デミオクラスに搭載されるディーゼルエンジンであれば、1.5リッターとなることは自ずと判断できるのだが、ただ単純に排気量が小さなエンジンを造れば済むようなことではない。それがガソリンエンジンとポスト新長期を目指したディーゼルエンジンの大きな違いである。
新開発の1.5リッターディーゼルエンジン。マーケットは日本ばかりではない。アメリカでは魅力を感じてもらえないので、輸出するつもりはないという話だ
当然、Noxは後処理なしで、2.2リッター同様に基準値以下。アメリカ輸出のため2.2リッターではEGRの量を増やして対応しているが、1.5リッターとしてはアメリカ輸出を考えていない。それは、排気量が小さいと(アメリカ人は多少燃費が悪くても、とにかく大きなトルクを要求するので)、いくらディーゼルの燃費が良いからといって、購入する気持ちが働かないからだという。
もちろん先輩である2.2リッターエンジンがあるから、それと同等の燃焼効率で軽いフットワークを望まなければ話は簡単だが、それでは許されない世界をマツダ自身が作り上げてきた。
製造コストもそうであるが、小さなエンジンルーム内に収めるには、2.2リッターエンジンでやってきたことの一部を大きく変更しなければならなくなる。それがインタークーラーの取り付け場所と形状である。
すでに欧州メーカーでは取り入れているが、吸気コレクターの容積を上げ、そこに水冷式のインタークーラーを取り付けるという方法を採用した。排気量の大きなエンジンでは効率が悪くなる状況でも、1.5リッターであるなら、十分高い冷却効率とスペース効率、充填効率を確保できたのである。
吸気コレクターの中に納められた水冷式のインタークーラー。コンパクトであるだけではなく、過給パイプも短くなり過給遅れが小さいのも特徴
また、吸気マニホールドとターボコンプレッサーを繋ぐパイプが短くなるため、過給圧の上昇が早く、過給遅れの症状が小さくなることも見逃せない。
最大過給圧は2気圧でインジェクターの最大噴射圧力は2000気圧。これは2.2リッターエンジンと同じ。ただ大きく違うのはインジェクターの駆動がピエゾ素子からマグネット式に変更されたこと。それによるコストダウンはかなりあるというが、求める性能は十分で、インジェクターとしての作動インターバルはピエゾが0.1mmS(ミリ・セカント)であるが、新開発のマグネット式は0.2mmS。これまでのマグネット式では0.4~0.5mmSであったことからすると、大きな飛躍であり、噴射パターンを少なくしても排気ガス問題も起こらず、燃焼音も小さいので問題は出ていない。
下が1.5リッター用に開発したマグネット式のインジェクター。作動インターバルはピエゾに及ばないが、目的の噴射パターンには対応している
インジェクターの作動は大半が5パターンで、DPF再生の時には6パターンとなる。通常の噴射パターンはパイロット・プレ・プレ・メイン・アフターである。
ターボチャージャーは2.2リッターのようなシーケンシャルツインではなく、シングルで、それにVG(バリアブル・ジオメトリー)採用とした。
タービンに排気ガスが当たる角度を自由に調整できるVGターボの利点を生かし、冷間時始動ではVGを全閉とし、部分燃焼した排気ガスが行き場を失い、これをシリンダーに押し戻すことで、初期の圧縮温度を高め、始動を確保している。2.2リッターのような排気バルブを一時的にリフトして、吸気行程でその排気ガスを引き込むというような機構は採用していない。
VG付きのシングルターボ。バルブを完全に閉めることで、冷間時の始動性を確保した
また、排気量の関係で冷却損失が大きいため、圧縮比は2.2リッターの14よりも高い14.8にせざるを得ない状況になっている。
さらにシリンダーボアが小さくなることで、これまでの技術では追いつかない状態が出たため、ピストン頂面の形状を変更することによりこれを改善。
何が起きていて、それをどのように改善したのか。
燃焼室(ガソリンエンジンとは違ってピストン側にある凹み)の形状こそ2.2リッターエンジンからの踏襲したエッグシェイプだが、マツダのSKYACTIV-Dは上死点燃焼を目標としている関係で、燃焼室上部端面からシリンダー壁面までの距離が小さいと、ピストンが下がる前に燃焼ガスの初期火炎がシリンダー壁に当たり、シリンダー壁面熱損失が発生するため、燃焼室に近いピストン頂面の一部を削り、段付きとしてこれを抑制。
右が1.5リッターディーゼルのピストン。ピストン頂面を見れば、段付きの形状がわかるだろう。これで効率を高めている。左が2.2リッターのもの
また、インジェクターからの噴霧を出来るだけ小さく飛ばし、燃焼初期の高温ガスを、出来るだけ燃焼室壁面から離すことで壁面熱逃げを抑制し、燃焼効率を高いものとした。
これによるトルク特性は、2.2リッターのような山型ではないものの、5200回転まで気持ちよく回るエンジンにより、十分に楽しめるエンジン特性を得ている。
カバーを取り外すとこのように。ゴムのグロメットに押し込まれているだけの固定なので、引き上げれば簡単に取り外せる