「いきなり何だ」と反論を返されそうだが、ヘッドボルトを持つもの?は、それを締めなければガス漏れ、水漏れが起きて当然なので、あくまでも極意であることを念頭に入れて読んで欲しい。
バイク・エンジンでの経験談を下に話を進めると、それはレースで得た結果がある。
数十年も前のことだが、筑波サーキットで、当時盛んに行われていたミニバイクレース。そのレース用にマシンを製作した。
ベースとなったバイクはヤマハのGT80で、当時はヤマハからレース用の部品が発売されていたので、シリンダー回りはそれを使用したが、ヘッドはヤマハのチューニングパーツを製作販売していた“スペシャルパーツ忠男”の水冷ヘッド。
勿論、圧縮比は標準以上高くするため、ヘッドの合わせ面を旋盤で1mmほど削る。スペアとした空冷のヘッドも同様に加工して、水冷ヘッドを組み込んだが、ヘッドの厚みがあり、ナットとボルトの噛みあい寸法が十分ではないため、指定トルクまで(いくつか忘れた)締め付けられず、適当に締め上げてレースに参加。
但し、この当日、別の仕事が入りレース場にはいけなかった。もともとライダーは私ではないので、その友人にマシンを預けて結果を待つことに。
で、聞きました。レース結果を。すると「予選はブッチギリで、誰も付いてくる状態ではなかった」、「でも夕方の決勝前にパドックでエンジンを始動すると、ヘッドとシリンダーの間から火が噴出していたので、空冷のヘッドと交換し、しっかりとナットを締め、決勝に挑んだが、予選の走りは何処へやら」。結果は8位だったらしい。
何が変わってしまったのか。そのときには判断できなかったが、ある時、レーシングカートのエンジンで、常に速いカーターのエンジンをチューニングする人物は、ヘッドボルトをしっかりと締めず、軽く締める程度で、暖機運転中はヘッドとシリンダーの間から炎を噴いているが、暖機終了時にはピタリと治まっている、とか。
その目的は、シリンダーヘッドのボルトを締めることで、シリンダーやヘッドの熱膨張に対する歪を逃がすことが出来なくなり、その結果がシリンダーの真円度に出るので、エンジン性能の低下に結びつく、というものだった。
つまり、シリンダーヘッドを締めないことが、エンジン・チューニングには必要なことなのだ???
特に2ストロークでシリンダーとシリンダーヘッドを、クランクケースからの通しボルトで(スタッドボルト)締め付けているエンジンでは、エンジンが熱を持つことでシリンダーやシリンダーヘッドが膨張しても、締め付けボルトはそれほど延びないことから、暖機が終了する頃には、規定トルク以上にボルトを締めていることとなり、その歪は、シリンダーの内径に悪影響を与えるのだ。
それを熟知していたホンダ・スーパーカブ(SOHCでキャブ)エンジン開発責任者は、シリンダーとヘッドの締め付けボルトを吟味し、大部分の外径を細くすることで、必要以上に締め付け力(軸力というのだが)が高くならないようにしていた。
同様なことは、VWビートルの空冷エンジンにも見られる。1300~1600ccエンジンで、使用するボルトは長く、径は8mm。このヘッドボルト締め付けトルクは、確か3kg-m以下だったと思うし、いくら締めても、キッチリとした手ごたえを感じることはなかった。それで、あの安定した性能が得られていたのだ。
ある時、仕事の取材で、当時のチャンピオンエンジンを製作するショップにお邪魔したついでに、ヘッドのボルト締め付けについて聞いてみると「普通の方は、規定している締め付けトルクの±表示があると、ついついプラスの数値で締めますが、我々はマイナス数値で締めます」とのこと。「これは、ダミーヘッドボーリングやホーニングを行っても、熱が加わった状態での加工ではないため、それを見越してのことです」と話してくれた。なるほど矢張り・・・
F1エンジン(当時のチャンピオン、ルノーだったと思う)で、ある時、よく観察すると、どう見てもヘッドとシリンダーは一体構造。トヨタのエンジンでは、明らかにクランクケースとシリンダーが一体(一般のエンジンと構造が同じ)。
シリンダーとシリンダーヘッドが一体であれば、ヘッドガスケットを持たない構造となり、その部分の締め付けがないことから、ヘッドやシリンダーに対して締め付け歪、熱歪の影響が非常に少なくなる。シリンダーのボア大きく、ピストンのストロークが小さいレーシングエンジンなら、下側からヘッドの加工やバルブの組み立てなど、造作もないこと。
この、シリンダーとヘッドの一体構造は、実際に見たわけではないので“仮想”かと思っていたら、ある時、ケーブルテレビの番組で、アメリカのベンチャー企業が、F1エンジンのコンストラクターに参加しようと開発していたエンジンを見て、やはり、私の判断に間違いはなかった。一瞬だが、シリンダーの穴の先にヘッドが一体となっていることを見つけた。