予混合方式の水素エンジンにおけるバックファイヤーでは、使用する点火装置が大きく関係してくるのだが。
地球環境や再生可能なエネルギーを使用すると言う観点から、水素(この場合ガス)を使用した内燃機関の開発が行われているが、水素と酸素(空気を含む)の混合ガスは、少しの熱源やエネルギーで燃焼することが有り、それがバックファイヤーとなって、エンジン性能を阻害している。
直噴と言う技術を使用すれば、このバックファイヤーに対する対策も取れるが(燃料が必要なときしか供給されないので)、噴射ノズルの耐久性や燃費の面において課題が残るとされている。
そこで予混合(水素ガスを吸気工程中の吸気ポートに噴射する)方式を取るのだが、どうしてもバックファイヤーが発生し、思うような燃焼にならず、性能も十分ではない。
バックファイヤーの原因は、点火装置に有ることが分かり、放電時間の長いフルトラよりも、短くても高エネルギーのC.D.Iを採用することで、これの問題を解決する糸口を見つけたのだが、そこに行き着くまでの時間が気になった。
点火装置ということからすれば、フルトラ(ポイント式も)は、コイルの1次側に12Vを流して置くと、2次側は磁界による誘導状態となり、このとき1次側に電気的なショックを与えると(ポイント方式ではポイントを開いて、1次電源を切る行為だが、瞬間的に100Vを超える)、その影響を受けてコイコイルの2次側にある電気が一気に流れ、プラグにスパークを飛ばす。
それが終了するかしないかの間に、次のスパークに向けて、コイルの1次側に12Vの電気を流して、2次側は再び誘導状態となるので、1次側のコイルに電気を流す瞬間が、吸気行程であれば、点火コイルに僅かなスパークが起きることで、容易にバックファイヤーが発生するだろう。
ところがC.D.Iでは、点火コイルはあくまでも昇圧用のトランスとして作用する。つまり、コンデンサーに蓄えられた400~500Vほどの電気を、一気に点火コイルへ流すことで、次の瞬間にはプラグにスパークが飛ぶ。
イグナイターユニットのコンデンサーに溜まる電気は、1回の放電で全てが放出されるため、また、次のスパークに向けては、コイルに電気を流しておく必要がないので、点火プラグに静電気や誘導的な電気は伝わってこない。
研究では、C.D.Iの点火エネルギー不足を心配しているが、そのようなことはなく、フルトラが1.5万V(ピーク)に対してC.D.Iは5万V(ピーク)であるため、放電時間は1/10以下であっても、電流値が大きくなり、燃焼は確実で、さらに燃焼時間の短い水素を燃料としたエンジンにも、十分対応できるのだが。
特に複合マルチスパーク方式を取るウルトラのM.D.I.-DUAL9950は、低速時の放電特性(4気筒3000回転まではマルチスパークが2回)と高速時の特性を分けており、それぞれマルチスパークすることで、燃焼を開始した瞬間の火炎核が広がる最中にも0.5msの差で、持ち追い討ちをかけるようにスパークするため、ミスファイヤーの発生もない。
点火プラグのギャップを0.1mmとすれば、バックファイヤーから逃れられるらしいのだが
研究では面白い実験もやっていた、それは、点火コイル内に残存するであろう電気エネルギーの全てを出し切れば、不必要なときにスパークしなくなり、バックファイヤーは起きないという考えから、点火プラグのギャップを限りなく小さくし、とにかく全ての電気を放出させようと言うものだ。
ギャップを小さくすれば、スパークの要求電圧が下がり、放電時間は長くなるが、火炎核が小さくなるので、低回転では問題ないとしても、高回転となると燃焼に追いつかない現象となるだろう。もちろん電極に対する負荷も増えるので、普通電極では耐久性に問題が出ることは、想像できる。
その限りないギャップの数字は、なんと0.1mm(燃焼の限界?)。普通プラグの接地側電極を単に押しつぶし、一部のギャップを0.1mmとしたもの。
これじゃ直ぐに磨耗して目的を遂行できないはずだが、研究者はこのような構造の改造を行うと、どうなるのか、というよりも、スパークはどのような条件の下で行われるのかを知らなかったようだ(結論の中でもそれが解明されていない)。
スパークは、もちろん近いところ(つまりギャップが小さい)を優先して発生するのは当然のことだが、さらに先端が尖っているところから発生するわけで、改造プラグにあるような構造となれば、ギャップが平均していないばかりではなく、尖っているところ、つまりエッジも同様なこととなるわけで、その部分を中心にスパークすれば、普通電極では短時間に磨耗が進み、ギャップは広がることとなる。
ではどうするかと言うと、それはこの原稿を読んでいる方もすでにご存知の、白金プラグやイリジウムプラグを使用することである。
これらのプラグは、スパークの要求電圧を下げるため、細い電極としているわけだが、普通の金属では磨耗してしまうため、白金やイリジウムを使用している。これらを使用してギャップを小さくしていれば、早期に磨耗することはないはず。
もう少し内燃機関点火装置全般の知識があれば、はっきりとした答えを導き出していただろうし、遠回りする必要もなかったと思う。
分からなければ、点火プラグ製造のメーカーや、後付け点火装置を設計製造している、永井電子(ウルトラと言うブランド名)などに聞けば即答してくれるはず。このあたりの行動は、知っている人に聞く、とならなければ、開発・実験に時間がかかるばかりで、もったいないとしか言いようがない。
1.従来型のCDI放電特性とウルトラMDIデュアルの放電特性の違い。4気筒3000回転以下であるなら、マルチスパークが2回あり、完全燃焼に結びつける。放電時間の短さなどは関係なくなる。
2.普通電極の改造前プラグ。写真は0.9mmのギャップ仕様であるが、1.1mmというプラグもある。
3.接地側電極を叩いて曲げ、ギャップを0.1mmにしたプラグ。一時的には目的が達せられるのだが、使うことで何がどうなるかの考えはなかったようだ。
4.テストの最中にバックファイヤーが起きるようになったため、使用したプラグを外して見ると、中心電極の一部だけが磨耗し、ギャップは0.3mmになってしまった。この現象は当然起こることである。
5.点火プラグを選べば、いくら改造をしても、異常磨耗は置きにくい。白金プラグやイリジウムプラグは、中心電極を細くして要求電圧を下げながら、耐摩耗性を確保している。
文/青池 武
水素エンジン自動車とは(2008年)