研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2015年3月22日日曜日

不定期連載:数式を使わない、クルマの走行安定性の話・10/17


リヤのロール同位相制御が操縦問題を大きくする

一時期、リヤサスペンションの作動に、ロール同位相コントロールを行うことでコーナリングの安定を図る、というシステムを導入することが流行した。しかし、これには大きな問題点が二つある。ひとつ目は轍を斜めに通過したときに発生するもので、リヤが左右に振られ、まるでパンクでもしたかのような感じ。船が大きな波のうねりにもまれているかのような感じでもある。一瞬安定性を失い、速度によってはコントロールも失う。

ふたつ目は3車線の高速走行で発生する。たとえば、私を追い越して走行レーンに戻ったクルマが、いきなりブレーキングを行ったので、こちらはハンドルで車線を替える回避をしながらブレーキング。ここまでなら安定した状態を保てるが、私が回避したその車線に、前車(ブレーキングしたクルマ)がいきなり再度のレーンチェンジをしたので、こちらは元のレーンに戻るため、ブレーキングをしたままステアリングを切るといったい何が起きるのか。

何と最初にステアリングを切ったときに作用した(ロールしているので)、リヤサスペンションに対する同相が残り、この時点では逆相の作用となり、リヤの安定性が失われる。リヤのトーインが少しでも強い設定であると、オーバーステアとなりコントロールを失うことで、スピンに至る。こんなバカなことが有ってはいけないのだ。

ロールトーコントロールとブレーキングによるアンチリフトジオメトリーが、合併症を起こしたのである。こんなクルマを知らずに購入したユーザーがかわいそうである。この状態から大事故に至ったケースが有るのではないだろうか。但し、当事者がクルマの挙動を理解していないと、何が起きているのか・・・

このときには、トーの変化とキャンバーの変化が合併している。つまりキャンバースラストが作用するわけで、強烈な横力が発生して、リヤからクルマを振り乱そうとする。その力は非常に強く、ハンドルを軽く押さえているぐらいでは、姿勢を元に戻すことはできない。一瞬のトー変化はなにもクルマに影響を与えないが、そこに、キャンバーが加わると、バイクのコーナリングと同じ、キャンバースラストで、いきなり向きが変わるのである。

この特性を逆利用すれば、ロールしてキャンバー変化が発生したとき、キャンバースラストが起きないような、トーアウト設計するとその作用はでないのだろうが、ロールするたびに、タイヤのトラクションは低下することになるので、これもだめである。

フロントのロワアーム形状にも、クルマとしての資質が隠されている。LアームであろうがIアームであろうが同じことが言える。このアームには、走行中前後方向の力が常に加わる。この力をどこに分散するかである。設計のしやすさからすると、Iアームではフロント側からテンションロッドとすることが多い。回転半径やステアリングのラック取り付け位置などを考えると、フロント側へテンションロッドを取り付けた方がやりやすいのだが、この部分にどのような方向の力が加わり、それがボディに対してどのような力となって作用するかを考えたときには、あまり好ましい作用点とは言えない。

クルマがタイヤより入ってくる外乱をどのように受け、その力をどこへ逃がすかは重要なポイントになるはず。たとえばフロントにその作用点を取り付ければ、クルマの中心に対する力は強く働くことになるが、中心に近いところ、つまりロワアームであるとプッシュロッドスタイルにするか、L型のデザインを後ろへのばす形では、作用点がクルマの中心に近くなるので、そこから加わる力はそれほど大きくならない。その結果、”何か変な動き”を感じることがなくなるはずである。