いくら表面を平らにして磨いても、その上に流れる液体や気体は、大小の渦が出来ることで流れが阻害される。これが損失となる。
かれこれ35年以上も前の話だが、ある石油(原油)の輸入会社に対して、日本政府から「輸送タンカーを港へ止めておく時間がもったいないので、パイプライン(長さは数千キロに及ぶ)から送り出す原油の量をもっと増やせ」というような指示があったとか。
しかし、石油(原油)輸入会社は、「石油の井戸から港まで送るポンプの圧力は既に限界で、これ以上ポンプの圧力を上げたら、パイプラインが破損してしまう」「圧力損失があるので、それを何とかしてくれないと政府の要望に応えられない」というようなやり取りがあったらしい。
そこで研究開発されたのが、日本の工業技術院(確かそうだったと思う)による表面形状で、圧力損失は液体でも気体でも8%低減するというもの。
何故その形状の表面にすると圧力損失が低減するのか、読んでいたその新聞には(さすがに新聞、考察が何もない)、一切書かれていなかったので、その後数十年、私の頭の中では“ナゼナゼ問答が続いていた”。
話は変わるがエンジンのチューニングアップで加工することが多い吸気ポート。切削後に表面仕上げをしてもツルピカにしないほうが性能は出る、という話を聞いていたので、私のエンジンチューニングでも、吸気ポートは回転ヤスリ(リューター)で削り、適当に仕上げた。サンドペーパーを棒の先に巻きつけて、磨くことが面倒であるし、その必要ないという話に同調していたが、これは大正解だったことが後に分かった。
この、工業技術院が開発した表面形状というのは、液体・気体が流れる方向にギザギザを造るというもの。
確か山のピッチが1.2mmで、谷の深さは0.8mmだったと記憶する。(逆だったかな。正確には特許庁で調べれば分かると思う)
工業技術院が開発したということで、特許にはなっていない。つまり、日本人なら誰もが無料で、無許可で使えるものであるのだ。
肝心の圧力損失が8%低減する理由だが、言われて見れば「なるほど、その通り」で、この形状を利用した製品がほんの一部のメーカーから発売されていた。
それは、タイヤのハイドロプレーニングを防止することに応用されている。
何がどのようなことで、という疑問が出るだろうが、幅広タイヤに発生しやすいハイドロプレーニング。それを防止するためにトレッドには広い溝をつけることになるが、広い溝とすればハイドロプレーニングを防止できても、タイヤが路面に接地する面積は少なくなり、グリップ性能が低下する。
闇雲に排水用の溝を太くする以外の方法は、その溝に対して流れる水(雨水)が、常に有効な断面積を確保できているかどうかが重要となる。
ここに圧力損失との関係がある。逆台形の排水溝は常に確実な流れが約束されているわけではない。流速が高くなればなるほど大小の渦が出来、場合によっては流れが止まることすらある。これは圧力損失によって発生し、それを少しでも防止するため、前述の形状を排水溝の斜面の部分に造ったのだ。
溝の壁に微細加工を施し水流の抵抗を低減
従来のタイヤの溝の平らな壁面では、水流により発生した乱流渦を「面」で受けるため、抵抗が大きくなっていました。しかし、ハイドロシミュレーションを駆使して溝の壁にさらに微細な溝を刻んだ[リブレットウォール]は、乱流渦と「点」で接触、抵抗を低減しトレッド溝内のスムーズな流れを実現、耐ハイドロプレーニング性能向上を果たしました。「ブリヂストンのサイトより」
この形状を取り入れると、そこに流れる液体や気体によって、小さな渦が定常的に発生する。その渦の上を液体や気体が流れることとなるため、それ以上大きな渦は出来ず、流れの阻害が低下する。つまり、圧力損失が低下することになる。
ここで、やっと疑問が解決したのだが、そのときのタイヤメーカーから説明があったこの形状は「NASAが開発した・・・」だったのだが、実は日本の工業技術院。「それ違います」とやると開発者の面子がつぶれるので、あえて黙っていたが、出所の分からない技術を何でもNASAということはやめてもらいたいものだ。
この技術を使えば、飛行機のプロペラ、ジェットエンジンのファンブレード、船舶のスクリュー。勿論レーシングカーのエンジンチューニングにも、大きく貢献できると思うのだが。
但し、プロペラやスクリュー(プレジャーボートや競艇用では関係ないだろうが)は、ハイブリッド構造にしなければ、その溝から破損してしまうので、CFRPなどの表面にその形状を作り、それを貼り付けるようにすればいいと思う。
プロペラやスクリュー、ファンブレードでは、表面形状の変化をさせるところは全体ではなく、一番表面流速が速く仕事が高くなる部分だけでいいのだ。それ以外のところはこの形状をつけても効率は高くならない。
何故この技術を使わないのだろうか。知らなかった???
注:開発したのは日本だが、工業技術院だったかどうか確かではない。念のため