえそうだ。

つまり、あくまでも外乱は処理されていない訳で、その力をどこかに分散させてしまうか、あるいは押さえつけてしまうかである。あの馬車の場合、分散させることは難しい、押さえつけるしかない。

そこで生まれたのが、あの一見優雅に見える馬の走り方であると、勝手に結論付けた。その走り方をよく思い出してみると、必ず片側前後の足が同時に、しっかりと路面をとらえている。猫の早歩き方なのだ。つまり、馬車の車輪から入った外乱は、馬がそれを押さえつけてしまわなければならないわけで、あの走り方のテンポとしないと、押さえつけることはできない。ときどき見られる横転事故は、馬車に入り込んだ外乱が大きすぎたことによるものであったり、何かの拍子に、馬が両足を上げてしまったときに起きているように思う。

2014年10月15日水曜日

9月6日にアップしたBMWのX4カタログに出ていた、奇妙なクランクシャフトの結論が出た


このどうにも理解しがたいクランクシャフトの形について、BMW広報へ、調べて置いてくださるようお願いしていた。

その結果がやっと出た。

何のことは無い、少し面白いカタログにしようと、デザイナーが形をいじったというのである。

そこには「誰か気が付くかな」「気付くやつはいないかな」などの気持ちもあったでしょう、というのがBMW広報からの回答である。

実際のクランクシャフトは、ごく普通のワンプレーンで、1番と4番が同じ位置。2番と3番が同じ位置の等間隔燃焼ということだった。

デザイナーのお遊びに付き合ってしまった感じだが、それはそれで楽しかったな~。以上報告まで

2014年10月11日土曜日

不定期連載 数式を使わない、クルマの走行安定性の話・3/17


子供のローラースケートで間違えたセッティングをした

あまりにもお粗末な結論のために、日本車の操縦安定性に対する研究は、大幅に遅れることになったといえよう。ここで、もし基本的に、クルマの設計が悪いという結論になっていたとしたら、もっと早い時期に、まともなクルマになっていただろう。これがチャンスだったのである。

さらにおもしろい話を聞いた。いつ頃であったか忘れたが、日本のタイヤメーカーがメルセデスのバス用タイヤを造ることになったとき、これまでの日本のクルマメーカーから言われたことを重点にタイヤ造りをするつもりで、操縦安定性もその中に盛り込んだところ、メルセデスは「操縦安定性についてはこちらが性能を出すことで、タイヤメーカーが口を出すことではない」と、しかられたそうだ。そのタイヤメーカーに対して要求したことは、耐摩耗性と排水性(耐ハイドロプレーニング)であったそうだ。

ごく身近なところにもタイヤとボディをしっかりガタの無いように取り付けると走行性がおかしくなるものがある。例えば、子供達が使うローラースケートにおける、タイヤとスピンドルとのガタである。今はやりのインラインタイプではない、昔からあるタイヤが4個あるものでの話だ。

タイヤは、ゴムではなくプラスチックか木製。スピンドルとの間には玉押しボールベアリングが使われる。そして、取り付けナットはガタの調整が出来るようになっている。この堅いタイヤは、当然外乱をダイレクトに受けとめてしまう。

ある時、子供のローラースケートをいじっていた父親は、タイヤがガタガタで、ベアリングも油が切れていることを発見した。クルマのメンテナンスに自信のある父親は、そのローラースケートのベアリングアジャストナットを回し、ガタを完璧に取り、ベアリングにも適量のオイルを与え、音もなくスムーズにタイヤが回転するようにしてから、そのローラースケートを持って、子供と公園まで出かけた。

父親は、子供から「とても軽く走れて、スピードもでるし走りやすい」という言葉を期待していたのであるが、1周してきた彼からでた言葉は「とても走りづらくて、足首が疲れる」というものだった。

この状態から考えるに、つまりローラースケートのタイヤは、全ての外乱を処理できず、足に伝えてしまったのである。路面に散らばっている小さな石や凸凹は、ダイレクトにタイヤから伝わり、かつ子供の足の動きや荷重のかけ方が、そのままタイヤの向きを変えることになり、ローラースケートはあらぬ方向へ走り出すので、それを無理にコントロールしなければならず、ローラースケートは気持ちよくスイスイ走らないのだろう。

何が原因かは明らかである。父親が考え違いをしたのである。玉押しのボールベアリングに対して、いくらオイルを注したからと言って、ガタの無いようにしてしまったことが、乗りにくさにつながってしまったのだ。適度なベアリングに対するガタが、ローラースケートを快適に走らせる必要条件であったわけだが、ここで与えたガタはかなりの量で、結果としてみるとタイヤの幅に関係するものであった。

もちろん再調整後に、子供の笑顔が戻ってきたのは言うまでもない。これまで以上に快適になったかどうかは定かでないが、文句を言わなくなったことだけは確かである。

スーパーマーケットでもある現象を見た。それは篭を載せるお買い物カートにおいてである。ここに使われるタイヤは、自由に向きを変える自在キャスター付きのものが4個。このキャスターにトラブルが発生して、自由に向きが変わらなくなるとある問題が発生する。

スーパーマーケットの中のフロアはスリッピーであるし、非常に平らであるから、トラブルを抱えたキャスターでも、押して歩くことに対してそれほど問題が発生しない。多少力は必要になるが、無理をすれば自分の思っている方向へ移動することは可能である。

ところが駐車場に来ると事態は一変する。それまで何とかコントロールできたお買い物カートはとんでもない方角へ向かっていく。スーパーマーケットの中では片手でも、何の問題もなく押せていたものが、グリップのいいコンクリート路面となると、両手を使いしっかり向きを決めておかなければ、止めてある車に接触してしまう。とにかく勝手な方向へ進んでしまうのだ。

ここに使われているキャスター付きのタイヤは、その性質上キャスター角ゼロとして転がり、外乱をうまく処理している。正常に作用しているお買い物カー(カート)のタイヤを見れば、非常な勢いで首を振っていることが分かる。この首振りこそ外乱を処理している結果であるといえる。首を振らなくなったキャスター付きのカートは、外乱の処理が出来ないために、路面次第で勝手に向きを変えることになるのだ。

しかし、タイヤ経が少し大きくなったタイプで見ると、ほとんど首を振っていない。タイヤ幅は同じで外周にゴムを張ってある。当然キャスターゼロ(つまり直角)でもトレールは大きくなる。この部分が影響するのであろう。しかし、首の振り方が悪くなると、かなり悲惨な走り方となる。それは、いくら路面がフラットであっても、お買い物カートのコントロール性が非常に悪く、押して歩くことさえ大変となるのである。

2014年10月9日木曜日

本田エコマイレッジチャレンジの二輪車クラス車両規定が、2014年大会でやっとチグハグではなくなった


二輪車クラス(昨年までは市販車クラス)の規則は、下の文章のようなしっかりとしたもので、基本的に市販認定時の型式を変えてはいけない状態。

右の赤い文章が今年改正された車両規則。これで良いとはいえない。と言うのは、フレーム形式を変更しなければOKなので、アルミで同形式のものを作り、それで参加する、と言うようなことが起きそうだからだ。気軽に普段乗っているバイクで、燃費を争いましょう、と言う趣旨がおかしくなることは十分考えられると思う
 
全長、全幅、全高、シート高などの変更は認めない、というものだが、フェンダー前後やレッグシールドなどは取り外してもかまわない。

この取り外しが・・・で、それぞれ解釈が大きく違っていた。全長の変更はダメ、ということになっているが、一部のバイク以外、リヤフェンダーを取り外す(場合によっては切断)と全長が変わるのだが、それのおとがめはない。

諸元を重視するのか、取り外し項目を重視するのか、かなりいい加減な状態で車検が行われていた。

この状態で腹が立ったのは、2013年に見たもの。リムをアルミにしたチームのバイクを正式参加させない、という競技役員とのやり取り。公平を期するためというが、規則にはリムの材質変更を認めない、という項目はない。まして、認定時諸元に抵触することはないからだ。

公平を最優先するなら車両規則どおりにすべきであり、リヤフェンダーを取り外したり、切断して全長が短くなったバイクは、正式参加(燃費記録は参考値になる)させてはいけないはずだ。

これを正しい方向へするべきである、ということを競技委員長へ申し込みしておいたら、1年、間が開いて今年の車両規則で変更された。

今年は二輪車クラスの参加者が増えた。とても良いことだと思うが、行き当たりばったりでは無く、方向性をしっかりと決めた車両規則で、それを正しく運用しないと、趣旨がどこかへ行ってしまいそうだ
 
要するに、うるさいことは無くなり、大まかな車両規定になったのだ。これならタイヤサイズを変更しないでアルミリムの装着は可能であるし、シートを取り外したり、ハンドルの変更、全幅に関係するフットレストの取り外しなど、やりたい放題が可能となって楽しさ倍増!!!???。しかし、どのような形でも良いので、安全面からフットレストは装備させたほうが良いように思う。

2014年10月5日日曜日

本田エコマイレッジチャレンジ2014で見た、とんでもない光景


とんでもない光景とは、燃料であるガソリンが入る、ガラスの容器(主催者が用意する)のレベルを最終的に調整する、燃料微調整場所で練習走行日の土曜日に見たもの。

なんと、微調整で使用するガソリンが、オイルジョッキに入れられ、無造作にテーブル上に置かれているのだ。

運営組織が変わってからの燃料微調整場所。テーブルの上にボトルに注入するためのガソリンが、オイルジョッキに入れられ、無造作に置かれている。こうすることで、ボトルへの注入はやりやすいが、事故はその分起きやすい。作業性を優先するか、人命なのか、考える必要はないはず。この状態を運営組織が変わって最初のイベントで見つけられなかったのは、申し訳なかったのだが・・・でもこれ俺の仕事か~

もちろんこれが、密閉できる状態なら太陽の熱で暖められていないか、そのことは注意が必要だが、そうではなく、完全に開放状態。

誰かが、テーブルを突き飛ばしたとたん、そのオイルジョッキは落下し、周りにガソリンをぶちまける。隣ではエンジンを始動しているマシンもあるし、路面温度は高い、そこに工具でも落とそうなら、一巻の終わり。

火災になったとたん、周りの人は大慌てで、他のテーブルもひっくり返すことは目に見えているから、そこいらじゅうが火の海になる。

消火器は用意してあるが、常にそれを持っている人がいるわけではない。よって消火活動は出来ない。そこにいる全員が火だるまになるのは明らか。

そう考えたとたん、ぞっとすると同時に私は、その微調整エリアに近寄らないことを決めた。

直ぐに競技委員長へ電話を入れ(俺がやることではないのだが)、現場に来てもらい、状況を説明した。そして、現場のオフィシャルが言いうには「これまでの方法と変わっていません」。「昨年はテーブルの下にガソリンが入ったジョッキを置き、それを使っていましたが、誰かがそのジョッキを蹴飛ばし、こぼしたことがあったので、今年はテーブルの上に置いてます」。「運営組織が変わってから、同じ方法で、それまでのやり方は知りません」という返事。

あそ~ですか、で済ませるわけにはいかない。これでは事故が起きても当然であるし、起きないほうが不思議。起きなかったからラッキーは、イベントとして最低。

「何とかしたほうがいいよ」。ということを競技委員長に申し入れした結果、運営反省会で取り上げられ、決勝当日は燃料を注入するボトルへ給油する係りを決め、ガソリン携行缶からオイルジョッキへ移し、直ぐさまボトルへ注入。数多くのボトルが用意されていた。

ここまではよかったのだが、まだテーブルの上にはオイルジョッキにガソリンが入っている状態が見られた。これは、恐らく微調整で入れすぎたガソリンを抜く注射器が一杯になったものを、テーブルの上に無造作に載せられているオイルジョッキの中に放棄したものだろう。もちろん開放状態であった。

ガソリンの怖さを知らない人たちが、重要なポジションを支配していることに脅威を感じざるを得ない。

では、運営が変わる前の組織ではどうしていたのか、当時の運営関係者に聞いてみた。すると、やはり、当然、の答えが返ってきた。

「スポンサーとしてゼネラル石油をお願いしていたので、ガソリンの危険な取り扱いは、そのゼネラル石油から派遣されてくる方が携わっていた」「ゼネラル石油にしても、自分達がスポンサーしているイベントで何かあったら大変、という気持ちがあるため、確実にリスクは排除する方法を取っていた」「燃料微調整では、ガソリン携行缶に入れて必要な量を用意し、それをゼネラル石油のプロが、石油ポンプを使ってボトルに詰め、注射器で抜き取ったガソリンは、密封した容器に破棄する形をとっていた」

2005年、運営組織が変わる前の燃料微調整場所。オイルジョッキに入れたガソリンなど、どこにも見当たらない。それは当然、そのような安易な取り扱いをしていない。リスクを排除することは当然だからだ

これまで30回以上、この燃費競技会へは、いろいろな形の取材で訪れているが・・・

ガソリンの危険を知らない、或いは大丈夫、という安易な気持ちが、このようなやり方で進行していたようだ。

「燃料微調整場所で、タバコをすったり、テロ行為をするやつなんかいない」という気持ちは正しいと思うが、意図的ではないところで起きる事故、それを想定できないのは最低であると感じた。

2014年10月1日水曜日

不定期連載 数式を使わない、クルマの走行安定性の話・2/17

このレポートは、最初のタイトルを「数式を使わないサスペンションの話」ということでまとめていたが、結論からすると、サスペンションではなく、走行安定性になるので、タイトルを現在のものに変更した。(以後割愛)

内容は筆者が携わってきたバイクやクルマいじり、それ以外にも改良から製作、はたまた、各分野の技術者から得たヒントを織り交ぜ、経験などを加えて自分流にまとめたもの。数十年前に書いた部分もあるので、今では「化石」状態の部分も。面白い読み物、ぐらいの感じで目を通してほしい。(以後割愛)

 ミシュランXがノーパンクタイヤ!!?

ヨーロッパ車の事故車におけるボディ修整に求められる精度では、日本車のような高い修整精度を要求していない、と言うことは最初にも書いたが、その点については、日本の高性能ボディ修整機がヨーロッパでは必要とされないので、引き合いがない、とあるボディ修整機を売るメーカーが、フランクフルトで行われたアウトメカニカで話していたことを思い出した。

これはいったいなぜなのだろうか。アウトバーンのあるドイツでの話である。ボディ修整に精度がそれほど要求されないと言うことは、サスペンションパーツの取り付け点精度もそれに準じることになる。ということはそれよりも重要な部分で、クルマの走行安定性が保たれているということか?

日本車のように高いボディ修整を要求しない現実。つまり、タイヤをきちんと設計どおりに動かさなくては、走行安定性を得られない、と勘違いしているクルマメーカーのエンジニアが造った日本車に対して、如何にして、勝手に向きを変えようとするタイヤをコントロールするかが、挙動安定性に関係する、ということを重要視しているのがヨーロッパ車であると見ている。

クルマは路面からの不規則なタイヤの動きを、ボディに伝えないような設計とすることで、横風にも強くなる。というのは、タイヤはあるきっかけで(常に外乱を求めている)勝手に、自分の好きな方向へ行こうとするから、ある程度タイヤそのものを、遊ばせておく必要がある。この“いなし方”が難しいのである。

そのヒントとして前後左右のタイヤが、クルマの操縦安定性に対し、互いに頼らないような設計とすること、は重要なポイントではなかろうか。

また、なぜバイアスタイヤからラジアルタイヤに交換することで、それまでどうしようもなくハンドルを取られていたクルマが、安定して走るようになるのだろうか。その答えは、ラジアルタイヤは、路面からの外乱を受け付けない特性を持っているからだが、その素晴らしい特性に頼ったクルマ造りが考え物である。

日本のクルマメーカーは、ひとつのチャンスを無駄にしてしまった。というのは、1960年後半から始まったクルマの大衆化で、操縦安定性が問題になり始めた。それは、フロントサスペンションを独立懸架とするなどの他、クルマを小型軽量化したことによって発生する、ごく当然の結果であったのだが、それに対する回答は出せなかった。試行錯誤しているところへミシュランが1949年に開発していたラジアルタイヤに着目。

当時は、スチールベルトの入ったこのミシュランX(定かではないが1965年ごろから輸入され始めた)を、そのスチールベルトによって、刺さった釘が、タイヤをパンクさせない、ノーパンクタイヤである、というキャッチフレーズで販売されていたし、そのための見本として、輪切りにされたタイヤに刺さる釘は、見事?に突き抜けていなかった。

チューブレスであるが、当時はそれに対応出来るホイールもなく、チューブを入れて使用するなど、本来あるラジアルタイヤの性能は、完全に無視されていたわけである。それほど、タイヤに対する認識度がなかった。

しかし、日本のクルマメーカーは、このラジアルタイヤに目を付けた。ミシュランタイヤの技術者のレポートをまじめに読み、自分たちのクルマに、そのラジアルを取り付けたに違いない。そして、問題になっていた操縦安定性の悪さが、なくなっていたことにびっくりし、ひとつの結論を出した。それは「タイヤが悪い」、というものだった。

サスペンション・ジオメトリーとボディ剛性については考えていたが、それはあくまでもスタティックな状態での計算で、動的なものではなかったから、いざ動かしてみると、問題が出てくる。その問題となる種がどこに存在するのか、はたまた、その種はどのようなことに発展するのか、殆ど分かっていなかったように思われる。

カマボコ道路を走行すれば中央方向(右)にハンドルは取られ、それが不規則に連続する道路では、安心してハンドルを握っていられない状態が続く。これが何故起きるのか、分かっていれば、ある程度解決の策はあったのだが、そこに到着する前にミシュランのタイヤが登場した。

では、何故カマボコ道路ではハンドルが取られるのかと言うと、それはキャンバースラストが強く発生するからである。サスペンションが作動することによって、あるいは作動しなくても、その路面形状になれば、アライメント(静的も動的も)の変化でキャンバーが変化し、それに合わせてトーの変化が出る。これを無視してサスペンションやボディを設計すると(当時は見よう見まねで設計していたから、本質を理解していない)、バイアスタイヤではトレッドが路面形状に合わせて接するため、タイヤの周長が変わり、短い周長(直径が小さい)方向へタイヤは移動しようとするが、そこへ更にトーが加わると、これこそキャンバースラストとなり、強い力でクルマの向きを変える。それも、左右のタイヤで勝手に突如として発生するから、走行性は最悪になる。

キャンバースラストとは、バイクや自転車のコーナリングで発生し、これがないとコーナリングは出来ない。絶対に必要なものなのだが、バイクや自転車では必要でも、クルマではいらない力となる。これを発生させないようにサスペンションとそれを取り付けるメンバー、ボディなど総合的に造らないと、安定性の高いクルマはできない。

2014年9月20日土曜日

不定期連載 数式を使わない、クルマの走行安定性の話・1/17


このレポートは、最初のタイトルを「数式を使わないサスペンションの話」ということでまとめていたが、結論からすると、サスペンションではなく、走行安定性になるので、タイトルを現在のものに変更した。

内容は筆者が携わってきたバイクやクルマいじり、それ以外にも改良から製作、はたまた、各分野の技術者から得たヒントを織り交ぜ、経験などを加えて自分流にまとめたもの。数十年前に書いた部分もあるので、今では「化石」状態の部分も。面白い読み物、ぐらいの感じで目を通してほしい。

 
昼になったから食事に行こう

走行安定性を分析するのは、エンジンよりも難しい。いくらコンピューターが優れている時代になっても、解析をするための用件が多すぎるからだ。サスペンションだけではなく、取り付けられるメンバーやボディ形状、剛性まで関係してくる。難しい公式など、いくら紐解いても、さらに難しい領域に入り込むばかりで、少しも理解出来なくなる。

また、公式を列記しても、計算上では解析出来るが、実際とは大きく違う。そのあたりのことについて、クルマメーカーのエンジニア達は十分理解しているのだ。そこで、読めば何となくわかるような気がするレポートとして、「数式を使わない、クルマの走行安定性の話」をまとめてみた

話は数10年前にさかのぼるが、ヨーロッパにおけるヨーロッパ車のボディ修整では、特にサスペンションの取り付け部分に対して、日本車のように高い取り付け位置の精度を要求されていない、ということを聞いた。

これはつまり、タイヤをきちんと、設計値どおりのジオメトリーで動かさなくてもクルマの安定性が保てる、というひとつの現れだろう。対して、日本車は限りなく設計値どおりに動かすことを目標に、ボディ修整を要求されていた。しかし、ここにはボディ剛性とサスペンション設計、ゴム・ブッシュの使い方の違いによる、考え方が大きく関係しているように思えた。

考えるにヨーロッパ車は、如何に自由にタイヤの動きを使いながら、それをコントロールすることが重要である、に開発・設計のポイントが置かれているような気がしてならない。

ヨーロッパにおける、優れたクルマ造り(この場合デザインは含まない)をするメーカーは、サスペンションをどのように作ればいいか、ということがわかっているとも取れる。

取り付け点の位置、サスペンション剛性とボディ剛性の関係、しなやかに外乱を処理するために採用するゴム・ブッシュの使い方など、当然のことをデータとして持っている。そのために、新型車を作るときでも、サスペンション設計に必要以上の時間はかからない。もちろん、実験においても同様であり、開発実験ではなく、確認実験であるかのようだ。

それに引きかえ1980年代の日本車は、どのようにサスペンションを作ったらいいのかわかっていなかった。クルマ毎にサスペンション型式を変え、絶対寸法まで変えてしまうわけだから、新型車を開発する度に、全てのデータがゼロからスタートすることになり、同じ過ちを繰り返すこともある。ところが同じディメンジョンとジオメトリーのサスペンションを使い続けることで、問題点を克服できることもある。もちろん何が問題なのかが分かってなければダメだが。

ヨーロッパ車も日本車も目標とする走行性は変わらない、と考えていいが、設計の段階からどう作ればこのクルマはこうなる、ということがほぼわかっていると思われるのに対して、日本車は作ってみるまでわからない。つまり何をどうしたらどうなるのかが、皆目分かっていなかった時代だった。

面白い例えとしてこう考えた、ヨーロッパ車の場合は、「昼になったから、食事に行こう」。それに対して日本車は「昼か、はらがへった、どうしたらいいのか」と、研究員達がディスカッションして、「これは、どうやら食事に行かなければいかんのだ」というような結論をだす。ただし、ここに出す結論が食事になるか、食料品の買い出しか決まっていない。

外乱をうまく処理し、安定してドライバーとの対話が出来るサスペンションとするには、確かな剛性を持つボディと、同様に優れた剛性を持つサスペンションに関わる全てのパーツ、ゴム(ピロー)・ブッシュの使い方、そして、サスペンションのデザイン、つまりジオメトリーをどうするかである。更に重要なのは、その動的作動の軌跡が、設計値に限りなく近くなるかどうかだ。

以下、不定期で次号