研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2010年9月3日金曜日

点火プラグの電極の向きと燃焼

プラグは電極の向きにも注意する

ガソリンエンジンの燃焼に重要な点火プラグだが、指定のものが取り付けられていれば良い、というものではない

点火プラグとガソリンエンジンの燃焼(爆発と言う定義ではない)については、その要求度が進んで、これまでとは違った形状のものが登場してきたが、それでもそこに要求されることは、経験上それまでと変わりないと思っている。

つまり、そのレベルが高くなっただけのことで、あくまでも目的は、どの回転、どんな負荷でも完全燃焼、つまり未燃焼ガス(HC)の発生を抑制することにある。ただし、そこには大量のEGR投入で、燃焼温度を下げNOxの発生を最小限に止めるため、どうしても燃焼しづらい状況が起きる。

それを少しでもカバーするために、多様な形状の点火プラグ(電極周りだが)が開発されてきたのだが、それだけでは追いつかないと常日頃から思っている。それは、燃焼室内におけるプラグ電極の向きである。

確実に燃焼させようと吸気時には、タンブル(縦の気流回転渦)やスワール(横の気流回転渦)を発生させ、プラグの電極に混合気をぶつけるような事をさせるばかりではなく、混合気を回転させることで、燃焼速度を早くして、性能アップを図ろうという策略も見逃せない項目だから、各メーカー必死に実験を重ねている。

そうは言っても、吸気量が少なく、吸気流速が上がらないアイドル時や、低回転時などでは、タンブルもスワールも設計値通りの状態で発生せず、理想的な燃焼からかけ離れるのは必至。それを少しでもカバーできるのが、点火プラグにおける電極の向きと言える。

この電極の向きに関する研究は、ホンダの初代インサイトエンジン研究で行われたことがあり、そのときには、リーンバーンエンジンであることから、混合気が薄く(空気とガソリンの重量比で、一般的なエンジンでは14.7:1を基本とするが、それを20:1前後まで薄くする)、プラグギャップの間に混合気が流れ込まなければ、燃焼とならない可能性があり、それはどのような条件で発生するか、また、どうしたら回避できるか、と言う目的で、プラグを締め付けたときの電極の向きに着目して研究がなされた。

その結果、ある程度点火プラグで解決できる、と言う結論となって、製作上の手法に手を加えていないが、トヨタでは違った見方をしていた。

トヨタは、アイドリングのバランスのよい燃焼にこだわりを持っており、その回転に乱れが有ることをOKとしない。そこで、プラグ締め付け後の電極の向きに着目し、出来るだけ、吸気バルブ側に電極の開放部(接地電極の反対側)が来るよう、プラグ製造メーカーとネジの切り出し位置を打ち合わせするだけではなく、自分たちも、プラグ穴のネジに対する切り出し角度を決めた。

このように製作したことで、トヨタエンジンについては、点火プラグ締め付け後の電極位置が、とんでもない方向にあることはないので(もちろん日本のプラグメーカー品での話し)、改めてプラグの向きを合わせても、アイドリングはそれ以上変化しないはず。

他のメーカーでは、納得の出来る位置にするためには、気筒数プラス2~3本のプラグを必要とするが、ガンバッテこれをやると、アイドリングの乱れが解消することは多い。

なお、レースの世界では、この電極の向きに対して、重要視しており、目標となる角度を得るため、ガスケットと共にシム(薄いワッシャ)を挟んで、対策している。目的は、アイドリングではなく、アクセルを踏んだ瞬間の、100分の1が勝敗に影響し、それが締め付け後のプラグ電極の向きと関係するからだと言う。

 
1.点火プラグは、スパークする電極間に混合気が入り込まなければ、燃焼に結びつかないわけで、シリンダーヘッドに締め付けたときの、吸気バルブとの位置関係が重要と考えている。


2.プラグ用のソケットを使用し、そこに使うエクステンションには、プラグの電極開放側の位置が分かるよう、ガムテープを貼り付けたり、エクステンションの上側にヤスリで凹みを造って、ラチェットレンチを外したときに分かるよう細工する。


3.指先だけで締めこんでから、ラチェットレンチを使用して、しっかりと締め付ける。締め付けの要領は、近いうちに説明するが、新品のプラグを使用する場合と、継続使用では、締め付けの感覚が少し違うことになる。


4.ラチェットレンチをエクステンションから外して(絶対にプラグソケットを抜いてはいけない、締め付け角度が分からなくなる)、マーキングした位置から、電極開放位置がどこにあるか確認。吸気バルブ側を向いていればOKとなる。


5.ヘッドの中心から見て90~100度ずれているのはベストではないが、OKの範疇に入れる。ただし、他の気筒のプラグや新品と交換しても、このような角度になってしまう場合に限る。

2010年9月2日木曜日

アースをないがしろにしてはいけない

アースの重要性を、ある高級車で身近に体験したことにより、そのことへのこだわりを強く持つようになった

クルマのアースと言えば、 バッテリーのマイナスターミナルから、ボディやエンジンに太いコードを使って接続するのは当然で、太いコードを使う理由は、セルモーターを回す瞬間に大電 流(数百アンペア)が必要になり、それに対応させるためだ。当然プラス端子からも、セルモーターにはマグネットリレーまで、同様に太いコードが繋がってい る。

ここまでは当たり前のことであり、どのクルマも当然のように配線が行われるのだが、バッテリーをリヤのトランクに取り付けていた、問題のRR(ロールス・ロイス)ベントレーは、問題のトラブルを見つけるのに数週間かかってしまった。

あるとき知り合いの修理工場に大きなクルマが入っていた。それがRRベントレー。トラブルと言うのは、セルは何とか回るのだが、エンジンが始動しない。始動するときもあるが、その次には不能。翌日は一発で始動する。これの繰り返し。

始動しそうで、連続しない。セルを回すことをやめた瞬間だけ数回燃焼する。そこでOBDⅡソケットに(トラブルコードを出力するソケットがある)スキャンツールを取り付けて、どのようなトラブルが有るのか検証するが、問題は発見できない。

点火システムなど交換したが、解決の糸口がつかめない。そのうちに、バッテリーは元気でも、セルが回る気配さえなくなってしまう現象も起きる。

そ こで次のステップとして点検したのは、バッテリーからのアース。前述したように、このクルマはバッテリーがリヤのトランクにある。そして、そこからのマイ ナスは、トランクフロアからボディの下にコードを出して、太い端子をボルトでボディに固定している状態。つまり、完全に露出しており、周りの環境をもろに 受けてしまう設計だ。

このあたりがおかしいのではないか、と言う判断は、ある現象にヒントがあった。それは、なんとなく変な臭い(イオンの臭いで、電気がスパークすると発生する)を感じたことに端を発する。

そ の臭いの場所をたどると、なんと、アースコードとボディの接続が、トラブルを引き起こしているところに行き着いた。新車のうちならこのようなことは起きな いだろうが、数年間使う間に端子とボディの間に腐食が生じ、セルを回すときの大電流は何とか都合をつけても、インジェクションや点火装置を作動させる電流 は、セルに食われ十分ではなかった、と考えられる。

ボルトを取り、接続状態を点検すると、ボディ側だけではなく、端子側にもスパークによる腐食が見られ、緑青(ロクショウ)が発生していた。これをディスクサンダーで削り、導電グリースを塗布して、しっかりと締め付ければ終了のはずだったが、もうひとつ問題を抱えていた。

そ の残る問題点は、セルモーターのマグネットスイッチからプラス電源を取るのはいいとしても、そこに使われるコードの太さが十分ではなく、大型のオーディオ や補助ランプなどの追加で、設定以上の電流が流れ続けた結果、発熱し、コードに使われる銅の腐食が発生、抵抗が増していたことも不調の原因だった。

パワーアースの取り付けで、電位差が大幅に小さくなり、始動直後のアイドリングが安定した

このようなことから、電流の流れを自由にすることは非常に重要で、ただ単純にバッテリーのマイナス端子とボディが繋がっていればいいというものではない。

特に、端子とボディやエンジン回りとの接続に、接続抵抗と言うものが発生するとしたら、あまりうれしくないことの起きる可能性がある。それはセンサーからの信号に遅れが生じたり、大電流が必要なときにも一瞬の遅れとなって現れたりする。単純な話だが、ホーンの鳴るときの立ち上がりにも差が出てくることすら見受けられる。

このような経験からバッテリーにおけるアースはいつも気に掛けている項目。つまり、これを解決するには、アーシングの取り付けは重要と考えて、初代フィットにウルトラのパワーアースを実装してみた。もちろんバッテリーを消費しているときの電位差を計測し、パワーアースを取り付けることで、それがどのように解消されたかの検証もする。

ウルトラのパワーアースの特徴は、ターミナルブロックやそこに使われるボルトとナット、コードの端子、付属のボルトなどに金メッキを施していることで、安定した接続状態を長く保つことを狙っている点だろう。

取り付け説明書には、ある程度詳しくその取り付け位置が書かれているが、クルマによってはバッテリーのマイナス端子だけではなく、バッテリーそのものを取り外す必要があるので(フィットなど)、よく観察してから作業にかかることが重要だ。

取り付けを終了させてから、再び同じ条件で電位差を測定すると、その差は6分の1に低下していた。もちろん取り付け前の電位差64mmVでも問題となる数字ではないが、使われる電子・電気パーツが、ストレスなく作動する条件は、確実に確保できたと言うことは言えそうだ。

なお、アーシングはマイナス側に電流センサー(最近はバッテリーの管理を正しく行って、オルタネーターの負荷を減らし、燃費に貢献させるため、このような装置の取り付けが多い)の付いたクルマは、取り付けができない。無理に取り付けると、バッテリー上がりが発生する。

そして、取り付けが終了し、バッテリーを元に戻したら、時計やラジオのチューニングばかりではなく、それより重要な項目がある。それは、パワーウインドウのオートに組み込まれている、挟み込み防止機能の回復である。ホンダ車のように、その設定がなされていないと、オートにならなければ、事故は発生しないのだが・・・


1.ウルトラのパワーアースセット。端子やターミナルブロック、付属のボルトやナットに金メッキを施して、耐腐食性を大幅に向上させているのが特徴。もちろん、追加のケーブルを接続する場所は、時間をかけて探し出した部分だ。


 2.バッテリーのマイナス端子とシリンダーブロック間の電位差を計測すると、64mmVだったが、ヘッドライトとキーをONとした関係で、HIDが安定するまでに少し時間がかかったのか、数字の変化が大きかった。ヘッドライトを点灯した瞬間は100mmV近い電位差があった。



3.ボディなどへの追加部分では、既存のボルトを使うわけだが、塗装を剥がして、金メッキされた端子がしっかりと密着するようにする。当然、錆を防止したいので(防錆鋼板が使われているとは思うが)、浸透性潤滑剤などを吹き付けてからボルトを締める。


 4.組みつけが終了し、付属のタイラップでたるんだコードをまとめる。特にエキゾーストマニホールドへ接触させないように取り回すこと。バッテリーを載せてから、再度同じ部分での電位差を測定すると、ビックリする値に・・・


5.9mmV、これがパワーアースを取り付けてからの電位差。もちろんヘッドライトとIGキーをONとしているが、ほとんど電位差の変化はなく、ヘッドライトを点灯させた瞬間は10mmVだったが、直ぐに9mmVとなり、安定した。


6.忘れてはいけないのが、パワーウインドウのオートシステムの挟み込み防止機能を復帰させること。ウインドウを全開にしてから、軽くスイッチを引き、ウインドウを閉めてからも3秒間、そのスイッチを保持すればOK。もちろん、挟み込み機能は正常か、のテストをしておくことは大切。


ULTRA 永井電子機器株式会社
ウルトラパワ−アースー, ULTRA POWER EATH

研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


予混合方式の水素エンジンにおけるバックファイヤーでは、使用する点火装置が大きく関係してくるのだが。

地球環境や再生可能なエネルギーを使用すると言う観点から、水素(この場合ガス)を使用した内燃機関の開発が行われているが、水素と酸素(空気を含む)の混合ガスは、少しの熱源やエネルギーで燃焼することが有り、それがバックファイヤーとなって、エンジン性能を阻害している。

直噴と言う技術を使用すれば、このバックファイヤーに対する対策も取れるが(燃料が必要なときしか供給されないので)、噴射ノズルの耐久性や燃費の面において課題が残るとされている。

そこで予混合(水素ガスを吸気工程中の吸気ポートに噴射する)方式を取るのだが、どうしてもバックファイヤーが発生し、思うような燃焼にならず、性能も十分ではない。

バックファイヤーの原因は、点火装置に有ることが分かり、放電時間の長いフルトラよりも、短くても高エネルギーのC.D.Iを採用することで、これの問題を解決する糸口を見つけたのだが、そこに行き着くまでの時間が気になった。

点火装置ということからすれば、フルトラ(ポイント式も)は、コイルの1次側に12Vを流して置くと、2次側は磁界による誘導状態となり、このとき1次側に電気的なショックを与えると(ポイント方式ではポイントを開いて、1次電源を切る行為だが、瞬間的に100Vを超える)、その影響を受けてコイコイルの2次側にある電気が一気に流れ、プラグにスパークを飛ばす。

それが終了するかしないかの間に、次のスパークに向けて、コイルの1次側に12Vの電気を流して、2次側は再び誘導状態となるので、1次側のコイルに電気を流す瞬間が、吸気行程であれば、点火コイルに僅かなスパークが起きることで、容易にバックファイヤーが発生するだろう。

ところがC.D.Iでは、点火コイルはあくまでも昇圧用のトランスとして作用する。つまり、コンデンサーに蓄えられた400~500Vほどの電気を、一気に点火コイルへ流すことで、次の瞬間にはプラグにスパークが飛ぶ。

イグナイターユニットのコンデンサーに溜まる電気は、1回の放電で全てが放出されるため、また、次のスパークに向けては、コイルに電気を流しておく必要がないので、点火プラグに静電気や誘導的な電気は伝わってこない。

研究では、C.D.Iの点火エネルギー不足を心配しているが、そのようなことはなく、フルトラが1.5万V(ピーク)に対してC.D.Iは5万V(ピーク)であるため、放電時間は1/10以下であっても、電流値が大きくなり、燃焼は確実で、さらに燃焼時間の短い水素を燃料としたエンジンにも、十分対応できるのだが。

特に複合マルチスパーク方式を取るウルトラのM.D.I.-DUAL9950は、低速時の放電特性(4気筒3000回転まではマルチスパークが2回)と高速時の特性を分けており、それぞれマルチスパークすることで、燃焼を開始した瞬間の火炎核が広がる最中にも0.5msの差で、持ち追い討ちをかけるようにスパークするため、ミスファイヤーの発生もない。

点火プラグのギャップを0.1mmとすれば、バックファイヤーから逃れられるらしいのだが

研究では面白い実験もやっていた、それは、点火コイル内に残存するであろう電気エネルギーの全てを出し切れば、不必要なときにスパークしなくなり、バックファイヤーは起きないという考えから、点火プラグのギャップを限りなく小さくし、とにかく全ての電気を放出させようと言うものだ。

ギャップを小さくすれば、スパークの要求電圧が下がり、放電時間は長くなるが、火炎核が小さくなるので、低回転では問題ないとしても、高回転となると燃焼に追いつかない現象となるだろう。もちろん電極に対する負荷も増えるので、普通電極では耐久性に問題が出ることは、想像できる。

その限りないギャップの数字は、なんと0.1mm(燃焼の限界?)。普通プラグの接地側電極を単に押しつぶし、一部のギャップを0.1mmとしたもの。

これじゃ直ぐに磨耗して目的を遂行できないはずだが、研究者はこのような構造の改造を行うと、どうなるのか、というよりも、スパークはどのような条件の下で行われるのかを知らなかったようだ(結論の中でもそれが解明されていない)。

スパークは、もちろん近いところ(つまりギャップが小さい)を優先して発生するのは当然のことだが、さらに先端が尖っているところから発生するわけで、改造プラグにあるような構造となれば、ギャップが平均していないばかりではなく、尖っているところ、つまりエッジも同様なこととなるわけで、その部分を中心にスパークすれば、普通電極では短時間に磨耗が進み、ギャップは広がることとなる。

ではどうするかと言うと、それはこの原稿を読んでいる方もすでにご存知の、白金プラグやイリジウムプラグを使用することである。

これらのプラグは、スパークの要求電圧を下げるため、細い電極としているわけだが、普通の金属では磨耗してしまうため、白金やイリジウムを使用している。これらを使用してギャップを小さくしていれば、早期に磨耗することはないはず。

もう少し内燃機関点火装置全般の知識があれば、はっきりとした答えを導き出していただろうし、遠回りする必要もなかったと思う。

分からなければ、点火プラグ製造のメーカーや、後付け点火装置を設計製造している、永井電子(ウルトラと言うブランド名)などに聞けば即答してくれるはず。このあたりの行動は、知っている人に聞く、とならなければ、開発・実験に時間がかかるばかりで、もったいないとしか言いようがない。

 
1.従来型のCDI放電特性とウルトラMDIデュアルの放電特性の違い。4気筒3000回転以下であるなら、マルチスパークが2回あり、完全燃焼に結びつける。放電時間の短さなどは関係なくなる。


2.普通電極の改造前プラグ。写真は0.9mmのギャップ仕様であるが、1.1mmというプラグもある。


3.接地側電極を叩いて曲げ、ギャップを0.1mmにしたプラグ。一時的には目的が達せられるのだが、使うことで何がどうなるかの考えはなかったようだ。


4.テストの最中にバックファイヤーが起きるようになったため、使用したプラグを外して見ると、中心電極の一部だけが磨耗し、ギャップは0.3mmになってしまった。この現象は当然起こることである。


5.点火プラグを選べば、いくら改造をしても、異常磨耗は置きにくい。白金プラグやイリジウムプラグは、中心電極を細くして要求電圧を下げながら、耐摩耗性を確保している。

文/青池 武

水素エンジン自動車とは(2008年)