研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2015年1月28日水曜日

不定期連載 数式を使わない、クルマの走行安定性の話・8/17


一瞬のトー変化はクルマの挙動を乱さない

最近(といってもだいぶ前だが)でも同様のシステムを採用するクルマがある。それは、ジャガーXJ8などに見られるもので、一見するとリヤのロワアームは幅10cmほどのIアーム一本だけである。アームはデフの下の部分に取り付けられ、デフ側はもちろんブッシュによる取り付けで、サスペンションのスイングピボットになる。そしてデフはサスペンションメンバーに大きめのゴムブッシュを介して取り付けられている。

この構造であると一般的には、ハブがアームと一体で造られ、スイングアクスルのストラット構造でないと成立しない。つまり、がっちり結合されたものでないと、タイヤが倒れ込んでしまうが、ここもゴムブッシュによる取り付けで、ピボットになっている。しかしそれを押さえるストラットのようなものもない。さらに素晴らしいのは、ロワのIアームが10cmほどの幅しかないのに、そこには1953年のメルセデスベンツ300のようにトルクロッドがないのである。

アッパーアームはどこにあるのだろうか。このデザインでは絶対にアッパーアームがなければサスペンションとして作動しない。しかし、よくそのサスペンションを見ると、ドライブシャフトのジョイントは等速ジョイントではなく、プロペラシャフトなどに使われるクロスジョイント(ユニバーサルジョイント)である。このジョイントは軸方向にスライドしないから、前後をしっかりと固定すれば、サスペンションのアームとして使えることが分かった。

そう、ドライブシャフトがアッパーアームの代わりをしているのだ。すごい設計である。日本人にはとても発想できないスタイルだろう。もちろんスポーツカーで、サスペンションストロークが少ないから、これを可能にしているが、タイヤの幅(確か245255)に関係する走行上の問題点を、これでカバーできればそれでいいのである。

トルクロッドのないこのようなサスペンションでは、走行中のタイヤに加わる力で、タイヤは前後に大きく動き、クルマの中心に対するトーの変化は非常に大きい。にもかかわらずクルマの挙動安定性には問題が生じない。もちろん、このトー変化は一瞬のことであり、瞬間的に元の正しい位置にタイヤは戻ることになる。ということは、一瞬のトー変化はクルマの挙動安定性に問題を与えないと言うことである。

特にデフを中心にした左右のトータルトーにおける、一瞬の変化は問題にならないようで、日本車にも同じような動きになるサスペンションを持つクルマがある。それは、三菱のデリカ・スターワゴンである。もちろんリヤサスペンションでの話だ。

リーフリジッドのサスペンションなのだが、スプリングの前側取り付けに使われるブッシュは前後方向に大きく、楕円の形をしている。そして、そこにはNVH性能を向上させる目的で造られた、大きなスグリがある。しかし、このスグリがNVHだけではなく、クルマの走行安定性にも大きな影響を与えていたのだ。

リーフスプリングの前側取り付けブッシュにスグリがあるということは、走行中にクルマの中心から見た瞬間的なトーの変化が起きる、ということである。ただし、クルマの中心から見た場合ではトーの変化が起きているのに対し、左右合わせたトータルトーで見ると、変化していないのである。左右がつながったりジッドサスペンションなのだから当然のことではある。