研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2015年2月22日日曜日

不定期連載 数式を使わない、クルマの走行安定性の話・9/17


リヤサスが作動しなくても問題を感じなかったレーシングマシン

FWDにおけるフロントWウイッシュボーン・サスペンションの採用は、リスクが多すぎる。構造上で考えると、設計値どおりに長年にわたり作動させることが不可能である。ブッシュの劣化、ダンパーの劣化、ボールジョイントの磨耗、アームの劣化などによってジオメトリーが狂う。

いくら等長のドライブシャフトであっても、加速、減速によってエンジンの傾きが発生すれば、等長なんて関係なく、ジョイントの左右角が変化し、トルクステア(どのような状況でトルクステアが発生するかの分析が出来ているので、今では死語)が加速時でも、減速時でも発生する。これは前記のことと関係し易い。

Wウイッシュボーンでも、アンチダイブやアンチスクオート、ダイブダイブによるキャスターの増加など、複雑な動きに対する設計を追加しないなら、このような状態は発生しにくと考えるのだが。

クルマの自然な動きに反する作用をさせれば、当然その反撃に遭うわけで、正しい動きを持続するのが難しくなって当然。特にアッパーアームの強度と剛性、取り付け点における強度、剛性、精度も問題になる。

クルマの荷重をどこで受けるかも問題となる。サスペンションのアームで受けることはさけるべきである。考えてみれば当然のことで、荷重に対抗してサスペンションアームは曲げや捻りの外力が入る。サスペンションとして作動する以外の外力が加わり、ブッシュは思わぬ方向に変形し、ダイナミックアライメントばかりでなく、ジオメトリーまで悪い方向へ変化する。

こうなればブッシュのヘタリも早い。さらに、アームのボールジョイントにもクルマの荷重が加わることになり、摩耗が起きやすい。ただしWウイッシュボーンやマルチリンクでも、ストラットのような形で、ナックルに対してショックとスプリングを付けることにより、直接荷重を受けることができるし、プログレッシブに作動させることも可能だ。足回りの耐久性を考えて、このような設計を施したクルマもある。

日本車におけるサスペンションの非常に悪い点を見たことがある。それは、'89年のルマン24時間でのこと。ルーティングでピットに入ってきたマツダ・ロータリー。ドライバーチェンジ後に、スタートのOKを出そうと思ったメカニックが、なにげなくリヤフェンダーを見ると、何かで擦れた穴があることを発見した。

ピットの上からマツダチームを24時間張り付きで取材していた私も(実際には24時間ではなくレース当日早く起きてサーキットへ行き、レースが終わってホテルに帰って、メディア関係者と打ち上げだから40時間以上)、同時にそれを発見していた。タイヤで擦れて穴が開いたのだ。なぜそうなったのかというと、ダンパー&スプリングの取り付けボルトが脱落したからだ。ただそれだけ、と見てしまう人もいるが、そこには大きな問題が他にあったのである。

サスペンションのアームがどこかにぶつかって、ボディが路面を擦るようなことはなかったが、サスペンションとしての機能は果たしていないわけだ。にもかかわらずドライバーからは何もコメントがでていないのである。

つまり、このクルマにはリヤサスペンションは必要なかったのである。非常に情けないことだが、サスペンションスプリングは、ただの車高調整用のスペーサーでしかなかったわけだ。サスペンションが有ろうが有るまいが、クルマの操縦・走行安定性に変化がないなら、とてつもなく金と時間をかけてサスペンションを開発する必要はない。

このような状態を経験したマツダは、改良に成功し'91年のルマン24時間に見事優勝したのである。

ボディ剛性のなさがサスペンションとして機能していたとしたら、これほど情けない話はないが、たぶんそのとおりであると思う。あるいは、現在のF1のように、フロントサスペンションの動きを各チームごとに計算し制御して、タイヤやシャシー構造の特性から、一時期は作動させないで(年月によって変わっているので決め付けられない)、リヤのみに作動ストロークを造ることにより、バンピーな路面でのステアリング安定性と正しいダウンフォースを確保していることから、マツダREも、もしかすると、リヤの代わりをフロントが作動を受け持っていたのかもしれない。

グラチャン(グランドチャンピオンシップレース)をフジスピードウエイのバンクを使ってやっていた頃、現・筑波ガレージの社長・堀氏は、当時のサスペンションセッティングを見て、これなら、サスペンションなど必要ないと、自分でシャシーをサスペンションなしで造り、見事に優勝したのである。