研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2014年9月20日土曜日

不定期連載 数式を使わない、クルマの走行安定性の話・1/17


このレポートは、最初のタイトルを「数式を使わないサスペンションの話」ということでまとめていたが、結論からすると、サスペンションではなく、走行安定性になるので、タイトルを現在のものに変更した。

内容は筆者が携わってきたバイクやクルマいじり、それ以外にも改良から製作、はたまた、各分野の技術者から得たヒントを織り交ぜ、経験などを加えて自分流にまとめたもの。数十年前に書いた部分もあるので、今では「化石」状態の部分も。面白い読み物、ぐらいの感じで目を通してほしい。

 
昼になったから食事に行こう

走行安定性を分析するのは、エンジンよりも難しい。いくらコンピューターが優れている時代になっても、解析をするための用件が多すぎるからだ。サスペンションだけではなく、取り付けられるメンバーやボディ形状、剛性まで関係してくる。難しい公式など、いくら紐解いても、さらに難しい領域に入り込むばかりで、少しも理解出来なくなる。

また、公式を列記しても、計算上では解析出来るが、実際とは大きく違う。そのあたりのことについて、クルマメーカーのエンジニア達は十分理解しているのだ。そこで、読めば何となくわかるような気がするレポートとして、「数式を使わない、クルマの走行安定性の話」をまとめてみた

話は数10年前にさかのぼるが、ヨーロッパにおけるヨーロッパ車のボディ修整では、特にサスペンションの取り付け部分に対して、日本車のように高い取り付け位置の精度を要求されていない、ということを聞いた。

これはつまり、タイヤをきちんと、設計値どおりのジオメトリーで動かさなくてもクルマの安定性が保てる、というひとつの現れだろう。対して、日本車は限りなく設計値どおりに動かすことを目標に、ボディ修整を要求されていた。しかし、ここにはボディ剛性とサスペンション設計、ゴム・ブッシュの使い方の違いによる、考え方が大きく関係しているように思えた。

考えるにヨーロッパ車は、如何に自由にタイヤの動きを使いながら、それをコントロールすることが重要である、に開発・設計のポイントが置かれているような気がしてならない。

ヨーロッパにおける、優れたクルマ造り(この場合デザインは含まない)をするメーカーは、サスペンションをどのように作ればいいか、ということがわかっているとも取れる。

取り付け点の位置、サスペンション剛性とボディ剛性の関係、しなやかに外乱を処理するために採用するゴム・ブッシュの使い方など、当然のことをデータとして持っている。そのために、新型車を作るときでも、サスペンション設計に必要以上の時間はかからない。もちろん、実験においても同様であり、開発実験ではなく、確認実験であるかのようだ。

それに引きかえ1980年代の日本車は、どのようにサスペンションを作ったらいいのかわかっていなかった。クルマ毎にサスペンション型式を変え、絶対寸法まで変えてしまうわけだから、新型車を開発する度に、全てのデータがゼロからスタートすることになり、同じ過ちを繰り返すこともある。ところが同じディメンジョンとジオメトリーのサスペンションを使い続けることで、問題点を克服できることもある。もちろん何が問題なのかが分かってなければダメだが。

ヨーロッパ車も日本車も目標とする走行性は変わらない、と考えていいが、設計の段階からどう作ればこのクルマはこうなる、ということがほぼわかっていると思われるのに対して、日本車は作ってみるまでわからない。つまり何をどうしたらどうなるのかが、皆目分かっていなかった時代だった。

面白い例えとしてこう考えた、ヨーロッパ車の場合は、「昼になったから、食事に行こう」。それに対して日本車は「昼か、はらがへった、どうしたらいいのか」と、研究員達がディスカッションして、「これは、どうやら食事に行かなければいかんのだ」というような結論をだす。ただし、ここに出す結論が食事になるか、食料品の買い出しか決まっていない。

外乱をうまく処理し、安定してドライバーとの対話が出来るサスペンションとするには、確かな剛性を持つボディと、同様に優れた剛性を持つサスペンションに関わる全てのパーツ、ゴム(ピロー)・ブッシュの使い方、そして、サスペンションのデザイン、つまりジオメトリーをどうするかである。更に重要なのは、その動的作動の軌跡が、設計値に限りなく近くなるかどうかだ。

以下、不定期で次号

2014年9月13日土曜日

新しいエネルギーが加わりバージョンアップされたスズキ・ワゴンR


ワゴンRがハイブリッド仕様になって登場した、といっても過言ではないシステムを搭載してきた。それは、オルタネーターをモーターにも使う、マイルドハイブリッド方式の採用。ニッサンセレナでは一部の仕様ですでに確立させているが、軽自動車となると、どこのメーカーも「只今考え中・・・」で止まっていた。さすが先を行くスズキ(ゴマ摺りではない)、それをやってのけた。


スティングレーに試乗。明らかに、軽自動車の高級モデル、と言える部類だが、価格が気になるところ

それまでも、エネチャージという名称で、減速時を重点にオルタネーターの発電を、搭載するリチウムイオンバッテリーや鉛バッテリーへ蓄える方式により、加速時のオルタネーター負荷を低減。それによってエンジンの駆動効率を高めて、燃費と動力性能を引き上げていた。

このシステムを更にバージョンアップしたのが、今回のS-エネチャージである。オルタネーターをスターターモーターにも使うことにより、アイドリングストップからの再始動では、セルモーターのピニオンギヤとリンクギヤ、更にギヤからの唸り音など、不快な音がなくなることで、非常にドレッシーなアイドリングストップを実現することとなった。

そして、そのモーター(12V1.6kW)を加速時のアシストに使用し、動力性能をアップするのではなく、燃費アップの方向へ使ったのである。そのことが非常に評価できる。

つまりアシスト力(リチウムイオンバッテリーの電力を使用)をプラスして、中速域の加速性能を大きく高めるには、このモーター特性では能力不足(基本的に小さすぎる。それ以上を求めるにはエンジンルーム内のスペースとコストが問題)。


S-エネチャージシステムは、これから他の機種へも採用する

最大トルクが大きくエンジン始動にも使える能力を持っていても、それがそのまま高回転まで持続しないのがモーターであり、アイドルストップからの始動用として、その性能を発揮させるとしたら、今の状態では両方がうまくいかない。

アシストモーターとしての実力は3000回転で4Nm(50ccバイク並み。プーリー比で見ると1/2ほど減速するので、中速域のアシスト用としては実用性が乏しい)という話であるし、モーターばかりではなく、バッテリーに対しても同様なことは言える。


ベルトは専用としたため2本使用。ISGベルトは強い駆動が加わることから、テンショナーはこれまでとは逆の位置に取り付けている

使用する部品の共通化は当然であり、その中で最大に効率を追求する。その結果、鉛バッテリー(最初の始動ではセルモーターを回し、アイドルストップからの再始動ではISGに電力を与える)とリチウムイオンバッテリーは、これまでのエネチャージシステムと同じもの、ただし、制御系が大きく違い、最大電流値も違うことから、それに耐えるものを新しく開発した。

このオルタネーター・モーターには、インバーターが組み込まれているので、部品として購入すると自作EV用に使える??と考えたのは間違いではないと思うが。

オルタネーターをアイドリングストップからの再始動用モーターとして使うと、その穏やかな始動状態に感動する。雑音がないからである。

更に良いところは、クランキングスピードがセルモーターで回したときの300回転から600回転となることで、走り出すまでのタイムロスを考えた場合、初速が速いことから、エンジン再始動と同時にアイドル回転を大きく立ち上げる必要もない。結果的に穏やかな感じが強くなる。

また、S-エネチャージでも走行中からアクセルを離して停止まで持ってくると、時速13キロほどでエンジン回転計は仕事をやめて、いきなりゼロを指すが、エネチャージを採用したばかりのときのワゴンRと違って、突き出し感(減速の強さが途中から少ないほうへ変化することで起きる)は発生しない。

これは、CVTと副変速機の制御を改良した結果で、同社のハスラー試乗のときに感じたため、開発者にそれとなく聞いてみると「実は、ワゴンRのマイナーチェンジから変更しています」とのこと。

何が変わったのかは、五感を研ぎ澄まして運転するとわかる。

エンジン回転計がゼロを指すか指さないうちに、エンジンからの唸り音と振動を感じる。つまりエンジン回転が上がり始め、エンジンブレーキを効果的に作用させながら、突き出しを発生しない状態を作り出しいるのである。

副変速機とCVTとのやり取りで、一番難しいのは副変速機のギヤをハイからローへダウンシフトして、スムーズにエンジンブレーキ状態を停止寸前まで持っていくことである。

突き出し感があったときには、CVTを最大にローレシオとし、そこまでは効果的に減速させるのだが、副変速機はハイギヤのまま。そのまま停止までやろうとすると、エンジンの回転はとんでもなく低くなってしまい、例えばその状態で再始動が要求されても、トルクコンバーターのロックアップを外し、そしてクランクをまわしての再始動は、どう見ても時間差が多くなって思わしくない。

それでは減速の途中でハイギヤからローギヤへダウンシフトしたらどうなるか。その切り替えを瞬時に行う必要があり、結果として、大きなショックが常に発生してしまう。もちろんトルクコンバーターのロックアップはされた状態でないと突き出し感が出てしまうので、そう簡単な話ではない。

これまでは副変速機をハイギヤのまま、トルクコンバーターのロックアップクラッチを切り離さなければならず、その結果、突き出し感が発生してしまっていたのだ。

それを排除するためには、乗員が違和感を感じないうちに副変速機のギヤをハイからローにシフトすればいいのだが、それがなかなか難しい。でも、スズキはそれをやってのけた。

副変速機をハイからローへシフトしたときにショックを感じないようにすれば良いわけだから、トルクコンバーターのロックアップクラッチを滑らせながら、副変速機のシフトを行うように改良。

ロックアップクラッチが滑っている最中(つまり半クラッチ状態)であれば、副変速機のギヤをハイからローへダウンシフトしてもショックは感じないのだ。ローギヤへのシフトが終了したら、エンジン回転がスムーズに上がるよう、素早くスムーズにロックアップを開始する。ただこれだけのことだが、それの見極めが非常に難しい。

これにより、エンジン回転計が動きを止めても、クランクシャフトは回り続けており、その最中にダウンシフトするので、ショックを感じさせないのだ。エンジン回転計が常に動くような造り方をすれば、ハッキリとわかるのだがな~。


アイドリングストップしている最中の不用意な再始動を防ぐため、ブレーキペダルのにストロークセンサーを取り付けた。これにより、より快適なアイドルストップは、更に安定した

アイドリングストップでも進化が見られた。それは、不用意な再始動を誘発しない制御を加えたこと。何が加わったのかというと、ブレーキペダルにストロークセンサーを取り付け、ペダル位置が決まった高さに戻らないと再始動しないというもの。これで、アイドリングストップした直後に、いきなり再始動したり、再始動したと思ったらストップしたり、などという、チグハグな行動はなくなった。

2014年9月6日土曜日

BMWのX4カタログに出ていた、奇妙なクランクシャフト


BMWが新発売したX4のカタログをしげしげと見ていて、4気筒エンジンなのに見たこともない形のクランクシャフト写真に、目が釘付けとなった。

 
カタログ写真なので、正確に判断するのは難しいが、それでもこれまでの直列4気筒クランクとは明らかに違う

これまでの4気筒クランクシャフトであれば、クランクピンの位置は1番と4番、2番と3番が一緒で180度ずれた位置にある。

しかし、どう見てもそのような造りではない。1番と2番、3番と4番が同じ位置にある。更によく観察すると、その1番と2番(3番、4番も)なんとなく位置(角度)が違うような感じも見える。

これもしかして270度クランク?


270度クランクを採用しているクルマは聞いたことがない。バイクではヤマハが10年以上前からこの270度クランクを市販の2気筒や排気量の大きな4気筒(YZF-R1)に採用し、ロードレースの最高峰であるモトGPマシンにもこの270度クランクを採用。ホンダも2気筒バイクのNC700,750には、この270度クランクを採用した。

2011年東京モーターショーに展示された、ヤマハ・モトGPマシンのクランクシャフト。4気筒なのにクロスプレーン型クランク。つまり、クランクピンの位置は90度づつずれた270度クランクとなる
 
では、なぜ不等間隔燃焼となる270度クランクを採用するのだろうか。ヤマハのサイトにはその理由が書かれているので、すでにご存知の方もいるだろう。

性能アップが目的ではなく、高回転まで回したときの素直さ、スムーズさを狙ったとか。それにより、ライダーは高回転を楽しめるので、余裕が出るからだという。

レースのマシンではそれが当然だが、ストリートバイクではどのような利点があるのだろうか。それは、燃焼による鼓動が低速から中速に掛けて味わえるからで、バイクを乗る人間の気持ちに訴える十分な要素を持つ。

確かに、2気筒であると時速100キロからの追い越し加速でも、しっかりと鼓動を感じさせる挙動が見えるのだ。

では、何故そのようなことになるかというと、それは、クランクシャフトの回転位置がどこにあっても、必ず動いているピストンが存在することに要因があるという。3気筒や6気筒では当然のことだが。

普通に180度クランク構造では、上死点、下死点は全てのピストンが同時になるため、必ず停止する状態が出てくる。しかし、270度クランクとすれば、常にどのピストンかは動いており、それが気持ちよさにつながるのである。

こう考えると、2リッター4気筒ターボのX4(それ以前から?)は、とにかくエンジンがスムーズで、とても4気筒とは思えない静けさがあるのはうなずけるのだが。

燃焼間隔が乱れるため、自然吸気エンジンであると重要な、排気脈動を使う性能アップは無理だが、ターボが装備されているので、それも関係ない。

6気筒仕様もあるため、4気筒2リッターであると、エンジンルームの換気性能は高い。更に鼻が軽いため、普通に走らせる中でも、楽しさが味わえる

アイドリング中にマフラー出口で排気音を聞いてみたが、ターボにかき回されるので、特別な音ではなかった。

この点について、日本のBMW広報へ聞いてみたが???という感じ。何故何故問答は、BMWのエンジン開発担当でもなければ無理かもしれないな。でも知りたい。日本の自動車メーカーのエンジン開発担当は、このようなことを知り尽くしているのだろうか。
新型X4。SUVとハッチバックセダンを融合させたような感じ。走行性は非常に自然で、かつ気持ちがいい。この感じでセダンを作って欲しいと思ったのは、私だけではないだろう