このリッター3000キロの性能とは、燃費競技会でのこと。なお日本を代表するイベントであったHondaエコノパワー燃費競技大会は、名称をHondaエコマイレッジチャレンジと改め、さらに運営事務局も変更して再スタート。ただし、やり方や目的、規則などはこれまでと同様。でも運営事務局は初心者、参加メンバーは9割がベテランと言うことになり、進行がスムーズに行くかどうか心配したが、特別大きな問題も出ていなかったようだ。
ツインリンクもてぎで10月9日と10日に行われたこのイベントは、9日が練習走行で(とはいっても、決勝日と同様の周回数、平均時速で燃費の計算もしてくれる)、10日は本番。9日の天候が一日中雨天で、天気予報でも、この状況は変わらず、10日も雨天かと思われたが、決勝スタート直前からいきなり晴天で、走行条件が大幅に改善したことから、好記録を期待できた。
イベントの内容はともかく、毎回リッター当たり数千キロの性能は当たり前で、3000キロを超えていることもしばしば。今年もそれに加わり、4回目の3000キロオーバーの記録を達成した。
このイベントに使われるエンジンは、ホンダの4ストローク50ccを基本とするが、最近では海外からのエントリーも増え、彼らが使用する150ccも視野に入れた、ニューチャレンジクラスも開催する。
シャシーやボディ・カウルなど、全てが手作りといっても良いマシンだから、そこに創意工夫と奇抜なアイディアが生まれ、それを実現してしまうのも、このイベントの素晴らしいところだろう。当然エンジンも、ベースからかけ離れたものとなり、50cc(大半がスーパーカブ用をアレンジしているが)という小さな排気量、小さな燃焼室でも、点火プラグを追加して、ダブル点火方式としているマシンが多い。
そのようなところに使われるイグニッションコイルは、同時点火用ではなく、それぞれシングルシリンダー用を使用しなければならないのだが、状況をよく理解していないチームでは、同時点火用のイグニッションコイルを装備しているのを見かける。彼らに話を聞いてみると、当然点火エネルギーが足らないため、プラグギャップは極端に小さくして、かろうじて燃焼させる対策とか。
せっかくタイミングチェーン側にも点火プラグを取り付けられる加工をして、燃費性能アップをもくろんでも、これでは何の意味も持たない。どうして、同時点火のコイルを使用すると、そのようになるかの話をして、彼らも納得したようだ。
つまり同時点火と言う状況が成立するのは、例えば360度クランクの2気筒エンジンで、ひとつのシリンダーが圧縮状態となれば、ここではスパークエネルギーを多く要求するが、反対側のシリンダーでは排気上死点にあるので、このシリンダーにスパークするエネルギーは、ほとんどゼロに近い。
ということから、燃焼にかかわるシリンダーでは十分な点火エネルギーが得られるために、この同時点火と言う状況が成立する。しかし、両方のプラグが圧縮状態(圧縮圧力が高いとスパークするためのエネルギーも要求が高くなる)となっては、ひとつのコイルからのエネルギーでは不足してしまうため、点火しないことになる。
このことから、無理やり点火させるには、プラグギャップを極端に小さくする以外に手はない。そうなれば、当然燃焼状態が良くならないわけで、燃費は改善されない。
同時点火のイグニッションコイルは、コイルからのプラグコードが2本出ているけれど、それぞれプラス側とマイナス側に分かれている。シングルのイグニッションコイルは、マイナス側はアースとなり、プラス側がプラグコードとなる。つまり、全てのエネルギーを1本のコードで出すか、2本のコードに分散するかで、分散すればエネルギーは半減する。
これを解決するには、点火のタイミングシグナルはひとつでも良いが、イグナイターやイグニッションコイルは、それぞれの点火プラグ用を取り付ける必要がある。このような改造が、当然のように行われるチームと、そうでないチームでは、おのずと性能差は大きくなる。
1.ダブル点火プラグとしながら、同時点火のコイルをひとつ取り付けたため、点火エネルギーが不足している状態。もったいない改造だ
2.ダブルプラグでイグニッションコイルも、シングル用をふたつ使用したマシン。点火エネルギーのロスは出ない。タイミングチェーンの間に点火プラグ用のネジを作っている。潤滑は必要ないので、タイミングチェーンは露出したまま。
3.同じダブルプラグでイグニッションコイルもふたつ使用しているが、キャブではなくインジェクションを採用している。プラグコードはウルトラのシリコンコードを特注したのか。