研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2015年11月20日金曜日

数式を使わない、クルマの走行安定性の話・17/17


トレールをいかに付けるか、これが一番重要かも知れない 

お買い物カートや会社内で使用する椅子などに使われる、自在キャスターの作動について、少しおもしろい考察をやってみた。自在形キャスターであるから、ステアリングヘッドに対するキャスター角はゼロ。しかし、オフセットされた位置にあるホイールスピンドル(中心)により、移動するとトレールができあがっている。

この自在形キャスターの転がりスタイルは、ホイールが引きずられる形になる。引きずられることにより、トレールがホイールスピンドルより前側にできあがるため、ごく普通のバイクやクルマと同様に、ハンドリングは安定することになる。

キャスター角はゼロでも、トレールは存在するということが重要で、それによる安定性はある程度確保できるが、上からの荷重がかかることで、ホイール自体が自然に進行方向を向くという、セルフアライニング(センタリング)特性は存在しない。

それでは、ホイールを前側に持ってくるようにセットし、適当な角度のキャスターで安定性は出せるのかというとそうではない。マイナストレール(進行方向のホイールスピンドル前方にない場合)ではダメ。椅子に取り付けられているもので試すと、左右が勝手な方向へ行きたがる。せいぜい引きずり側にならないことぐらいで、このセッティングで4個の自在キャスターを取り付けたら、極端に発生するトー変化により、ブレーキング現象が起きる。

左右をタイロッドのようなもので繋いだ場合では、片側の外乱による乱れが、そのまま反対側へ伝わるため、直進時の安定性は存在しない。左右をつないで安定性を出すという考え方は間違いで、それぞれ独立した中で安定性を作り出すセッティングが求められる。

写真をちょっと加工して、キャスター角ゼロのものを、45度ほど傾けると、路面と接する位置で判断した場合、トレールが出来上がっている。これによって直進性が保たれる
 

自在キャスターでも、キャスター角を45度以上(これはホイールの大きさやオフセ ットの量で違う)として、トレールを正しい位置に付けるようセッティングすると、 なんと左右勝手に広がっていた(トーアウト)、あるいはつぼんでいた(トーイン) ホイールも、自動的に正しい進行方向を向くようになり、向きを変えるような仕草に対しても、十分追従する。

このことから、重要で大切なのはキャスターを付けることではなく、トレールをいかに付けるかである、ということがわかる。

本稿の16号で記載したナッハラウフにするかフォアラウフにするかも重要である。つまり、トレール量を同じとした場合、キャスターの位置をホイールスピンドルの前側とするか後ろ側とするかで、ステアリングを操作したときのタイヤに対する荷重ポイントが違ってくるからである。

キャスターの位置をホイールスピンドルの前方に持ってくると言うことは、つまり、キャスター角がゼロでもトレールを存在させることが出来る、椅子やお買い物カートに使われる自在キャスターと同じ?

キャスター角をゼロにしなくても、僅かに付けて荷重を利用できるセルフアライニング作用を生かし、さらに十分なトレールでステアリングの安定性を期待できる。ただし、トー変化とキャンバー変化で、キャンバースラストが起きないサスペンションジオメトリー(作動軌跡)は必須項目である。

2015年10月30日金曜日

日本初のトライアルバイク・バイアルスTL125について。間違い記事を正す


1960~70年末、欧州(主にイギリス)で盛んに行われていたトライアル。これを日本でも盛んにしようとホンダから発売されたのが、1973年のバイアルスTL125で、その後にカワサキ、ヤマハ、スズキと続いたのだが・・・
 
本題に入ろう。バイアルスはトライアルの神様と呼ばれた、イギリスのトライアルライダー、サミー・ミラーとは関係ない。その後1975年に発売されたTL250(またの名を戦車という)もサミーとは関係ない。
 
ネットのあるサイトでは「サミーのアドバイスで・・・」とあるが、それは間違いで、サミーと契約して開発したトライアルマシンは市販になっていない。
 
サミーとの開発では、もっぱらエンジンの燃焼に関わることで、TL250のような、アイドリングでもライダーの気持ちを裏切って、ガンガン走ってしまう特性は扱い易さの点から不向き。
 
当時はアメリカでもトライアル選手権が開催され始め、アメリカホンダの契約ライダーであるマーランド・ウォーレーが活躍。彼らのリクエストは「1速、2速ギヤをもっとハイにして欲しい」ということが多々あったようだ。
 
何故こんなことを知っているかというと、当時トライアルのライバルとして活躍していた方が、TL125の開発責任者で、実は私が中学時代の部活顧問の先生が弟さん。当時から「兄はホンダの研究所でバイクの開発をしている」ということを話されていた。
これがバイアルスTL125。オンロードの走行性も素晴らしく、オフロードツーリングは誰でも楽しめた
 
そんな関係で、トライアル競技の会場でお会いしたときから、いろいろ教えていただいた。ここでは書けないことも・・・
 
日本では、出来るだけ低速走行が可能となるよう(当時は半クラッチ走行はご法度だった)、ドライブスプロケットを最小にして使用したぐらい。アメリカ人がどのような乗り方をしていたか定かでないが、駆動力を持続したトルクが欲しい、というような話が出て、排気量は300ccにしたらしい。
 
市販に結びつかなかったサミーとの開発は、燃焼に関わることで、穏やかな特性が得られるものだった。
 
その後、この燃焼データはお蔵入りかに見えたが、XL250S(フロント23インチホイール)を開発するとき「せっかくサミーと開発した250シングルの燃焼データ。それを使えないか」、ということになり、やっと日の目を見たのである。
 
初めてXL250Sを試乗したとき、やけに扱い易いエンジン特性で、「トライアル車を考えたものですか」、と開発者に質問したのだが「いやそんなことはありません」と否定された。
 
その後、数十年が経ち、当時の研究所にいた(後に研究所社長からホンダの社長に)福井さんと話をする機会があり、XL250Sのエンジン特性のことを告げたら、「そうだろう、サミーと開発した燃焼データを生かせないか、ということで造ったのだから」。という返事。
 
オヨヨ。ということはオレが感じたエンジン特性は、非常に正しいということだったのだ。そのときの開発者が誰だったか覚えていないが、一言言ってやりたい。「このやろ~」
 

2015年10月18日日曜日

数式を使わない、クルマの走行安定性の話・16/17


キャスター角の位置がどこにあるか、これとても重要なこと

極限の話になるとF1などのフォーミュラカーでは、ステアリング操作による巻き込み現象を低減したいというリクエストがあるらしい。

キャスター角を小さくし、それに合わせてトレールも減少すれば、ステアリング操作したときに起きる、見かけ上の巻き込み現象は低減できるが、トレールが少なくなるため、直進安定性がスポイルする。これを防止する方法として、キャスター角だけを小さく立てながら、トレールはしっかりと確保する手法がある。

それがナッハラウフという呼び方をするセッティングで、仮想キングピン軸(キャ スター角を形成する直線部分のほう)をホイールスピンドルより前側にすることが キーとなる。それにより、ステアリング操作をした場合、ホイールの後側を押し出す(あるいは引き込む)ことでタイヤにコーナリングパワーが発生するため、ステアリングの巻き込み現象は発生しにくいと考えられる。

このサスペンションセッティングがナッハラウフと呼ばれるもの。キャスター角が小さくてもしっかりとトレールを確保できる。さらに、キングピン軸位置を自由に変更できるため、クルマに合わせた設定も可能
 
ところが、フォアラウフと呼ばれる、仮想キングピン軸をホイールスピンドルより後側(あるいは同軸上)に設定する場合では、トレールをナッハラウフと同じ寸法とした場合、どうしてもキャスター角を大きくしなければならない。その結果、仮想キングピン軸より上側のホイール全体重量が大きく掛かり、ステアリング操作をした場合、仮想キングピン軸より前側の移動距離と質量が大きくなるため、巻き込み現象も強く発生する。さらにトーの設定もデリケートになり、レース前半と後半ではステアリング特性に変化の出ることが考えられる。

ナッハラウフとした場合、ステアリング操作したときのタイヤと路面の軌跡、さらにタイヤの変形については、キャスター角が少ない分タイヤの変形は少ないが、仮想キングピン軸を中心として、後側がせり出す形となる。路面と接している部分に対してのタイヤの動きが強く働くため、ステアリングのレスポンスは良くな る。

そして、ナッハラウフのセッティングをした場合には、ネガティブキャンバーとする必要がある。ネガティブキャンバーとしないと、タイヤのトレッドを十分に使い切ることができない。例えば、右コーナリングではステアリングを切り始めた瞬間から、外側トレッドが強く接地するようになり、コーナリングで重要な内側(この場合には右側タイヤ)のタイヤ性能がスポイルするだけでなく、反対側に切ったときの仕事を受け持つトレッド外側部分が摩耗してしまい、十分に回頭性を得られなくなる。

それに対して、キャスター角を大きくしてトレールを取っているセッティングでは、仮想キングピン軸がフォアラウフとなりステアリング操作によるタイヤのせり出しは少ないものの、タイヤの潰れが大きくなるため、ステアリングの反発が強くなる割には、レスポンスは良くならない。また、ネガティブキャンバーとしなくても、トレッド外側が強く当たることは少ない。それは、タイヤと路面の接している部 分で路面をコジル力が少なくなるからだ。

せめてもの救いは、ステアリングを大きく切ったときに発生するキャンバースラスト(バイクのコーナリングはこれの発生 によってなし得る)を利用できること。ただし、微少舵角ではキャンバースラストが大きく発生することはない。そのため、ステアリングのレスポンスは緩慢になる。

バイクでは一見ナッハラウフが成立しないように思えるが、実は数十年前のトライアルマシンでは、フロントフォークの角度とステアリングヘッドの角度を変える、トライアルセッティングとかスランテッドアングルという呼び方をした方法で、クルマと同様な目的による、フロントフォークの設定があった。現在のトライアルマシンは乗り方が違うことから、この方法は必要なくなった。異常にキャスター角が立っているが、それで良いらしい。

どのようになっているかというと(古いトライアルマシンを見ればわかる)フロントフォークのアンダーブラケット(三叉とも呼ばれる)のフォーク取り付けオフセット量と、アッパーブラケットのオフセット量を変えるだけ。基本的にはどちらかのブラケットのオフセット量を変更するのだが、アッパーであるなら小さくし、アンダーであるなら大きくする。これでナッハラウフ状態となる。オフセット量は5mmほどだ。

実はトライアルマシンばかりではなく、ホンダが出場していたパリダカ。現在はダカールラリーのワークスマシンは、このトライアルセッティングを使っている。パリダカマシンを見たければ、ツインリンクもてぎのコレクションホールに行けば見られる。ダカールマシンは、空力を考えたカウルが付いているので、簡単には見えないかもしれない。

2015年10月9日金曜日

ここはマン島のTTレース・クラシックの会場


ではない。
MCFAJが年間4戦主宰しているロードレースの会場だ。MCFAJ(http://www.mcfaj.org/)のロードレースでは、クラシックバイクのクラスがあり、ライダーの年齢より年を取っている戦前のものから、戦後直ぐのマシンなど、旧車といわれる話題のバイクは外国車が多い。

年間4戦のうち、富士スピードウエイでは1戦だが、つくばサーキットでは3戦ある。

ゼッケン52は1962年式のマチレス。303は1967年式のベロセット

マチレスG50。1961年式

1955年式のロイヤルエンフィールド。インド製ではないイギリス製のマシンだ
 
マチレス、ノートン-マンクス、AJS、ロイヤルエンフィールド、ベロセット、ハーレーダビッドソン、ハーレーダビッドソン・アエルマッキなど、名前を聞いただけではわからない方も多いだろうから、来年はぜひ現地へ出向いてサーキットでの走りばかりではなく、ピット、パドックで、クラシックバイクと対面することをお勧めする。

もちろん国産車だって負けてはいない。250ccの排気量が華々しかった時代のCB72(250cc)・77(305cc)、CB92(125cc)なども走る。昔のヤマハ市販レーサーTD3やTR3。珍しいところではTD1なども参加する。

スポーツカブC110をベースにしたスペシャル。排気量を110ccとし、マフラーはSTD。静かに走ったが、クラス優勝だ
 
要するに、何でもありで自作でも改造でも、安全であるなら出場OK。スポーツカブ(C110)のフレームをベースに、エンジンはOHCにしてタイカブの部品などを組み込んだマシン110ccもあるのだ。

宮城光さん。安定した走りは昔から変わらず。タイムアタックでは7位だったが、決勝レースでは5位を確保。クラス優勝である
 
ライダーには有名どころの顔も見られる。元GPライダーの宮城光さんもその一人だ。借り物のホンダCB72で参加。派手さはなくいつの間にか上位にいるという、宮城さんの走りは変わらず、安定したペースでクラス優勝。

先のスポーツカブC110改造も、STDマフラーを使用しながら、ヒタヒタと走り、この方(黒河さん)もクラス優勝した。

なんとなくアットホームなレースであることは確かだ。

2015年9月28日月曜日

ホンダエコマイレッジチャレンジで、これまでにも主催者側に提案してきたこと


それは、車検のときに合格しない、ブレーキ性能不足に対応することで、一般の参加者は認識が深く、制動不良はあまりないが、中学、高校など、これまでの参加があっても、先輩たちからマシンを受け継がず、独自の力で製造するようになると、詰めの甘さが出てしまうことが多い。

ホンダエコマイレッジチャレンジについては、名称が変わる前から全国大会のイベントに、出場、取材などで顔を出しているため、何が問題かの見極めは、その場においでになる関係者よりも深く知っているつもりである。

他に車両規則に問題もあるが(それはおいおい記載したいと思う)、それだけではない。ブレーキが効かないのは、事故の元だが、このブレーキも、実際の制動となると疑問は多い。というのは、ほとんどのマシンは後輪1輪だけにブレーキを持つ。そして、この1輪に制動をかけたところで、細いタイヤ、軽い車重、荷重の移動により後輪は簡単にロック。スリップ音すら出ない(経験上)。

ブレーキテストは傾斜版の上で行なう。スリップ防止パッドが張られた上で、勾配20%(11度)で停止できればOK
 
とは言うものの、基準は大切だから規則を作ったのだ。それでも、ブレーキテストを合格しないマシンとメンバーに対して、主催者側がどう対応するかである。

これまで主催者側に提案してきたこと、それは「日当などいらないから、効かないブレーキに対して、それを回復させる手段があるので、その作業をするためテーブル、ガソリン、リヤを持ち上げる角材、そして作業する場所などを用意してくれないか、その場での改良は私が対応します」。という企画書を数回渡したが、なしのつぶて。

ブレーキテストに合格しないマシンを見てみると、「昨日、学校での制動テストは問題なかったのですが、ブレーキゴムを新品にして会場へ持ち込んだら、制動不足でした」。という話も。

この状態ご覧ください。指定されたピット内は制動不良で対策しなければならないチームでゴッタガエシタ。市販車クラスや二人乗りクラスを除くと、10%近くに問題が発見されたような感じだ
 
そのようなことをやってしまった方に対しての説明では、工業高校の場合「クルマのメンテナンスはやったことがあるでしょう。そのときディスクブレーキのパッド交換直後は、制動不足を感じて、しばらく走らせると、効くようになった、という経験があると思いますが、あれは、当たりが付いていないからです。それは自転車のブレーキにも当てはまるのです」。と説明すると彼らは納得してくれる。

このように、リムとブレーキゴムの当たりが悪い場合には、ウォーミングアップエリアで、ブレーキを掛けながら走らせればいいのだが(ゴムくさくなるまで)、なかなかうまくいかないようだ。

そこで、主催者側が提案するとしたら、決まったエリアでのブレーキチューニング。ひとつは走らせている状態の再現となる。作業を行なうピットは決めているが、アドバイスする人は主催側でない私ぐらい。今年も3チームの方に助言を行い(私が手を汚したほうが確実で早いのだが)、そのチームは無事車検に合格。

中学生となるとせんせいのぎじゅつがものを言うことになるのだが、それがなかなかうまくいかない。その結果、わかり易い制動不良となって現れる。しゃしんの中学生たちは、何とか合格した
 
慣性ダイナモがあれば越したことはないが、それが無理なら、決められたピットの中で、エンジン始動とリヤタイヤを回しながらブレーキを掛け、エンストしないように(オーバーヒートにも注意)しながら数分ブレーキゴムをリムに焼き付ける。ゴムくさくなれば終了。

リムに熱で溶けたゴムが付着するので、制動力は高くなる。そのほかにやる手段としては、野球のバット滑り止め(以前は松脂だったが)を吹き付けること。ただし、これは塗り方が難しい。スプレーなので、闇雲にリムに向けて噴出しても、確実性がない。そこで、いったん滑り止めを容器に移し、それを刷毛でリムに塗る。

そして重要なのは、どの程度の効果があるのか。また、欠点はないのかの検証も必要。なので、そのうちスポーツ用品店で同製品を購入し、試してみたいと思う。

また、リムとブレーキゴムの摩擦が強くなるため、ブレーキロックの発生が懸念される。よって、この対策は十分にデーターを集めてから行うべきである。

50年以上前の話だが、効かないドラムブレーキのオートバイに、松脂を溶かして塗りつけた。効くようにはなったが、ブレーキに熱を持つと、溶けた松脂がブレーキライニングとドラムに張り付き、不都合の出た経験がある。

マシンの製造過程では、正しいブレーキキャリパーの取り付け方、ブレーキレバーの角度、長さなど重要なことを指導する。ホームページにある競技規則の中にアドバイスとして組み込むことは重要だと思う。他の項目にアドバイスとして入れても、それを熟読してくれないからだ。これを間違えると効きの悪いブレーキとなってしまう。

2015年9月13日日曜日

数式を使わない、クルマの走行安定性の話・15/17


タイヤの直進性に関係するのは、キャスター角を付けることで発生するトレールだが、それだけではない

キャスター角について考えると、普通に思うことは、角度を小さくするように立てると、ステアリング操作は軽くなること。最近のスポーツバイク、レーシングバイクは、どれもキャスター角が以前より小さく立っている。

これはコーナリングの限界点を上げるため、フロントにおいても太いタイヤを履くことで生じるハンドリングの向上が目的になる。ところが、これまでのキャスター角ではタイヤに多くの荷重がかかるだけでなく、ステアリング操作したときの路面に対する軌跡が大きく、ハンドリングは軽くできない。太いタイヤを履いてもハンドリングを軽くする(ヒラヒラ感を出す)には、キャスター角を小さく立てることが必要になったからだ。

単純にキャスターを小さく立てると、ハンドリングは軽くなるが、キャスターと関係するトレールが減少する。トレールが減少するとタイヤ(ホイール)のスピンドルに発生する、ホイールを前方に引いていくという力が減少する。これが減少すると直進安定性が悪くなる。

そこで、バイクの場合ではフロントフォークをステアリングヘッドに取り付ける、フォークブラケットのオフセット量を少なくして、必要なトレール量を確保する。或いはホイールスピンドルの位置を手前に持ってきてトレール量を確保する(スクーターなどに見られる)。ハンドルの切れ角は非常に少なくなるが、回転半径をそれほど要求しないスポーツバイクやレーシングバイクでは、ほとんど関係ない状態である。

つまり、タイヤ(ホイール/クルマ)の直進安定性(これで全てが決まるわけではない)を保つのはステアリングのセルフアライニング(走り出すことで自然に進行方向にハンドルが戻る現象)に関係するのはキャスター角よりも、それによって発生するトレールが大きく関係しているのである。

キャスターを取ることで、ハンドルを操作してから手放しすると、ハンドルが自然と元の位置へ戻るため、つい勘違いしてしまうが、これは、キャスター角を付けることでトレールが生まれ、ハンドル操作によってタイヤが向きを変えても、走り出すことでホイールスピンドル軸に対して引っ張る方向の力が発生し、自然に進行方向を向くからである。キャスター角によってタイヤが変形し、それが戻ることも関係しているだろう。そのため、タイヤ幅が広いとステアリングはかなり強烈に戻る。

キャスター角がゼロ或いは90度(つまり垂直)で、トレールだけが存在するものとして、スーパーマーケットにあるお買い物カートの転がり部分や、オフィスで使われる椅子の足にある、自在キャスターと呼ばれるものがある。

これの転がり具合をよく観察すると、必ずホイールは進行方向を向く(進行方向にあるわけではない)。上部に乗るものに引っ張られる形となるため、自由に何処へでも向きを変える構造と、オフセットされたホイールの軸は、常に引きずり状態で力が掛かり、結果的にホイールは進行方向を保つことになる。つまり直進安定性がひとりでに起こる。しかも速度を増せば増すほどその傾向が強くなる。

自在キャスターだが、この状態だと右へ移動している。キャスター角がなくても、そこにはバイクやクルマとは違う位置にトレールが出来上がる。そのため安定して転がる
 
ただし、ホイールが小さいと路面の状態をもろに受けて、速度を増せば増すほど首振り現象が多く発生するが、いきなり進行方向が変わることはない。それによりスタビリティは失われるが・・・

     

2015年8月24日月曜日

新幹線のカバー外れは、人為的ミスと断言できるが、それを起こさない物造りや取り組みはは可能だ


新幹線のサイドカバーが外れて、大きな事故になりそこなったのは、防ぐことが出来たのだろうか。もちろん出来た、と断言できる。

俗に言うヒューマンエラーによるトラブルだが、その原因は、ボルトの締め忘れ。しっかりと締めていなかったことが原因である。

トルクレンチなどを使う必要はなく(トルクレンチを過信してはいけない。それは、ネジの渋さもトルクに跳ね返るので、しっかりと部品が締め付けられていなくても、ネジを締めるだけのトルクが出てしまうからだ)、普通にレンチ(種類はあるが、ここではその説明を省く)で、しっかりと締めればいいだけ。

だが、その行為をやる人間は、時として確実性を失う。その原因のひとつは、いつもやっている行為のため、流れ作業が災いしたことによる。

作業の分担化もトラブルの原因。それは、自分は決められたことを集中して行うため、他人が犯しているミスを発見できないのである。

テレビの解説に出てきた人物は、新幹線の整備もやったことがあるそうだが、そのときには締め付けられているボルトに、ペイントマークをして、締まっていることが一目でわかる、また、マークがずれていれば、緩んでいることがわかる、という説明をしていたが、これはかなり古い整備のやり方。

その昔、自動車の下回り整備では、ペイントマークを付けることが当然のように行われていた。そのような規則があったわけではないのだが・・・

すると、締め付けや磨耗の点検を行っていないのに、流れ作業的なペイントマークが当然のように横行。結果として、走行中に大きなトラブルを引き起こすようになり、現在の規制では、ペイントマークをしてはいけないことになっている。

締め付けが確実であるかどうかが問題なので、それを目で見て判断するのは不可能といっても過言ではない。締め付け確認用のペイントマークは当てに出来ないからだ。

クルマの整備でもヒューマンエラーによるトラブルは日常茶飯事(そんなことはない、とお叱りを受けるだろうが、それが事実なのである)。

このようなことはメーカーが主催する試乗会でも起きる。確か以前にもブログに書いたと思うが、サスペンション周りのボルト点検で、締め忘れ部分があった。恐らく、そのボルトに取り組んでいた方は、締め付けを完全に行う前に、関係者から呼び出しを受け、すっかり締め付けを忘れたのだろう。

新幹線事故でも同様なことは考えられる。手だけで締めたところへ「お~い誰か来てくれ~」などの声がかかれば、それまで自分がやっていたことが中途半端な状態でも、つい頼まれたほうへ動いてしまう。

一目見て締め付けが完全に行われていないということを、その場の関係者に知らせる方法としては、取り外したボルトやナットの一部を、その近くに放り出しておく。また、取り付いているはずのボルトやナットがなければ、そこから記憶のヒントが蘇り、ネジを締めていなかったことを思い出す。

 

何だこの部品、と思わせる行為は重要なのである


クルマの場合では、ホイールボルト・ナットの締め付け不良、締め付け足らずが多い。つまり、仮締めによるトラブルである。

この場合も、見ただけで本締めされていないことがわかるように、ボルトやナットを全部取り付けず、一つふたつ仮締めしないで、床に放り出しておく。こうすれば、見ただけで、ホイールにネジがなく、そのネジが床に転がっていれば、本締めしていないことに気が付く。

新幹線で発生した事故を防ぐ、もうひとつのやり方は、セルフロックの付いたボルトやナットを使用することである。これを使えば、しっかりと本締めされていなくても、ボルトが脱落することはない。しかし、振動で部品が破損して、脱落という自体は・・・

セルフロックではなく、渋いネジの組み合わせを使うという方法もある。数十年以上前のメルセデスでは、下回りのネジにおいて、指先だけで軽く回せるような造りをしていなかった。

最初からレンチを使って、それもかなり力が必要で、それは、まるでピッチの違うネジを使っているかのような状態だった。

最初からレンチを使うわけだから、仮締め状態は作れないため、しっかりと本締め状態になる。そして、その締め付けトルクが多少たらなくても、ネジが緩むことはない。

どの方法を使うのがいいのか、コストや手間がかからないのは、関係するボルトやナットを全て取り付けず、一部を床に放り出しておく。これが簡単で一番確かだと思うが・・・ただし、整備をやった人が最終チェックも担当しないとダメ。それはなぜか、わかるだろう。