今でこそ、排気ガスの関係で2ストロークのクルマやバイクは市販(レーサーは別)されなくなったが、それまでにも言われてきた「2ストは耐久性がない」と言う話は、真実なのだろうか。
なぜそういう結論を出したのか少し考えてみると、勘違いが多くあることに行き着いた。
結論から言うと、2ストロークのほうが耐久性は高い。それは、常に新しいエンジンオイルが供給されているから。また、発熱量も小さいため、熱による歪も少ないので、潤滑オイルに負担が掛からないことも耐久性に影響している。
では、なぜ2ストロークは耐久性がない、と言う話がまことしやかに叫ばれるようになったのだろうか。
それは、エンジンの造り方と組み立て方、使用するオイルに潤滑方法などが関係している。
分離給油(ヤマハが最初)が出てくるまでの潤滑は、ガソリンとエンジンオイルを混合する、混合方式。15:1から始まり30:1などにグレードアップしたが、いずれにしてもオイルとガソリンの混合方式であると、エンジンに負荷がかからないアイドリングから、急な坂での登坂と言う、エンジンにとっては過酷な状況の中でも、決まったオイルの混合比でまかなうということになる訳で、エンジンに負荷が少ない領域では、未燃焼のオイルはカーボンとなり、エンジン内やエキゾースト周りに堆積する。
この溜まったカーボンは、走行中にホットスポットとなるばかりではなく、排気ガスがスムーズに排出されないことで、排気の熱がエンジンに溜まり、オーバーヒートから焼き付きという結果を招く。
では、なぜ2ストロークは・・・となってしまったのだろうか。それは、そのエンジンの造り方が間違っていたからだ。
研究者の経験が間違っていたとしたら、どうなるのだろうか?その間違いは「2ストロークはどのように造っても耐久性はないし焼きつきも起こしやすい」というようなことで、これがそもそもの間違いと言える。
2ストロークの構造的な問題は、シリンダーに吸気(クランクケースの場合もある)と掃気、更に排気のポートが付いていることで、このことが何を呼び起こすのか、と言う点についての研究がなされていないと、「やっぱり2ストロークは・・・」となってしまう。
耐久性が高かった事例としては、ホンダCRM250Rをバイク便として使った例がある。それまでは、高性能なシングルバイクが良い、と言う評判でそれを使っていたが、業務で、酷使すると、本来持っている性能が露呈する。それは最高速度や走破性という見えるものではなく、如何に長持ちするかと言う耐久性である。
そうなると、2ストロークのネックとなる設計不良を取り除いて、トータルの性能向上を果たしたバイクの評価が高くなる。
どの部分が2ストロークとして重要かということになるが、それは、熱歪をいかにして、それが起き難い基本的な設計に行き着くかである。
特に排気ポート周りの熱歪に対する考え方は重要で、どのような形状がいいか、当時の空冷方式では(強制空冷を含めて)、排気ガスからの影響で高温となる部分は、冷却風による冷却効率を高めようと、排気ポート周りの厚みを薄くする(確かに薄くすれば熱伝導率が高くなり、冷却と言う点からだけ見ると、それでいいのだが)、と言うことにこだわると、薄く造れば熱による歪は大きくなり、その結果排気ポートからの歪はシリンダー内のいたるところに波及し、シリンダーの変形により焼きつきと言う現象になる。
しかし、そのエキゾーストポート周りをたっぷりとした容量の大きな形状で造ると、空冷による冷却効率は下がるが、熱による歪は少なく、安定したエンジンとすることが出来る。
ある強制空冷の2ストロークを分解してみたことがあるが、シリンダーの排気ポート上部に、焼きつきやオイル切れによる引っかき傷はなく、ピストンの接触面もきれいな状態を保っていた。そして、そのシリンダーを観察してみると、排気ポート周りはこれでもか、と言うほどの金属の塊で構成されていた。その結果、熱歪は少なく、エンジンの性能ダウン(ダレという表現をする)は見られないと言うことだ。
これにより焼き付きや、歪による異常磨耗はなく、酷使しても最後までエンジンは使えるというのだ。
バイクに限らず、360cc時代の軽自動車(当然強制空冷)でも、オイル管理と使用するオイルを選ぶことで、20万キロ以上にわたり快適に走っていたと言う話を、そのオーナーから聞いたことがある。「2ストロークエンジンの耐久性がない、と言うのは違う」とその方も力説していた。
また、アウトボードモーターボートエンジンでは、その昔常識的に採用されていた。パワーがありコンパクトで軽量と言うのが理由だが、排気は水中(マフラーなど付けられる状況ではない)であるから、排気ガスにオイルが含まれることになるので、海や湖などが汚染される。
そこで出てきた規制が、かの有名なボーデン湖規制と言うやつ。どの程度の規制なのか忘れたが、かなり厳しいもので、そのためにガソリンに混合するオイルは60:1や100:1などと言うとんでもなく薄い比率。この薄さで全負荷運転するのだから、そこに求められるエンジンの材質と規格はものすごいこととなる。
2ストロークのロードレーサーも100:1や120:1と言う、オイルが混じっていることを確認できないくらいの混合比で走らせていたのだ。
この少ないオイルで性能を発揮できるし、4ストロークのたっぷりとあるエンジンオイルに比べたら、普通に使う限り問題などでなくてあたりまえ、と言うことが言えそうだ。
このボーデン湖規制が更に強くなった結果、現在の4ストロークアウトボードエンジンが開発された。
余談だが、当初は4ストロークのアウトボードエンジンが海外メーカーでは、求められる性能で開発できなかったため、日本のスズキやヤマハからのOEMで賄っていた。