研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2020年9月17日木曜日

2ストロークエンジンに耐久性がないという話は、真実なのだろうか?



今でこそ、排気ガスの関係で2ストロークのクルマやバイクは市販(レーサーは別)されなくなったが、それまでにも言われてきた「2ストは耐久性がない」と言う話は、真実なのだろうか。

なぜそういう結論を出したのか少し考えてみると、勘違いが多くあることに行き着いた。

結論から言うと、2ストロークのほうが耐久性は高い。それは、常に新しいエンジンオイルが供給されているから。また、発熱量も小さいため、熱による歪も少ないので、潤滑オイルに負担が掛からないことも耐久性に影響している。

では、なぜ2ストロークは耐久性がない、と言う話がまことしやかに叫ばれるようになったのだろうか。

それは、エンジンの造り方と組み立て方、使用するオイルに潤滑方法などが関係している。

分離給油(ヤマハが最初)が出てくるまでの潤滑は、ガソリンとエンジンオイルを混合する、混合方式。15:1から始まり30:1などにグレードアップしたが、いずれにしてもオイルとガソリンの混合方式であると、エンジンに負荷がかからないアイドリングから、急な坂での登坂と言う、エンジンにとっては過酷な状況の中でも、決まったオイルの混合比でまかなうということになる訳で、エンジンに負荷が少ない領域では、未燃焼のオイルはカーボンとなり、エンジン内やエキゾースト周りに堆積する。

この溜まったカーボンは、走行中にホットスポットとなるばかりではなく、排気ガスがスムーズに排出されないことで、排気の熱がエンジンに溜まり、オーバーヒートから焼き付きという結果を招く。

では、なぜ2ストロークは・・・となってしまったのだろうか。それは、そのエンジンの造り方が間違っていたからだ。

研究者の経験が間違っていたとしたら、どうなるのだろうか?その間違いは「2ストロークはどのように造っても耐久性はないし焼きつきも起こしやすい」というようなことで、これがそもそもの間違いと言える。

2ストロークの構造的な問題は、シリンダーに吸気(クランクケースの場合もある)と掃気、更に排気のポートが付いていることで、このことが何を呼び起こすのか、と言う点についての研究がなされていないと、「やっぱり2ストロークは・・・」となってしまう。

耐久性が高かった事例としては、ホンダCRM250Rをバイク便として使った例がある。それまでは、高性能なシングルバイクが良い、と言う評判でそれを使っていたが、業務で、酷使すると、本来持っている性能が露呈する。それは最高速度や走破性という見えるものではなく、如何に長持ちするかと言う耐久性である。

そうなると、2ストロークのネックとなる設計不良を取り除いて、トータルの性能向上を果たしたバイクの評価が高くなる。

どの部分が2ストロークとして重要かということになるが、それは、熱歪をいかにして、それが起き難い基本的な設計に行き着くかである。

特に排気ポート周りの熱歪に対する考え方は重要で、どのような形状がいいか、当時の空冷方式では(強制空冷を含めて)、排気ガスからの影響で高温となる部分は、冷却風による冷却効率を高めようと、排気ポート周りの厚みを薄くする(確かに薄くすれば熱伝導率が高くなり、冷却と言う点からだけ見ると、それでいいのだが)、と言うことにこだわると、薄く造れば熱による歪は大きくなり、その結果排気ポートからの歪はシリンダー内のいたるところに波及し、シリンダーの変形により焼きつきと言う現象になる。

しかし、そのエキゾーストポート周りをたっぷりとした容量の大きな形状で造ると、空冷による冷却効率は下がるが、熱による歪は少なく、安定したエンジンとすることが出来る。

ある強制空冷の2ストロークを分解してみたことがあるが、シリンダーの排気ポート上部に、焼きつきやオイル切れによる引っかき傷はなく、ピストンの接触面もきれいな状態を保っていた。そして、そのシリンダーを観察してみると、排気ポート周りはこれでもか、と言うほどの金属の塊で構成されていた。その結果、熱歪は少なく、エンジンの性能ダウン(ダレという表現をする)は見られないと言うことだ。

これにより焼き付きや、歪による異常磨耗はなく、酷使しても最後までエンジンは使えるというのだ。

バイクに限らず、360cc時代の軽自動車(当然強制空冷)でも、オイル管理と使用するオイルを選ぶことで、20万キロ以上にわたり快適に走っていたと言う話を、そのオーナーから聞いたことがある。「2ストロークエンジンの耐久性がない、と言うのは違う」とその方も力説していた。

また、アウトボードモーターボートエンジンでは、その昔常識的に採用されていた。パワーがありコンパクトで軽量と言うのが理由だが、排気は水中(マフラーなど付けられる状況ではない)であるから、排気ガスにオイルが含まれることになるので、海や湖などが汚染される。

そこで出てきた規制が、かの有名なボーデン湖規制と言うやつ。どの程度の規制なのか忘れたが、かなり厳しいもので、そのためにガソリンに混合するオイルは60:1や100:1などと言うとんでもなく薄い比率。この薄さで全負荷運転するのだから、そこに求められるエンジンの材質と規格はものすごいこととなる。

2ストロークのロードレーサーも100:1や120:1と言う、オイルが混じっていることを確認できないくらいの混合比で走らせていたのだ。

この少ないオイルで性能を発揮できるし、4ストロークのたっぷりとあるエンジンオイルに比べたら、普通に使う限り問題などでなくてあたりまえ、と言うことが言えそうだ。

このボーデン湖規制が更に強くなった結果、現在の4ストロークアウトボードエンジンが開発された。

余談だが、当初は4ストロークのアウトボードエンジンが海外メーカーでは、求められる性能で開発できなかったため、日本のスズキやヤマハからのOEMで賄っていた。

2020年9月7日月曜日

②面白い画像と写真。何用のエンジンなのかの説明


は、スバルがF1エンジン・コンストラクターをやろうとしたときのもので、シャシーはミナルディを使うことになっていたが・・・このチームには通訳として日本人が居た。でも、幅が広くなるエンジンは空気抵抗が多く、結局ものにならなかった。エンジンの設計はイタリアのキティ博士。

さすがにイタリア、フェラーリと同様の考え方をしているのが分かるだろうか。

12気筒なのにクランクシャフトのジャーナル(支持部分)は、なんと4箇所しかない。スバルの考え方なら13個になる。4箇所のジャーナルではまともに高回転しない。フェラーリのF1エンジンも同様に設計されていたと言う(ホンダがF1から撤退するとき、当時のフェラーリエンジンを分析し、ホンダ流の設計で試作して、その試作エンジンと図面などのデーターをフェラーリに譲渡した)。フリクションが多いなら、そのフリクションとなる部分を減らしてしまえ、と言う、イタリアならではの設計で実に分かり易い考え方が見えていた。
 

そして、水平対向ではない。フェラーリも市販のスーパーカーエンジンは、同様な造り方で、ピストンは対向状態になっていなかった。

V90度エンジンのように、ひとつのクランクピンに対して、左右のコンロッドを取り付けるタイプ。90度Vであると、エンジンの1次振動(エンジン1回転ごとに出る一番大きな振動)がなくなるのでいいのだが、180度Vと言うレイアウトではそれを望むことは出来ない。

ここにもクランクシャフト剛性をどう考えているのか不思議に見える。対向ピストンとすれば大きな問題は片付くのだが。

今ではこんなエンジンは市販車にもない。水平対向となれば、2気筒でも振動は少ない(BMWのバイク)。ホンダのバイクにもある、水平対向6気筒となるとエンジン単体での始動でさえ、固定しない状態で、アクセルを大きく開けても、その場で暴れだすことはないという話も聞いた。

で、キティ博士設計のこのエンジンは、1年後だったかのWSPCにエントリーしていたが、練習、予選で、走行シーンを見ることはなかった。

 

マツダがル・マン24時間耐久レースで優勝したときのエンジン全体図

トルクカーブを力強くするため、インテークには長さを電子制御するテレスコピックのエアホーンが装備された。最初のエアホーンはスロットルと連動だったと思うが、定かではない。
 

 

メルセデスがグループCでのレース用として新しく開発したエンジン。水平対向12気筒である。インテークとエキゾーストが上側にある。吸気効率と排気効率にエンジン搭載の高さを考えたらこのような設計となるが、排気が上側と言うのは、エキゾーストパイプの高温を冷却する効率が悪い。
 
 

カウルの中に高温が溜まるので、トラブルの元。このエンジン搭載のレースは、鈴鹿サーキットで行われたWSPC。ドライバーのひとりはM・シューマッハだったが、ピットでの給油で失敗し、クイックチャックが閉まりきらなかったようでガソリンが噴出し、火が着いたのをシューマッハも気が付き、逆バンクを上がる途中でグリーンに飛び出し、クイックチャックの蓋を閉めようと、火がチョロチョロ着いている状態でいじっていたが火は消えない。

そこにオフィシャルが消火器を持ってきて、火を消そうと言うアクションを起こしたので、シューマッハはそのオフィシャルの行為を止めようとしていた。その理由は知らない。しかし消火器は噴射され、火は消えたがシューマッハはリタイアとなった。レース(正確にはピット作業やマシンの状態とメカニズム)を取材に行っていたので、この状況は肉眼で確認した。

2020年8月23日日曜日

新型エンジンの造り方を見て、これまでにない設計に唖然としてケチをつけた⑮



整備でヒューマンエラーが起きない、起き難いクルマを設計製作していたT社が発表した新型車は、オイルフィルターが交換しづらい場所にあった。

そのメーカーのクルマを数多く取材に使い、「さすがに世界で認めるだけのことはある」といつも感心していたが、あるとき???

それは、定期的に交換しなければならないエンジンオイルのフィルターが、特別な方法でないと見えるような形に取り付けられていないことだった。

オイルフィルターは、ボンネットを開けても見えないし、ハンドルを大きく切っても見えない。

一部のメーカーでは、シリンダーブロックのラジエター側に取り付けられていたり、ハンドルを右にロックまで切って、そこからタイヤハウスの中を覗くと、目の前にフィルターが取り付けられている、と言うほど交換性が良かったのだが、その問題となっているクルマは、シリンダーブロックの後ろ側に取り付けられており、ピット作業かジャッキでクルマを持ち上げ、そのクルマの下にもぐらなければ手が届かない位置にあった。それはまるでFWD初期のモデル(RWDレイアウトのエンジンを流用していた)のような状態だった。

発表会ではT社のエンジン開発担当者が居なかったので、その詳細を聞くことは出来なかったが、試乗会に呼ばれたときにはエンジン開発担当者と会う機会があり、なぜこのようなレイアウトになったのかしつこく聞いてみた。

というのも、そのメーカーのクルマ開発では、整備性が重要項目であり、自社評価の100点主義を旨としていたからだ。

そのことは、これまでの取材の中で、直接整備性を検証する担当重役から聞いていた。「とにかく自社が決めている100点が重要で、他のメーカーと比べた場合、ある一箇所が劣っていたら、設計変更を要求する」と言う厳しいものだった。

この組織は、サービス技術部とは違うもので、あくまでも市場でのメンテナンス時に、ヒューマンエラーが起きない構造であったり、余計な作業を必要としない構造を要求していた。

とにかく扱いやすく、人間(ディーラーのメカニック)のやることを信用していないと言うか、当てにしていないような設計と製造が各所に見られた。

そんなことを重点にしているメーカーから???のエンジンが出現したので、開発担当にしつこく迫ってみたのだ。

「貴方の会社が作るクルマは整備性が優先されていたはずだが、なぜこのような構造となったのか」。整備性評価グループから指摘はなかったのか。

すると、そのうるさい組織は当然知っているわけで、「その組織の担当者の全てがOKの印を押しているのです。当時はコストも関係したと思います」。と言う話だった。

現在は、そのエンジンに対する評価がどうなっているかは知らないが、雑誌の編集をやっているときに、読者からいろいろ質問が来る。その中で、どのメーカー、どのクルマが整備初心者にはお勧めか、と言う問いに対しては、T社のファミリークラスを勧めたほどだ。

2020年8月15日土曜日

だいぶ前だが、試乗会でブレーキペダルを踏むときに、つま先が何かに当たり・・・と言うケチをつけた⑭



そのクルマは、そのメーカーのトップブランドと言えるクラス。当時から左足でのブレーキ操作をしていたのだが、その問題となるクルマは、緊急的に左足をブレーキペダルに持っていこうとすると、つま先にワイヤーハーネスの太い部分が当たり、一瞬別な行為になったのかと感じて、ブレーキ操作が遅れる。

右足ではそのような問題は出ないが、それでいいというわけにはいかない。

開発者との話で、左足ブレーキのことを強調していたら「それほど左足でのブレーキ操作にこだわるなら、MT車には乗れないでしょう」と言う質問と言うか、言いがかりをつけてきた。

ここで、思いっきり反論しようかと思ったが、数秒時間を置いて「でも、サーキットではトー&ヒール使うんですよ」と言ったらその後は黙り込んでしまった。

ATで左足ブレーキを完璧に使える人が、MTに乗った場合、ろくに操作が出来ない、と言う考え方は間違いである。

それは、試乗会などのイベントで乗るクルマは、ほとんど2ペダルのATだが、マイカーは、なんと5速のMTである。どちらを運転しても、操作でまごつくことはないからだ。

2020年8月10日月曜日

警察官と拳銃の事件が報道されるたびに、アメリカ・ニューヨーク市での拳銃についてのことが思い出される



銃社会のアメリカでは、いくら警察官と言えど直ぐに引き金を引く人物がいるらしい。そこで考えられたのが(だいぶ前のことだが)銃身を短くし、撃鉄を起こせない構造のダブルアクション式リボルバー。

この構造であると、しっかりと目標物に照準を合わせることが難しく、かつ銃身が短い(5cmぐらい)ので、弾はまっすぐに飛ばない。

この短い銃身を持つ拳銃での射撃をやったことがあるが(アメリカで)、ダブルアクションではない構造のものでも、いくら正確に的を狙って引き金を引いたところで、弾はあらぬ方向へ向かっているようで、10m先につるされた的には当たらず、その的をつるす金属にぶつかり、溶けた鉛が跳ね返って熱い思いをするだけだった。普通のブローニング拳銃(自動拳銃)に交換すると、確実に的を射抜いた。

話は戻って、それでもニューヨークにおける警官の拳銃事故はなくならず、次の一手を考えた。それは、弾の材質を金属からプラスチックへ変更した。(日本でも警官の拳銃訓練ではプラスチック弾が使用されていると言う話を聞いたが。それは、金属だとお金がかかるから)

では、なぜニューヨークではプラスチック弾なのだろうか。それは、金属弾であると貫通銃創の場合、場所によっては致命傷とならず、犯人は逃亡することができてしまう。

もちろん痛さは有るが、弾が突き抜けることで出血は少なく、当たった場所によっては、ダメージが少ない。

そこで考えられたのが、プラスチックの弾。軽いので致命傷にはならないが、貫通銃創を起こさないため、その痛さはすごいらしい。人体の骨がない部分に当たれば、いくらプラスチック弾と言っても、内部にめり込んだり、眼球を破壊する(弾が脳に達するだろうから死亡)ようだが、それ以外の場所では、どこに当たっても七転八倒(しちてんばっとう)の痛さで、容疑者はその場から逃げることはできないと言う。

ただし、現在がどうなっているかは定かではない。プラスティックの銃弾であって欲しいが・・・

この方法がいいと思うのだが。日本の警察官が持つニュー南部と言う名前の拳銃は、射程距離が長く命中率も高いと言うが、射程距離が長い必要はどこにあるのだろうか。凶暴な犬1匹に対して、その場に居た警官二人は13発発砲して、処分したと言う????

我が家では、いまだに警官による拳銃の発砲があると、凶暴とは言えども犬1匹に対して、射殺するまでに13発も発射したと言う記事が話題になる(漫画のバカボンに出てくる、お巡りさん状態)。パニックになって、むやみやたらに発砲したのだろうから、その流れ弾が心配。そうすると、プラスチックの弾に行き着く。

プラスチック弾だったら、交番を襲撃して警官の拳銃を奪う、と言う凶暴な行為も少なくなるのではないかと思う。それに、日本の警察では、いまだに45口径(45/100インチ)だから、約11ミリ。殺傷力は高いが、それの必要性はどこにあるのだろうか。

銃を所持して、人を殺そうと構えている犯人に対して発砲するにしても、射程距離が的が見えないくらいの距離を持っていたとして、それがなんの役に立つのだろうか???

2020年8月5日水曜日

ブレーキペダルの応答性と、効きの悪さに疑問を呈した⑬



あるときなんとなく気が付いた(現代ではない)、それは、2リッタークラスのクルマで低速走行しているとき、ブレーキペダルを急激に(急ブレーキ状態)踏み込んだ場合でも、タイヤがロックするような状態にはならないこと。

特に4輪ディスクとなるとこれがひどい。

でも、排気量が小さな(1300cc)クルマとなると、ブレーキペダルに対するブレーキシステムの反応がまるで違う。それは、走行中でなくても検証できる。

どのようにしたかと言うと、駐車場でエンジン・アイドリング始動中、ギヤはニュートラル。その状態でブレーキペダルを力強く、素早く踏み込んでみれば、その反応で判断できる。

排気量の小さなクルマは、ブレーキペダルがフロア近くまで下がるが(タイヤがロックする状態)、排気量が大きなクルマは、ブレーキペダルからの反発が大きく、どんなに力を入れても、踏み込むのに時間が掛かる。つまり、タイヤがロックする状態まで、ブレーキパッドはローターを締め付けていない。その前に停止してしまうし、制動距離は伸びる。

排気量が大きなクルマは、普段使用するときのペダル踏み込み力を小さくするため、ブレーキブースターを大きくしたり、ダブルとしたりの構造だが、これが災いを招いている。

ブレーキブースターの基本的な構造は、大気圧を利用することで、如何にその大気圧を素早くブースター内に取り込むかが重要だが、それが簡単ではない。

大気圧を素早く大量に取り込めばいいのだが、そればかりを目標に製造すると、ブレーキペダルを踏みつけたとたん(どんなにゆっくりとやっても)、ブースターの力によってマスターシリンダーは強く押され、いきなりタイヤはロックする。

ブレーキペダルを踏みつける力を、素早く、かつバランスよくブレーキ・マスターシリンダーに伝えるには、微妙な構造と調整が重要となるのだ。

また、マスターシリンダーに対する助勢力が加わった瞬間には、その助勢力を維持する構造が必要で、更に、それ以上マスターシリンダーを押す力が加わらないようにしないといけない。そこで組み込まれているのがリアクションディスクと言うゴムの板。でもこのゴムの硬さと厚さが重要。これが難しい。さらに、大気圧を取り込むバルブの大きさやそのバルブに作用するストロークも重要となる。

これがブレーキブースターの構造。よく観察しても作動を理解するには時間が掛かる。定圧室と書かれている所は、エンジンのバキューム圧が掛かるところ

 
当時の我が愛車は、1秒ぐらいかけてブレーキペダルを踏み込めば、恐らくロックするであろう位置までペダルは踏み込めるが、時間を掛けてのペダル操作では、緊急ブレーキとして役に立たない。

この応答性が悪いブレーキ、何とかしたいと思い、雑誌編集の企画で改良を考えた。そして、大切なことは、マスターバックの構造を理解すること。構造を理解することで、ブレーキのバージョンアップできるヒントが見つかるかもしれないからだ。

そして、この問題となるブレーキの性能は、ブレーキメーカーはもとより、ブースターを製造するメーカーもかなり前から知っていたということが、取材していく最中に分かってきた。

ついでに述べておくが、現在のクルマでは、ABS装着によって、ABSモジュレーターは、ブレーキペダルの踏み込む力が不足していても、ABS作動を目的にブレーキラインの圧力を一杯まで上昇させる構造なので、昔のような(原稿に出てくる表現)問題は起きない。ABS作動条件も、アクセルペダルから足が離れてブレーキペダルを踏み、ブレーキスイッチがONするまでの時間から、急ブレーキ、タイヤロックの条件として、ABS作動となる。もちろん実際にブレーキロック寸前から(タイヤにあるスピードセンサーの波形を使う)ABS作動は基本だが。

実は、ABSの作動スタンバイ、と言うような状態があるようで、各ホイールのスピードセンサーからの信号が不釣合いとなると、ブレーキ信号に関係なく、ABSは作動していると言う話だ。

そのことを聞いたので、路面が良くない場所(ダートなど)を走行しながら、ABSユニットが本当に作動しているかどうか、アクセルペダルを踏んで、ホイールが空転する状態を作り、ブレーキペダルに軽く足を乗せると「ココココココ」と言う軽い信号のようなものを感じた。これがABS作動中という信号らしい。

このようなことを調べていたら、モーターショーの会場、部品館で「高応答型ブレーキブースター」なるものが展示されていたのを発見。

これは取材したいと思い、ブースに居た方にお願いすると「モーターショーが終わったらOKです」と言う返事をもらった。そして、その部品メーカーと言うのが、東京にあるということで、取材に出かける。

取材当日、その高応答型ブレーキブースターは、ブースターそのものと言うより、大気圧を取り込む部分の構造にあることが分かった。大気圧バルブの構造が2重になっており、ブレーキの踏み込む速度と力によって、大気圧バルブの開くストロークが変化すると言うことで、問題を解決すると言う。

それでは、これまでのブレーキペダルフィーリングについて、そのサプライヤーさんはどう感じていたのだろうか聞いてみると、「急ブレーキ状態のときにブレーキペダルが踏み込めない状況が存在するのはかなり前から知っていたが、その状況を著名な自動車評論家の試乗記を読んでも、問題が指摘されていなかったので、なんとなく無視していた」と言うとんでもない状況を知らされた。

それからは、試乗の度にブレーキペダルとその能力について検証し、問題があると開発者に説明を求めたが、内容をはぐらかすばかりで、肝心なことには行き着かなかった。つまり、行き着かないというより、ブレーキブースターとそこに関係する大気圧バルブのことが、理解されていなかったのだと分かった。

しばらくして、ある自動車メーカーが、当時の谷田部(自動車研究所)で、2種類のブレーキブースターを組み付けたクルマの検証を行いますから、体験と確認をしてください、と言う話が舞い込んできた。

その2種類のブースターとは、1点は先ほどの構造が複雑なタイプで、もうひとつは、リアクションディスクの厚みを変更した、ごくシンプルな改良モデルだった。

そして、実際のブレーキペダル感覚と制動感覚を比較すると、どちらも遜色のないことを確認。その結果、その自動車メーカーは、コストが安く、問題の解決に結びつくリアクションディスク改良型を採用した。

そして、マイカーにある問題点はどのようにチューニングすれば解決するのか・・・まず、ブレーキ周りのオーバーホール。キャリパー周りからマスターシリンダー、そしてブースターについて同様に分解して確認する。

すると、大気圧が流れ込む部分にフィルターが二重で付いていることを発見。ここのフィルターはある程度重要で、ここから入った大気圧(空気)はエンジンに吸引されるので、そのことも計算されている。

ブレーキペダルを踏んだときに出る音消しもあるようだから、その音より性能を重視して、片方のフィルターを取り外す。ただし、このフィルターは音消しよりも、吸い込まれる空気(大気)中のごみを除去することが目的なので、無視してはまづい。

このようは改良を行ったことで、緊急ブレーキ性能は少し改良された。

このブレーキブースターレスポンス問題は、各自動車メーカーも重点的に取り上げ、ブースターの基本的な構造が見直されたものも出てきた(現在ではあたりまえになったが)。それは、インテークに作用するバキューム圧を利用すると言うものではなく、油圧モーターとアキュムレーターの採用で、油圧ブースターとしてきたのだ。

最初にやったのは、矢田部の体験試乗で呼んでくれたメーカー。そのメーカーの最上級モデルに採用された。でも、それほどの感激はなかった。

他のメーカーでも巷からの意見を踏まえて、油圧ブースター方式が取り入れられた。とくにハイブリッドカーでは、エンジンが回転していない状況で、バキューム圧が低下していれば、ブレーキ性能がダウンするので、安定的にブースター性能を確保しようとしたら、モーター駆動による高圧オイルポンプと、その圧力を使うブースターは必須項目だった。

T社の構造はかなり複雑で、ストロークセンサーと言うものまで取り付けられたが、確かにブレーキ性能と、そのフィーリングは向上していた。現在ではこれが標準装備となっているようだ。