研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2012年11月19日月曜日

N-BOXのブレーキオーバーライドとアイドルストップの関係がおかしい

ブレーキオーバーライド(アクセルペダルを踏んでいても、ブレーキペダルを踏んだとたんエンジンはアイドル回転近くなる、ブレーキ優先制御)が最近のクルマには搭載されている。もちろん左足でブレーキを踏むことの操作性に、安全機能を付加したものだ。

ただし、そこにアイドルストップと言う制御が加わると、少し厄介な制御が必要となる。それは、ブレーキオーバーライドが作動したときには、アイドルストップさせない、というもの。

もしアイドルストップさせると、ブレーキオーバーライド作動時におけるドライバーの精神状態から、事故の回避行動が送れ、悲惨な結果を招くことが考えられるからだ。

このように、ブレーキオーバーライドが作動したとき、アイドルストップさせない、と言う情報は、クルマを開発する技術者の中でも、共通事項として理解しているのが普通だが、ホンダは違っていた。
ホンダN-BOX

実は、RJCカーオブザイヤーの最終テストデーでホンダN-BOXに再度試乗する機会があり、発表会直後の試乗会で問題提起しておいた、ブレーキオーバーライド制御が、どのような形になっているか確認したのである。

その問題とは、ブレーキオーバーライド状態で停止すると、エンジンもアイドルストップが作動し、エンストしている。これは上記のようなことを想定すれば、よろしくない制御である。

テストデー当日には会場であるツインリンクもてぎパドックに、開発者が3名ほどお見えだったので、それとなく「最初の試乗会ではブレーキオーバーライド状態で停止させると、エンジンも停止していたが、それはどのように改良したのか」と言う問い掛けをしてみた。それに対し「その制御の担当者がここにはいないので分かりません。後ほど確認します」というのである。

ここで一言、上から目線で「他のメーカーでは、関係する開発者の全てが、ブレーキオーバーライドとアイドルストップの制御がどのようになっているか、常に共通項目として持っているのですがね~」とやったのである。

暫らくして、返ってきた回答は「他のメーカーさんと同様な制御になっています、と担当から連絡がありました」というので、開発者二人を乗せて走行チェックする。

テストはアクセルを軽く踏んだままでブレーキペダルを(もちろん左足で)強く踏み付け、停止させる。すると、アイドリングしている。「アッ、改良したんですね」と言いかけたとたん、エンジンは停止。何度やっても同様に停止。では、アクセルを大きく開けて加速状態からブレーキペダルを踏むとどうなるのか。これも急停止させようが穏やかだろうが、停止して一呼吸するとエンジン停止だ。

こりゃ危ない。ビックリ状態から作動したブレーキオーバーライドも、その状態から回避するための行動が、更に遅れることになるではないか


思い起こせば2009年1月のステップワゴン試乗会で、当時の開発責任者に「ホンダとしてもブレーキオーバーライドを組み込むべきだ」と言う提案をしたところ、その開発責任者から部下の開発者に対し「これは取り付けに値する事項だ、次から採用するように」、と業務命令的な指示がされたのに、このような状態の出来には、ただあきれるばかりである。

開発者、実験グループが完璧に左足ブレーキの操作を習得していないと、いろいろな使われ方に対する検証が出来ず、このような思い込み状態に発展してしまう。新しいもの造りに対して「好きなこと」が重要である、という証明のようなものだろう。

最近発売されたN-ONEがこのようなことでなければいいのだが。機会を見つけて確認し報告したいと思う

2012年11月15日木曜日

2013年次RJCカーオブザイヤー顛末記

インポート部門に、会始まって以来の同点が


今年もやってきました、RJCカーオブザイヤーの時期が。しかし、蓋を開けてみたら、インポート部門に同点のクルマが出てしまった

 

11月13日のツインリンクもてぎ。ここには、ベストシックスに選ばれた国産車、輸入車、テクノロジー、そして、RJC技術選定委員会(委員長は私、青池が勤めました)の特別賞候補である技術が並べられた。
テストデー当日早朝。まだRJC会員を迎える準備が着々と進行している。さてどのような結果が出るのだろうか

これより前の11月1日には、公開でベストシックスの開票が行われたわけだが、前評判とは少し違ったクルマやテクノロジーが、最終選考会のツインリンクもてぎへ持ち込まれることが決まった。
RJC会員が集合して、まず最初に始めるのは、当日集められたクルマの撮影。同じアングルで撮りたいカメラマン。それに応えるため走り回る会員がいる

2013年次RJCカーオブザイヤー・シックスベストは、ホンダN-BOX/N-BOXプラス、マツダCX-5、三菱ミラージュ、ニッサン・ノート、スズキ・ワゴンR、トヨタ・アクア。以下同様に順不同

インポート部門のシックスベストは、アルファロメオ・ジュリエッタ、アウディ・A4/S4、BMW・3シリーズ、シトロエン・DS5、メルセデス・Bクラス、フォルクスワーゲン(以下VW)・up!

テクノロジーのシックスベストは、マツダ・スカイアクティブ-D、ニッサンノート・エコスーパーチャージャー、スズキ・グリーンテクノロジー、トヨタ・プリウス用プラグインハイブリッドシステム、VW・up!に搭載のシティエマージェンシーブレーキ

技術選定委員会からの特別賞技術は、三菱ふそう・キャンターエコハイブリッドに搭載される、トラック初のハイブリッドモーター内蔵ツインクラッチミッションが持ち込まれた。

会員の最終確認が終わり、投票から開票へと移る。まず最初は特別賞。

この特別賞については、その技術を信任するかしないかで決まるわけだが、これまでテストデー当日に、不信任で却下されたことはないので、まず信任されるはず。当然その読みは正しかった。
特別賞は、三菱ふそう・キャンターエコハイブリッドに搭載された、 トラックとしては初のハイブリッドモーター内蔵ツインクラッチミッション

次はテクノロジーだが、私が押していたマツダのスカイアクティブ・ディーゼルは、イヤー賞とならず残念。

このすごい、世界のディーゼル・エンジニアが注目する位置にあるディーゼルエンジンであるが、それを理解していなければ、高い評価点を与えることは出来ない。理解不足が招いた結果とも言える。

つまり、RJC会員に対するマツダのディーゼル勉強会が足らないだけではなく、テストデー直前での復習勉強会などの開催も重要であったと思う。世界最高の技術であると言う判断が出来るには、それなりの基礎技術が頭に入っていなければ無利と考えるからだ。

RJC会員の大半は、この基本的な技術(ディーゼルに限らず)の知識はないのだから、そのあたりからの勉強会は今後も必要だと思う。

で、テクノロジー部門のイヤー賞は、スズキのグリーンテクノロジーに決まった。スズキとしては、初のテクノロジー賞受賞である。
テクノロジー賞は、マツダのスカイアクティブ・ディーゼルを寄せ付けず、スズキ・グリーンテクノロジーが獲得

インポート部門のイヤー賞は何と2台。VW・up!とBMW3シリーズ。

衝撃が走ったのはインポート部門。実は、イヤー賞となったVW・up!とBMW3シリーズは、点数を読み上げるたびに同点得票、逆転得票、逆転の逆転を繰り返し、最後の投票用紙を読み上げたところで、同点の得票になる、と言う結末が。
インポートでイヤー賞となったBMW3シリーズ。ディーゼル搭載モデルもあり、輸入車なのにガソリン仕様との価格差は少ない
同数でインポート部門のイヤー賞となった、VW・up!。これまでとは違うVWの先を見越したクルマといえそう

イヤー賞で同点となった場合の扱いは決めていなかったので、会長の一言「両車ともにイヤー賞です」で、会始まって以来の出来事が起きた。

最後はRJCカーオブザイヤー賞の開票であるが、これは大方の予想通りニッサン・ノートが受賞。開票の始めから順当に得票を伸ばし、追い上げるマツダCX-5を突き放した。
大方の予想通りに票を獲得したのは、はやりニッサン・ノート。クルマのできは、コンパクトカーの領域を超えている

2012年11月2日金曜日

ポイント式点火装置を勉強する その⑥

ポイントのギャップが大きいときには、このように乱れた波形になってしまう

 

ポイントのギャップで重要なのは、閉じている時間と開いている時間のバランス。つまり、ギャップが狭くても(コイルの発熱が多くなる)広くてもダメ。

広いと何がダメなのかと言うと、高回転時のコイルへの通電時間が短くなり(業界用語ではコイルへのチャージと言う)、その結果スパークエネルギーが低下する。

ポイントギャップが広くなると、1次波形も、ポイントが閉じるとき電流に乱れの生じている様子が分かる。この結果、次の点火に支障が出てしまう

1気筒エンジンなら、かなり適当にいじってもそれほど問題とはならないが、マルチエンジンでは重要となる。自作したデモ機の場合には、3気筒だったので、その点ではかなり有利。

これが、4気筒、6気筒となったら、シビアになる。まして、昔のV8エンジンとなったら、非常にデリケート。そして、いくらギャップを正しくしても、6気筒や8気筒ようなエンジンでは高回転時の点火エネルギーが不足し、かつ点火時期が遅れるため、高回転時の燃焼が難しくなってしまう。

2次波形を見るとそのエネルギーが小さく、そして放電時間も短いことが分かる。これではまともに燃焼できず、HCを多量に排出することとなる

2012年10月28日日曜日

トラックにもツインクラッチとハイブリッドの組み合わせが登場してきた

三菱ふそう・キャンターエコハイブリッドの試乗会へ参加して気がついたことがある

 

開発・企画で大切なことは「自分の欲しいもの」であって、「これなら売れる」と言う発想で開発すると失敗が多い。ただし、「自分の欲しいもの」と言う考えがまとまるには、趣味や興味が大きなきっかけを作る

 

キャンターエコハイブリッドには、ボルグワーナーの特許に関わらないツインクラッチのシステムと、更に、リチウムイオンバッテリー搭載のモーターによるハイブリッドシステムが組み合わされている。

これが、三菱ふそうで開発された、トラック用のツインクラッチシステムとハイブリッドモーターが組み合わされたミッション。モーターだけでの走行も可能だが、エンジンの停止はしない。それをやるには補機類の駆動を見直す必要が有り、まだ時間がかかる。ツインクラッチなので、乗用車同様2ペダルのATである 

駆動モーターの電池に充電するのは、エンジンの動力ではなく、減速時のモーター/ジェネレーターによる回生ブレーキ発電でのみ。

ディーゼルエンジンなので、エンジンブレーキを強く利かせるため、排気ブレーキも付いているが、その作動開始は実に穏やか。排気ブレーキのバルブが閉ると、回生ブレーキを一瞬少なくし、その後再び、回生率を上げるので、強い減速力が起きず、ドライバーに優しい制御も組み込まれた。

試乗している最中に考え付いたのは、「トラックは積載量によって、走りが大きく違う。空荷のときと積載のときにハイブリッドモーターのアシスト量を変化させたらどうか」というもの。

もちろんモーターのアシスト量は、積載量として500kg増しごとぐらいで段階的に変化させれば十分。リニアな変化である必要はない。

空荷のときにはアシスト0でもいい。積載量が増えるにしたがって、アシスト量も増やしていくことが重要。

この狙いは、最大加速性能を一定として、ドライバーの運転負荷を減らすことが目的。

もちろん、積載量によっては、同じようにはならない(モーターの能力次第だが)だろうが、普通状態に近くなればそれで十分。

500kg増すごとに、最大積載重量までの段階で、アシストの変化が付け難いことはないだろう。この発想は乗用車とは違ったものとなるのだが、総重量が大きく変化するトラックでは十分使えると思う。

キャンターエコハイブリッド仕様。多くの種類を乗ることができた


2012年10月26日金曜日

ポイント式点火装置を勉強する その⑤

ポイント接点のギャップが狭いとどうなるのか

 

正常なポイントギャップの1次波形と2次波形、狭いときの波形を比べると、大きな違いは見当たらない。デジタルオシロなら違いを見つけられるのだろうが、アナログオシロでは無理のようだ。

実際のギャップは、指定された寸法の半分ほど。これで安定した火が飛び続ければそれでもいいのだが、実は、イグニッションコイルへの通電時間が長くなることによって、コイルが発熱し、効率が下がり、プラグへのエネルギーが低下する。

低速運転ほどその傾向が強くなるので、実用上の問題が出るため、やはり指定のポイントギャップが大切と言う話。

ポイントギャップが狭くなることで、ポイントが閉じた瞬間のバウンスはなくなるため、きれいに0Vとなることが分かるが、それならベストと言うわけではない

2次波形は放電時間とエネルギーを計測している。正常なポイントギャップのものと変化は放電時間の僅かな違いだが、それは、シャッタータイミングの違いかもしれない

2012年10月23日火曜日

ポイント式点火装置を勉強する その④

ポイントの接点が完璧でないと、1次電圧が低くなる。荒れることで接点間の抵抗が増え、イグニッションコイルへの通電量が低下するからだ


前回の1次波形を見ると分かるのだが、ポイントが荒れていると電圧の立ち上がりは問題ないとしても(時間設定のゼロ点位置が違うので同じ位置から表示していないが)、電圧は低く、点火エネルギーに影響する状況だった。

正常な状態のポイントを使った1次波形。十分な電圧と鋭い立ち上がりで、イグニッションコイルには確実に電気を送っていることがわかる。縦方向が電圧で一枡20V設定だから、最大80Vと言うことになる 

正常なポイントの1次波形を見るとバッテリー電圧の12Vではなく、瞬間は最大80~100Vであることが分かる(流れている電流は遮断した瞬間に高電圧が発生するので)。つまり、点火コイルには、ポイントが開いた瞬間この電圧が一瞬かかり、その衝撃によって点火コイルの2次側に溜まっている電流が放出され、点火プラグにスパークが起きる。

正常なポイントによる2次波形。しっかりときれいな放電波形が見える

2012年10月15日月曜日

ポイント式点火装置を勉強する その③

ポイントが正常でなければ波形も変化する


ポイント接点の状態とポイントギャップが重要。もちろん点火時期や進角装置が正しく作動していなければならないのは当然のこと


 進角装置にはふたつ組み込まれているのが一般的。ガバナ進角とバキューム進角。ガバナ進角は、エンジン回転数上昇に合わせてある回転まで点火時期を進める装置。バキューム進角は、基本的にエンジンの負荷によって点火時期を変化させるのだが、排気ガス規制が出来たことで、少し目的が変わってしまった、と言うより機能が追加された。

 バキューム進角は、スロットルバルブに作用するバキューム圧(スロットルバルブとスロットルボア間に発生する)を利用するのだが、スロットルバルブが完全に閉じている場合に、少しでも燃焼条件を良くするため、アイドル時だけの進角を行ったり、軽い負荷が加わったとき、遅角(点火時期を遅らせる。NOx対策)も行う機構が組み込まれているものもある。

 これらの装置が正しく作動しているとして、話を進める。

 ポイント式点火装置の波形を見ることで、しっかりと点火エネルギーが出ているかどうかの判断が出来るのだが、それを見るためには、点火装置のデモ機を造る必要があるのだが、それは前回のレポートのように何とか完成した。

 当初は100Vから電気を取り・・・と考えていたが、それよりもバッテリーを2個使用し、点火装置用、モーター用としたほうがよさそうだと言うことが分かった。と言うよりその方が造りやすいのだ。

 波形測定には数十年前に購入したアナログのオシログラフを使う。2現象だが、同時に(といっても代わり番になるが)測定すると、波形がややこしくなるのでプローブはそれぞれ繋いだ状態にして、別々に測定する。
波形測定に使用したオシログラフ。今じゃ骨董品。デジタルオシロが欲しいけれど・・・表示のボルトを設定するダイアルは、1次波形は2Vで、2次波形は0.2Vとした

 1次波形はコイルのマイナス側から取り、2次波形は点火プラグのアース側とデモ装置のグランドの間に、特別に製造してもらったアダプターを入れ、電流値を電圧に変換したものを測定し、エネルギーの比較を行う。電圧の波形を取ることも可能だが、比較が難しそうなのでやめた。
これが電流値と電圧値を計測するためのアダプター。エネルギーは電流であらわされるので、それを計測する

アダプターは点火プラグのアースとデモ機のグランド間に入れ、プローブは点火コイル側にプラスを繋ぎ、アースはデモ機のグランド側にする

 また、当初、回転数を可変にするということで、可変抵抗などを組み合わせたが、これは間違いだった。それは、回転数が変化すると波形も変化するからだ。そのため、最初にテストしたときの波形は使えないので、改めて配線をやり直し、可変抵抗器を取り去り、ダイレクトに12Vを加え、最高回転数での波形だけに止めた。
回転数は7000RPMを目標としたが、ポイントの状態もあって少々表示は上下する

 結果として、ポイントが荒れた状態を再現できなかったので(磨いてしまったので)、ポイントが荒れたときの波形は、その後に見る波形と状態が少し違っている。ただし、ファンクションダイヤルの位置は変更していないので、荒れた状態のポイントによる1次波形は、違いがしっかりと分かる。また、そのときの2次波形も取り忘れた。
装置としての状態も、実際に使用する上では重要な部分。たまには分解してガバナの作動や、バキューム進角の作動チェックをしたい

荒れた状態のポイント。導通常件が悪くなればコイルに加わる電圧に影響を及ぼす。結果として、プラグに飛ぶ火が弱くなる

荒れた状態のポイントによる1次波形。これだけ見たのでは、違いが分からない。コイルの1時側に加わる瞬間最大電圧は約40V。本来はもっと上のボルトになる。正常なポイントの波形は次回に。なお、説明したように2次波形は取り忘れた