このレポートは、最初のタイトルを「数式を使わないサスペンションの話」ということでまとめていたが、結論からすると、サスペンションではなく、走行安定性になるので、タイトルを現在のものに変更した。
内容は筆者が携わってきたバイクやクルマいじり、それ以外にも改良から製作、はたまた、各分野の技術者から得たヒントを織り交ぜ、経験などを加えて自分流にまとめたもの。数十年前に書いた部分もあるので、今では「化石」状態の部分も。面白い読み物、ぐらいの感じで目を通してほしい。
走行安定性を分析するのは、エンジンよりも難しい。いくらコンピューターが優れている時代になっても、解析をするための用件が多すぎるからだ。サスペンションだけではなく、取り付けられるメンバーやボディ形状、剛性まで関係してくる。難しい公式など、いくら紐解いても、さらに難しい領域に入り込むばかりで、少しも理解出来なくなる。
また、公式を列記しても、計算上では解析出来るが、実際とは大きく違う。そのあたりのことについて、クルマメーカーのエンジニア達は十分理解しているのだ。そこで、読めば何となくわかるような気がするレポートとして、「数式を使わない、クルマの走行安定性の話」をまとめてみた
話は数10年前にさかのぼるが、ヨーロッパにおけるヨーロッパ車のボディ修整では、特にサスペンションの取り付け部分に対して、日本車のように高い取り付け位置の精度を要求されていない、ということを聞いた。
これはつまり、タイヤをきちんと、設計値どおりのジオメトリーで動かさなくてもクルマの安定性が保てる、というひとつの現れだろう。対して、日本車は限りなく設計値どおりに動かすことを目標に、ボディ修整を要求されていた。しかし、ここにはボディ剛性とサスペンション設計、ゴム・ブッシュの使い方の違いによる、考え方が大きく関係しているように思えた。
考えるにヨーロッパ車は、如何に自由にタイヤの動きを使いながら、それをコントロールすることが重要である、に開発・設計のポイントが置かれているような気がしてならない。
ヨーロッパにおける、優れたクルマ造り(この場合デザインは含まない)をするメーカーは、サスペンションをどのように作ればいいか、ということがわかっているとも取れる。
取り付け点の位置、サスペンション剛性とボディ剛性の関係、しなやかに外乱を処理するために採用するゴム・ブッシュの使い方など、当然のことをデータとして持っている。そのために、新型車を作るときでも、サスペンション設計に必要以上の時間はかからない。もちろん、実験においても同様であり、開発実験ではなく、確認実験であるかのようだ。
それに引きかえ1980年代の日本車は、どのようにサスペンションを作ったらいいのかわかっていなかった。クルマ毎にサスペンション型式を変え、絶対寸法まで変えてしまうわけだから、新型車を開発する度に、全てのデータがゼロからスタートすることになり、同じ過ちを繰り返すこともある。ところが同じディメンジョンとジオメトリーのサスペンションを使い続けることで、問題点を克服できることもある。もちろん何が問題なのかが分かってなければダメだが。
ヨーロッパ車も日本車も目標とする走行性は変わらない、と考えていいが、設計の段階からどう作ればこのクルマはこうなる、ということがほぼわかっていると思われるのに対して、日本車は作ってみるまでわからない。つまり何をどうしたらどうなるのかが、皆目分かっていなかった時代だった。
面白い例えとしてこう考えた、ヨーロッパ車の場合は、「昼になったから、食事に行こう」。それに対して日本車は「昼か、はらがへった、どうしたらいいのか」と、研究員達がディスカッションして、「これは、どうやら食事に行かなければいかんのだ」というような結論をだす。ただし、ここに出す結論が食事になるか、食料品の買い出しか決まっていない。
外乱をうまく処理し、安定してドライバーとの対話が出来るサスペンションとするには、確かな剛性を持つボディと、同様に優れた剛性を持つサスペンションに関わる全てのパーツ、ゴム(ピロー)・ブッシュの使い方、そして、サスペンションのデザイン、つまりジオメトリーをどうするかである。更に重要なのは、その動的作動の軌跡が、設計値に限りなく近くなるかどうかだ。
以下、不定期で次号