研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2013年12月29日日曜日

いい加減に使えよ!!この技術 圧力損失を8%低減する表面形状

いくら表面を平らにして磨いても、その上に流れる液体や気体は、大小の渦が出来ることで流れが阻害される。これが損失となる。

かれこれ35年以上も前の話だが、ある石油(原油)の輸入会社に対して、日本政府から「輸送タンカーを港へ止めておく時間がもったいないので、パイプライン(長さは数千キロに及ぶ)から送り出す原油の量をもっと増やせ」というような指示があったとか。

しかし、石油(原油)輸入会社は、「石油の井戸から港まで送るポンプの圧力は既に限界で、これ以上ポンプの圧力を上げたら、パイプラインが破損してしまう」「圧力損失があるので、それを何とかしてくれないと政府の要望に応えられない」というようなやり取りがあったらしい。

そこで研究開発されたのが、日本の工業技術院(確かそうだったと思う)による表面形状で、圧力損失は液体でも気体でも8%低減するというもの。

何故その形状の表面にすると圧力損失が低減するのか、読んでいたその新聞には(さすがに新聞、考察が何もない)、一切書かれていなかったので、その後数十年、私の頭の中では“ナゼナゼ問答が続いていた”。

話は変わるがエンジンのチューニングアップで加工することが多い吸気ポート。切削後に表面仕上げをしてもツルピカにしないほうが性能は出る、という話を聞いていたので、私のエンジンチューニングでも、吸気ポートは回転ヤスリ(リューター)で削り、適当に仕上げた。サンドペーパーを棒の先に巻きつけて、磨くことが面倒であるし、その必要ないという話に同調していたが、これは大正解だったことが後に分かった。

この、工業技術院が開発した表面形状というのは、液体・気体が流れる方向にギザギザを造るというもの。

確か山のピッチが1.2mmで、谷の深さは0.8mmだったと記憶する。(逆だったかな。正確には特許庁で調べれば分かると思う)
 
これは、バイクのシフトペダル取り付け部分のセレーション形状だが、同様な形状の表面とすることで、圧力損失が低減する


工業技術院が開発したということで、特許にはなっていない。つまり、日本人なら誰もが無料で、無許可で使えるものであるのだ。

肝心の圧力損失が8%低減する理由だが、言われて見れば「なるほど、その通り」で、この形状を利用した製品がほんの一部のメーカーから発売されていた。

それは、タイヤのハイドロプレーニングを防止することに応用されている。

何がどのようなことで、という疑問が出るだろうが、幅広タイヤに発生しやすいハイドロプレーニング。それを防止するためにトレッドには広い溝をつけることになるが、広い溝とすればハイドロプレーニングを防止できても、タイヤが路面に接地する面積は少なくなり、グリップ性能が低下する。

闇雲に排水用の溝を太くする以外の方法は、その溝に対して流れる水(雨水)が、常に有効な断面積を確保できているかどうかが重要となる。

ここに圧力損失との関係がある。逆台形の排水溝は常に確実な流れが約束されているわけではない。流速が高くなればなるほど大小の渦が出来、場合によっては流れが止まることすらある。これは圧力損失によって発生し、それを少しでも防止するため、前述の形状を排水溝の斜面の部分に造ったのだ。

【リブレットウォール】
溝の壁に微細加工を施し水流の抵抗を低減
従来のタイヤの溝の平らな壁面では、水流により発生した乱流渦を「面」で受けるため、抵抗が大きくなっていました。しかし、ハイドロシミュレーションを駆使して溝の壁にさらに微細な溝を刻んだ[リブレットウォール]は、乱流渦と「点」で接触、抵抗を低減しトレッド溝内のスムーズな流れを実現、耐ハイドロプレーニング性能向上を果たしました。「ブリヂストンのサイトより」

この形状を取り入れると、そこに流れる液体や気体によって、小さな渦が定常的に発生する。その渦の上を液体や気体が流れることとなるため、それ以上大きな渦は出来ず、流れの阻害が低下する。つまり、圧力損失が低下することになる。

ここで、やっと疑問が解決したのだが、そのときのタイヤメーカーから説明があったこの形状は「NASAが開発した・・・」だったのだが、実は日本の工業技術院。「それ違います」とやると開発者の面子がつぶれるので、あえて黙っていたが、出所の分からない技術を何でもNASAということはやめてもらいたいものだ。

この技術を使えば、飛行機のプロペラ、ジェットエンジンのファンブレード、船舶のスクリュー。勿論レーシングカーのエンジンチューニングにも、大きく貢献できると思うのだが。

但し、プロペラやスクリュー(プレジャーボートや競艇用では関係ないだろうが)は、ハイブリッド構造にしなければ、その溝から破損してしまうので、CFRPなどの表面にその形状を作り、それを貼り付けるようにすればいいと思う。

プロペラやスクリュー、ファンブレードでは、表面形状の変化をさせるところは全体ではなく、一番表面流速が速く仕事が高くなる部分だけでいいのだ。それ以外のところはこの形状をつけても効率は高くならない。

何故この技術を使わないのだろうか。知らなかった???

注:開発したのは日本だが、工業技術院だったかどうか確かではない。念のため

2013年12月27日金曜日

RJCテクノロジー・オブ・ザ・イヤーについて考える

今のクルマはテクノロジーの塊。そのクルマに合ったコストバランスに優れたシステムを取り入れているので、そのテクノロジーを理解できなければ、クルマの正しい評価は出来ないと考えている。しかし、テクノロジーの評価はおろそかにされていた。

それを正したのは、昨年(2013年次)のRJCテクノロジー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた、スズキ・グリーン・テクノロジーである。

如何に優れたテクノロジーであるかは、ここでの説明を省くが、販売に対する訴求力は強い。

燃費(エコも含む)、走り、安全という、分かりやすい内容が込められているからだ。それをスズキは巧みに使い、新聞ばかりではなくTVのCFを特別に制作し、全国放送を数ヶ月に渡って放映した。更に、各地で行われるイベントに、そのテクノロジーを搭載したクルマを展示し“RJCテクノロジー・オブ・ザ・イヤー”に輝いたことを大きく、謳い文句で宣伝。

一般ユーザーでは分かり難い走りの性能ではなく(そのクルマの性能がどうでもいいということではない)、直接身に降りかかることに対してであるから、ユーザーは内容を理解しつつ、そのクルマを選んだはず。

このようなことを踏まえているのかどうか定かではないが、2014年次RJCテクノロジー・オブ・ザ・イヤーとなった、三菱アウトランダーPHEVについて、年明け早々特別なCFを流すという。

この背景は、前述したスズキのグリーン・テクノロジーに対する評価と、その販売訴求力を“使える評価”としたとも取れる。

このように最先端のテクノロジーに対しての理解は重要で、そのような意味からホンダ・フィットハイブリッドに搭載された、ツインクラッチミッションとアシストモーターを採用した“SPORT HYBRID i-DCD”に対する評価は重要だったのだが(シックスベストにも選ばれなかった)、何がどのように素晴らしいのか、すごいことなのか、という内容を分かりやすく説明していなかった。

フィット3のハイブリッドに採用されたツインクラッチミッションとモーターによるアシストの構造。その構造にはこれまでにはない内容が多く、非常に興味が沸く。但し、この構造と制御を、説明ボードから理解できた人は数多くない。そこが問題である。説明不足、勉強会不足だからだ 

フィット3の発表会場ではRJC会員だけではなく「説明ボードを見れば分かるだろう」「質問のある方は受け付けます」的な態度だった。言ってみれば、モータージャーナリストを買い被り過ぎで、テクノロジー、最先端技術に興味や理解を示さない人物は、特に最近の難しい技術に対しては、アレルギー反応を示す方もいることを認識すべきだ。

よほどの基礎技術や興味を持つ人物(RJC会員だけに限らない)以外、理解できないことは非常に多くなっている。

そして、その技術は、そこから放たれる内容が分かりやすく、直接ユーザーに購買意欲を沸かせることとなっているようだから、ジャーナリスト達にも、自分の頭の中で人に説明できるだけの理解をしてもらわなければ、正しい評価は得られないし、その評価が正しいかの判断すら出来ない。

クルマの制御に対するテクノロジーも同様である。今は、軽自動車ですらCan通信を使って多くの情報をECUに送っている。最近では、これでも速さと情報量に不足するので、更なる通信技術を使う研究がなされている。

このように難しいと思われる最新のテクノロジーは、それを理解して最終選考会まで持ち込むには、自動車メーカー側もそれなりに努力が必要だ。


2013年12月13日金曜日

カーナビとオートライトをリンクするといいと思うが

暗くなると点灯するオートライトを装備しているクルマがあるが、曇りの日などでは、橋の下を通過するだけでヘッドライトが点灯してしまう。

位置情報を持つカーナビは、今どこをどのような状態で走行しているかが分かるはず。

それを取り入れれば、必要のないことでヘッドライトやポジションライト(クリアランスライト)が点灯することもなくなる。

GPSが装備されているのだから、緯度を計算に取り入れれば、夕方の薄暗くなった時点で適正にライトの点灯も行われるはず。

何故、このようなものが組み込めないのか、十年以上前から不思議でならないのだ。

2013年12月1日日曜日

いまだにある、やり尽くしていない状態での自動車販売

モデルチェンジしたばかりのクルマとか、ニューモデルなどは、発売してすぐに買ってはいけない、ということを言われてきたが、一部の自動車メーカーのクルマでは、いまだにその状態が続いているような感じだ。

何故そのようなことが起きるのか、それは、新しいクルマの開発・企画で、販売を担当する営業も同席し、発表・販売時期を何年・何月・何日まで決めるのだが、これは何処の自動車・バイクメーカーも同じ(海外は知らない)。ただし、そのことで問題が出る場合があるということ。

発表・発売時期が近づいて、全ての開発と実験・走行が終了し、何処からも批判されないクルマに仕上がっているのなら問題ないのだが、往々にして、開発から「もう少し時間をくれ、せめて1ヶ月」などという意見が、営業に伝えられる。

「了解、思う存分、納得のいくまで開発を行ってくれ」という、購入したユーザーを第一に考えるメーカーも有るだろうが、言い方は悪いが「未完成でも、とりあえず売ってしまえ」、と計画重視の営業から、逆切れされているような場合があることを見て取れる。

発表・発売が遅れれば、当然利益はその分少なくなる。ライバルメーカーの同様なクルマへ購入者が流れてしまうこともある訳だから、営業としては、会社の利益を考えた場合、それはあってはならないこと。そのため開発グループに対して「発売が遅れたら、いったい何億損をするのか、知っているだろうな」。というような発言が、今でも飛び交うようだ。

このような話は、メーカーの開発者と未完成の話をしているときに聞くことがあるので、そのときには、このような内容で切り返しなさい、とアドバイスする。それは「開発をやりつくしていない状態のクルマを購入したユーザーでも、その内、何かおかしい、ということには気が付くし、ネットでもそのクルマに対する評価が出てくれば、当然未完成のクルマを売りつけられた、と分かる」「こうなれば、リピーターになってはくれないし、購入を希望するお客を紹介してもくれない」「そのときの損失は、いったい何十億になるのか考えたことはあるか」。という内容である。

これが、どれほど効果を生むか分からないが、実際に販売店では、直接矢面に立たされているわけだから、開発をやりつくしたクルマと、そうでないクルマのお客さんは、当然気持ちが違うはず。それをダイレクトに感じている販売店からの意見も重要だ。

見た目には分からない未完成・開発途中のクルマ。自動車ジャーナリストでも、それを見極められない方は多いので、当然、一般ユーザーが、数十分ディーラーで試乗しても分かるはずがない。雑誌の試乗記にも欠点や未完成と思われる内容が書かれていることは少ないからだ。

コンピューターによる解析が進んでいなかった時代では、ハード(ボディ構造、サスペンション構造と作動軌跡など、制御部分ではない)に問題や未完成部分を見ることはあった。コンピューターによる解析技術が進んだ現在でも、ハード部分の未完成が絶対ないわけではないが、やはり制御と、その使い方に未完成部分を見つけることがある。

欧州車には個性とか思い違いという特徴はあっても、おかしなところは感じたことがない(認識が足らないのか?)ので、開発をやりつくしてからでないと、販売店に並ばないのかもしれない。

2013年11月16日土曜日

エンジン・チューニングの極意。それはヘッドボルトを締めないこと

「いきなり何だ」と反論を返されそうだが、ヘッドボルトを持つもの?は、それを締めなければガス漏れ、水漏れが起きて当然なので、あくまでも極意であることを念頭に入れて読んで欲しい。

バイク・エンジンでの経験談を下に話を進めると、それはレースで得た結果がある。

数十年も前のことだが、筑波サーキットで、当時盛んに行われていたミニバイクレース。そのレース用にマシンを製作した。

ベースとなったバイクはヤマハのGT80で、当時はヤマハからレース用の部品が発売されていたので、シリンダー回りはそれを使用したが、ヘッドはヤマハのチューニングパーツを製作販売していた“スペシャルパーツ忠男”の水冷ヘッド。

勿論、圧縮比は標準以上高くするため、ヘッドの合わせ面を旋盤で1mmほど削る。スペアとした空冷のヘッドも同様に加工して、水冷ヘッドを組み込んだが、ヘッドの厚みがあり、ナットとボルトの噛みあい寸法が十分ではないため、指定トルクまで(いくつか忘れた)締め付けられず、適当に締め上げてレースに参加。

但し、この当日、別の仕事が入りレース場にはいけなかった。もともとライダーは私ではないので、その友人にマシンを預けて結果を待つことに。

で、聞きました。レース結果を。すると「予選はブッチギリで、誰も付いてくる状態ではなかった」、「でも夕方の決勝前にパドックでエンジンを始動すると、ヘッドとシリンダーの間から火が噴出していたので、空冷のヘッドと交換し、しっかりとナットを締め、決勝に挑んだが、予選の走りは何処へやら」。結果は8位だったらしい。

何が変わってしまったのか。そのときには判断できなかったが、ある時、レーシングカートのエンジンで、常に速いカーターのエンジンをチューニングする人物は、ヘッドボルトをしっかりと締めず、軽く締める程度で、暖機運転中はヘッドとシリンダーの間から炎を噴いているが、暖機終了時にはピタリと治まっている、とか。

その目的は、シリンダーヘッドのボルトを締めることで、シリンダーやヘッドの熱膨張に対する歪を逃がすことが出来なくなり、その結果がシリンダーの真円度に出るので、エンジン性能の低下に結びつく、というものだった。

つまり、シリンダーヘッドを締めないことが、エンジン・チューニングには必要なことなのだ???

特に2ストロークでシリンダーとシリンダーヘッドを、クランクケースからの通しボルトで(スタッドボルト)締め付けているエンジンでは、エンジンが熱を持つことでシリンダーやシリンダーヘッドが膨張しても、締め付けボルトはそれほど延びないことから、暖機が終了する頃には、規定トルク以上にボルトを締めていることとなり、その歪は、シリンダーの内径に悪影響を与えるのだ。

それを熟知していたホンダ・スーパーカブ(SOHCでキャブ)エンジン開発責任者は、シリンダーとヘッドの締め付けボルトを吟味し、大部分の外径を細くすることで、必要以上に締め付け力(軸力というのだが)が高くならないようにしていた。

同様なことは、VWビートルの空冷エンジンにも見られる。1300~1600ccエンジンで、使用するボルトは長く、径は8mm。このヘッドボルト締め付けトルクは、確か3kg-m以下だったと思うし、いくら締めても、キッチリとした手ごたえを感じることはなかった。それで、あの安定した性能が得られていたのだ。

ある時、仕事の取材で、当時のチャンピオンエンジンを製作するショップにお邪魔したついでに、ヘッドのボルト締め付けについて聞いてみると「普通の方は、規定している締め付けトルクの±表示があると、ついついプラスの数値で締めますが、我々はマイナス数値で締めます」とのこと。「これは、ダミーヘッドボーリングやホーニングを行っても、熱が加わった状態での加工ではないため、それを見越してのことです」と話してくれた。なるほど矢張り・・・

F1エンジン(当時のチャンピオン、ルノーだったと思う)で、ある時、よく観察すると、どう見てもヘッドとシリンダーは一体構造。トヨタのエンジンでは、明らかにクランクケースとシリンダーが一体(一般のエンジンと構造が同じ)。

シリンダーとシリンダーヘッドが一体であれば、ヘッドガスケットを持たない構造となり、その部分の締め付けがないことから、ヘッドやシリンダーに対して締め付け歪、熱歪の影響が非常に少なくなる。シリンダーのボア大きく、ピストンのストロークが小さいレーシングエンジンなら、下側からヘッドの加工やバルブの組み立てなど、造作もないこと。

この、シリンダーとヘッドの一体構造は、実際に見たわけではないので“仮想”かと思っていたら、ある時、ケーブルテレビの番組で、アメリカのベンチャー企業が、F1エンジンのコンストラクターに参加しようと開発していたエンジンを見て、やはり、私の判断に間違いはなかった。一瞬だが、シリンダーの穴の先にヘッドが一体となっていることを見つけた。

2013年10月26日土曜日

クラッチ操作に慣れた人はお勧めしないNC700DCT

ホンダNC700Xの試乗記にアクセスする方が非常に多いので、興味をもたれる方は、当然、自動変速モデルのNC700S・DCTなどの評価も気にされるのでは、と言うことで、再び広報車両を拝借し、700kmほどのツーリングに使用した結果を報告したいと思う。
NC700の特徴は、何と言ってもガソリンタンク部分がフルフェイスヘルメットの入るトランクになっていること。それにより、宿泊を伴うツーリングでも、リヤに縛り付けるのは、雨合羽だけ 

ズバリ言って、バイクを乗り込んだ人には向いていない。それは、クラッチのマニュアル操作が出来ないことからだ。惰性走行は無理なばかりか、停止手前からニュートラルにして、クラッチレバーから手を放し、スムーズに停止する、などということも不可能。

また、スロットルをほんの少し開け、穏やかに走り出すと、時として2速へアップシフトした瞬間、軽い加速変化が生じる。この状態であると、タンデムに乗るライダーから「へたくそ」の声が飛ぶだろう。

更に、走行状態から減速、ブレーキという一連の行動に対し、確実にダウンシフトしながら、その都度エンジンブレーキを作動させるため、ガクガクという音と共に、減速ショックが出る。これも、タンデムライダーからの苦情となるだろう。彼女や女房だったら、「何しているのよ」と、ヘルメットを叩かれそうである。

急減速ではないことが、アクセル開度と速度の変化から分かるはずなので、ここでのプログラムは、エンジンブレーキを作動させない、クラッチを切った状態で停止までもっていくべきだ。そのようなことが分からない、実験屋さん達、或いはその上の方が居るのかもしれないが、実験走行パターンをサーキットではなく、峠から街の信号停止にすれば、直ぐに分かる状態だが。

バイクのクラッチ操作は、ただ単純に動力の断続をするだけではなく、一瞬繋いだ後に再びクラッチを切り、バイクのバランスを取り直す挙動を作る、というようなことにも使うし、ハンドルをロック近くまで切った状態を維持しながら、スムーズに動き出させるだけではなく、次の瞬間には停止が出来る。これがクラッチ操作のいいところだが、マニュアルクラッチ操作がないDCTでは、アクセルでのコントロール以外はない。エンジン回転の調節で不安定時の極低速を操るには無理がある。

ではスクーターだとどうなるのか?それは同じ状態とはならない。なぜかと言えば、左手でリヤブレーキの操作が出来るからである。リヤブレーキ(左手側)を掛けながら、アクセル操作でバランスを取り、微速前進などということは朝飯前。これが、DCT仕様では無理。だから楽しくないし(既に購入されてしまった方には申し訳ないが)疲労も溜まる。
タイプSはネイキッドだが、多少値段が高くても、カウル付を選びたい。高速走行では明らかな差になって、走行感覚に違いが出るからだ 

また、NC700シリーズの特徴である、加速時に楽しいグツグツ感は乏しくなってしまった。それは、おそらく重たいクラッチがフライホイール効果を増大し、更にクラッチの制御に使うオイルポンプも、回転変動の吸収を受け持つ結果であろう。これは楽しくない条件になってしまう。

マニュアルクラッチ仕様との違いは、コーナリングの特性にも出ていた。

もちろん、半ケツ落としで、肩から突っ込むような、サーキット走行ライディングは要求されるのだが(ツーリングバイクなのに!!!?)、そのアクションが、DCTの場合、更に大きなものを要求される。

この原因は、おそらくツインクラッチ構造によるものではないかと考える。クラッチの重量が増えれば回転マスも増えるわけだから、ジャイロ効果が強くなり、傾きを変えるには力加減が変わるはず。これによる影響ではないかと思う。

但し、この半ケツ落としライディングを行うと、フロントタイヤが小石に乗ろうが、小枝を踏もうが、バイクが不安定になることはない。それは、どういうことなのか走りながら考えてみると、ツーリングでは普通リーンウイズのコーナリング姿勢を取るが、その姿勢だとNC700の場合、ハンドルが切れ込んでくるので、それを抑えるように乗らなければならないため、腕には力が入ってしまう。

そうなると、バイク本来が持つ安定性はスポイルする形となり、益々不安定で、走りにくい状態を作り出してしまう。

ところが、半ケツ落としで、肩から入るライディングスタイルを取ると、自然にハンドルを強く抑える力がなく、バイク本来のスタビリティが前面に出てくるのだろう。

このときには、非常にニュートラルなコーナリング性能で安定性に富み、過激な状態に持ち込んでいるにもかかわらず、不安な様子が何処にもないのは不思議でもある。

その他、重要な部分である、ハンドルスイッチは使いにくい。特に左側はゴチャゴチャと各種のスイッチがあり、それらを使いこなすには、数ヶ月必要だろう。慣れれば問題ない、という表現があるが、なれる前に事故・・・ではどうする?

特に問題としたいのはホーンボタンの位置である。これまでは、フラッシャースイッチの下側にあったのだが、どういう訳か上側にある。ハンドルをグリップしている状態から、親指をホーンボタンにまで移動するには距離と角度が大きい。
一番下がギヤシフトダウンのスイッチ、その上がフラッシャースイッチ、更に上が緊急時に大切なホーンボタン 

緊急時に使うホーンだが、700km走行する間に3回ほど必要に迫られたのに、一度たりとも鳴らすことは出来ず、毎回フラッシュースイッチのキャンセル行為を行っていた。役立たずの代物だ。

書き忘れたことがあった。それはDCTシステムの制御に関すること。ギヤをNからDとするには、エンジン始動後にアクセルグリップ近くにあるレバーを左に1秒倒すことでNからDに、ガツンと入る。そのレバーは更に左へ倒すとSモードとなる。

マニュアルシフトに変更するレバーはその反対側、フロントブレーキレバー側にあるので、チョイチョイDからMにして走りを楽しむことは難しい。また、Sモードにしても、サーキットで使うような状態のシフトとなり、ツーリングの最中に、いくら峠であっても、あまりお勧めできない。

それなら、Dモード状態をフルに使い、ギヤダウンレバーとギヤアップレバーを操作し、走りこんだ方が楽しく安全で速いと思う。ただ、このDモードで注意したいのは、クルマで言うところの、キックダウン反応が遅く、また、ダウンシフトするときのギヤ位置も強力で、かつ理想的な加速力を得られる状態とは言えないので、ここは一発、Dモードのマニュアル操作に終始した方が懸命。

Dモードとマニュアルシフトをバランスよく使い分けられれば(慣れるまでに時間はかかるが・・・)、コーナリングの最中に、アップシフト或いはダウンシフトが求められたとしても、ライディングのバランスを崩すことなく、レバー操作だけで安定して駆け抜けられるのは、確かにDCTならではのものと言える。

700kmを走っての燃費だが、高速走行が約半分という条件で30km/Lだった。マニュアルクラッチ仕様のNC700Xでは35km/Lを記録していたが。確実に同じ条件ではないので、参考程度だろう。

2013年10月22日火曜日

凸凹道は両手放しで真っ直ぐ走るが、鏡のような道では決まらない変なクルマ

かなり前のことだが、北海道で行われたそのクルマの試乗会。当然コースはバラエティに富んでいて、舗装の崩れた道路から、鏡のように平らな道路まである。

当時の我々の試乗項目には、ハンドルから両手を離した状態で、何処まで真っ直ぐ走るか、と言うようなことを組み入れていた。

その試乗車は、ステアリングとサスペンション周りも一新して、これまでにない直進安定性を確保した、と言うことがキャッチフレーズに盛り込まれていたが、走行ラインが何となくピタリと決まらないので、何処まで本当なのだろうか、と言う気持ちから両手放し走行を、鏡のように平らで凸凹のない道路でやってみた。

するとどうだろう、いつの間にか右へ行ったり、左へ来たり。シャキッと走らない。

この状態だと、舗装が壊れた凸凹道では、何処へ行くか危険だから、両手放し走行などやれるわけがない。デモ、恐る恐る両手をハンドルから放してみると、あら不思議、サスペンションは大きく作動しているものの、走行ラインに乱れは出ず、数百メートル両手放しで、普通に走りきってしまったのだ。

これ、普通は逆のはずだが、何か変である。第一、舗装のしっかりとしている道がほとんどの日本では、クルマの資質としては逆なので、疲労の多い状態となることが懸念された。

その原因について、当初の開発者はこちらの質問を素直に聞くつもりはないようで、結論が出なかったが、その後の情報で、その開発者は技術力がない人物だった、と言わざるを得ないことが判明。

その情報とは、フロントサスペンションが作動することで起きる、タイヤのトー変化を出来るだけ抑えて、直進安定性を高めるため、これまでと違うステアリングのラック&ピニオンからタイロッドに至る構造を取っていたことが原因で、タイロッドの重さとボールジョイントの摩擦が関係している、というものだ。

その構造を図示してみた。上が普通のラック&ピニオンからタイロッドに至る構造で、下が問題となったクルマに採用されていた構造。
上が普通のラック&ピニオンとタイロッドの関係位置。下がタイロッドを長くすることでサスペンション作動時のタイヤトー変化を小さく抑えるタイロッドの長さと位置関係。タイロッドが重く、垂れ下がり状態となり、フリクションが大きくなって、初期の動きが悪くなった結果、鏡のような平らな道路での直進性に問題が出た

何処が違うか一目瞭然。タイロッドの長さが違う。長ければサスペンションの上下動で変化するボールジョイント部分での円弧が大きくなり、強いてはその末端に取り付けられているナックルアームに影響を及ぼすことも少なく、タイヤはトーの変化が小さくなる。と言う構造で、素晴らしいものなのだが、作りこみと煮詰め不足により、問題点を我々が見つけてしまったのである。

このような問題のあることを、メーカーの開発人は認識していなかったと断言できる。それは、見かけ上の対策として、ごまかしが出来る内容だからだ。

しかし、そのような問題が、何故起きるのか、何処がまずいのか、更に一番の問題は、このようなことが起きていることを知っていたか、それが分かっていなければ、試乗車に対策することは出来ない。言い方が悪いが、分かっていなかったと断言できるのである。

何故、タイロッドを長くしたら鏡のような平らな道で直進安定性が出なかったのか。

それは、長いタイロッド=重量がある。と言うことで、常に垂れ下がり状態であり、更に、その垂れ下がったところは摩擦も大きい。動くもの同士が一度動きを止めて一体となると、再び動き出そうとするときの力は大きなものが要求される。これはボールジョイントのような、摩擦を使って回転や作動位置を決めているものも同様で、それが使い方と、一部の構造により悪さが出ることもある。

クルマが安定して真っ直ぐ走るには、タイヤからの外乱を受け流す構造が重要(レーシングカーとは考え方が違う)で、そこにあるタイロッドの長さと構造がどのようなことになるか、理解されていなかったことと思われる。つまり、動きの渋いタイロッドが全ての原因である。そのため、以後この構造を持つクルマは作られていない。

このタイロッド構造を持つクルマは1987年にVWサンタナとして、ニッサンがノックダウンし、日本でも発売されていたが、しっかりと作りこみがなされていたのだろう、これまで書いたような問題点はなかったように記憶する。