研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2012年1月27日金曜日

ピストンのフリクションをゼロにしたら どうなる?

ピストンのフリクションに対する研究はかなり進んでいると思うが・・・

 エンジンの効率を上げるため、各部のフリクション低減に対して躍起になっている状況は見て取れる。でも、フリクションをゼロにする研究はなされていないようだ。

ピストンのフリクションを低減するため、ピストンのスカート部分にはWPC処理や二硫化モリブデンコーティング(パターンコーティングもある)などやっているが、直接シリンダー壁とピストンスカートが接することを狙っての処理ではなく、オイルが介在するときの引き摺りを少しでも減らすように願うだけ。

言ってみれば、オイルを弾くような表面処理がなされることで、引き摺りを少なくしようと言うのである。

その昔は、条痕仕上げと言う表面加工で、僅かなギザギザ仕上げの部分にオイルを保持させると言うもの。この仕上げはディーゼルエンジンで始まり、数万時間使用された建設機械エンジンのピストンを見たことがあるが、シリンダーとピストンが接したような跡はどこにもなかった。

このようにピストンとシリンダーとのフリクションを低減してきたのだが、低減と言う研究だけで、フリクションをゼロにする、と言う研究はなされていない感じだ。コンピューターでシミュレーションしたくても、ベースとなるデータはない。

試乗会などで、エンジン開発担当の技術者と話しをするときに、ピストンのフリクションをゼロとした実験などやったことがありますか? と聞いてみるが「そんなこと考えてみたこともありません」の返事ばかり。そこで次のようなことを話す。

ピストンとシリンダー間のフリクションをゼロにして研究する方法は簡単。

実験に使用するシリンダーをボーリングする(STDから0.25mmオーバーでいい)。そして使用するピストンはSTD。ピストンリングは0.25mmオーバーサイズ。

これで普通に組み付ける。エンジンを始動してもピストンのサイドノック音は出ない。クリアランスが大きく、ピストンの振れている範囲をピストンリングによって抑えられてしまうからだ。

実験エンジンなので耐久性はなくてもかまわない。トップリングが燃焼熱にさらされて都合が悪いと言うなら、トップランド(トップリング溝からピストン頂面までの部分)だけ0.25mmオーバーサイズの、頭だけ大きなピストンを造ればいい。

短時間の実験が終了して、耐久テストに持ち込みたいのなら、ピストンスカート部分にピストンリングを追加する、サードリング方式を取り込めば解決する。ただしリングとピストンの形状でフリクションは増加してしまうが。

では、こんな馬鹿なことが現実にあるのか、と言うと、実は経験しているのである。

それは今から45年ほど昔の話。大学時代、当時のアルバイトと言うと、もっぱらバイクの修理や再生を頼まれてやることでの金稼ぎ。

エンジンからのオイル漏れ修理で持ち込まれたホンダ・ドリームC72(写真はホンダコレクションホールから)。このエンジンにはサイズ違いのピストンが組み込まれていた。それがとんでもない性能となって現れた。ものすごくダッシュするのだ。オーナーは、しばらく乗っていたがエンジンは非常に快調だった、とのこと。ピストンが小さくても、意外に耐久性がありそうだ。

あるとき、「修理屋に出したバイクだがオイル漏れがひどく直してほしい」と言う依頼があった。持ち込まれたホンダC72を見ると、シリンダーガスケットの不良なのか、オイルがいたるところから噴出していた。

エンジンを降ろしシリンダーヘッドを取ると、ピストンとシリンダーのクリアランスが異常に大きい。

シリンダーを外して確認すると、ボーリングしてあるようで、ピストンリングは0.25という刻印がある。しかし、新品に交換してあるとは言うものの、ピストンはSTDである。

これでは、サイドノック音が出てしまうので、ピストンはオーバーサイズに交換しますか、と言うことをオーナーに伝えると「いや、音は出ていなかったので、そのままでいい」と言うので、部品交換はせずに、ガスケット交換と液体パッキンの使用で修理。これでオイル漏れは完璧に治った。

さて試乗してみる。確かにピストンのサイドノック音はせず、普通のエンジンになっている。しかし、暖機するための空吹かしをやると、やけにレスポンスがいい。そして少しエンジンのメカ音も大きくなる。

ギヤを入れゆっくりと走り始め、バランスの取れる速度(4~5km/hぐらいだろう)を保ってから、アクセルをいきなり全開に。

すると、びっくり仰天の事態が発生した。何と、ドン臭いビジネスモデルのC72は、フロントを大きく持ち上げて数メートルのダッシュ。

そして、フロントが着地したときの衝撃のすごさ。サスペンションがボトムリンクでストロークが小さなバイクでは仕方がないことであるが、まさかの事態を予想できず、ビックリだけが残った。

当時のエンジンではピストンとシリンダーは接触していただろうから、ピストンリングの張力と相殺するのは難しいとしても、いかにピストンがフリクションとしてあるかの証明にはなるし、また、簡単にピストンのフリクションをゼロとした実験ができると言う話。

ここにもブレークスルーはありそうな感じである。

ピストンを取っちゃたらどうなるか、そりゃエンジンとして成り立たなくなる。そこから最低限のピストンの役割について考えると、今までの考え方が正しいのか。単純に、ピストンとシリンダーのクリアランスにこだわっていただけではないのだろうか・・・

2011年12月16日金曜日

CAN-BUSアダプターって何だ

簡単に言ってしまうと、これを使わないとクルマに電気用品が取り付けられない車種に対して、それを解決出来るというアダプター。

最近のクルマは、コンピューターが至る所に使われており、それに関わる配線は膨大なものとなる。さらにステアリング周りには数多くのスイッチが設けられるなど、ますます配線の量が多くなるのだが、これをこれまでと同じ方法で接続したのではトラブルの元。それだけではなく部品コストも増加する。

そこで考えられたのが通信による信号のやり取りで、電気製品の電源を制御したりエンジン制御へ送る信号の伝達として、CAN通信が採用されることになったのだが、これがクルマ好きにとってはうれしくない改良なのだ。

何がうれしくないかというと、エンジンコンピューターなどに入る信号線がなくなって、CAN信号線だけだからである。

これまでのエンジンコンピューターには、カーナビや回転計を取り付けるときに必要な信号として、スピードセンサー、エンジン回転センサーなどの入力線があったのだが、それがない。この状態では、何も取り付けられない。このような車種が軽自動車にまで及んでいるのが現状。

ある回路では電流量も制御に入っているようで、オーディオ回路からカーナビの電源を取ったら、オーディオのスイッチが入らなくなり、もちろんカーナビにも電気が流れない状況が発生するようだ。こうなったときには、その配線をはずして、バッテリーのターミナルを抜き、数十秒たってから接続すれば元に戻せるが、カーナビの電源は別から取る必要がある。しかし、ACCなどからとっても同様なトラブルが起きるので、対策が必要となる。

そこで登場したのが、CAN通信の信号を読んで、その信号を解析し必要な情報を取り出そう、というもので、それがCAN-BUSアダプターというわけだ。

取り付けは簡単で、OBDⅡ(オン・ボード・ダイアグノーシス・Ⅱ)という、トラブルを呼び出すスキャンツールを差し込むコネクター(アメリカが要求したもので世界的に共通したもの)へ差し込むだけのものと、OBDⅡからは電源を取りキャン通信線(HiとLoの2本)へエレクトロタップで接続するだけ。

キャン通信線は、OBDⅡコネクターの付近に(運転席側にありわかりやすい状態であること、という規則がある)クリクリと捻られた線が2本あるのですぐにわかる。

CAN-BUSアダプターから出力されるのは車速信号、エンジン回転信号、常時電源、ACC電源、イルミネーション電源、リバース信号、パーキングブレーキ信号で、リバース信号は最大200mA、ほかの電源は最大500mAであるから、大きな電流が必要なら、この部分を信号として使い、ダイレクトに電源から引いた線をリレーで作動させればいい。
左がアダプター本体。右にあるプラグはOBDⅡ端子に接続する。それによって必要な情報が取り出せる

2011年12月12日月曜日

エンジンルームから配線を室内へ引く方法はこれがいい


クルマに電気用品などを取り付けようとすると、物によってはエンジンルームから室内へ配線を引き込む必要が出てくる。

ところが、これが意外に大変で、メインハーネスのブーツを切り裂いて通したり、ステアリングシャフトの根元にあるブーツの間から引き込んだり、実に大掛かりな作業となる。しかも、失敗するとショートや断線にも結びつく。

そこで我が家では、ドアのウエザーストリップから引き込む方法を取っている。これが一番簡単で早く失敗がない。

どのようにウエザーストリップから通すのかというと、ウエザーストリップの上を通すのではなく、内側を通すのである。

現在のクルマは、ウエザーストリップを接着しているわけではなく、ボディにはめ込んでいる。つまり、いつでも簡単に引き剥がせる状況にある。これを利用する。

やり方は、ボディから引き剥がしたウエザーストリップの内側に配線を入れ、雨が伝わってきても室内へ流れ込まないよう、外側で一旦垂れ下がるように曲げておいてから室内へ入れ、ウエザーストリップで固定すれば終了。

たったこれだけ。もちろん太さが5mmもあるようなコードは無理だが、電流を多く必要とする場合は、細い線数本に分けて使えば済むこと。

太目のコードは、ウエザーストリップと直角に固定するのではなく、斜めに沿わせる形にすると、コードとウエザーストリップの嵌め込み部分にストレスが少なくなるので、浮き上がることもない。

早いし、楽だし、取り外すときにも跡が残らないので、この方法が絶対お勧め。
ウエザーストリップは簡単に引き抜けるので、このように配線を引き回す。水切りとして垂らす場所は、もっと上部でもかまわない。やりやすい場所を選んで確実に形を作ればいいだけだ
引き込む配線をボディに沿わせておいて、ウエザーストリップを嵌め込めんで固定すればそれで終了

またやってる、道路運送車両法保安基準違反の推進を


2011年のモーターショーも終わったが、気になるブースの展示を見つけた。それは、これまでにもあったことなのだが・・・

これまでにもあった問題点とは、クルマの前方に照射するライトの色についてである。最初がいつだったかはっきりしないが、確かモーターショーが幕張メッセに移ってから数回後だったと記憶している。

あるライトメーカーの展示ブースで、ヘッドライトの周囲に取り付けたパイプ状の青色リングライトが点灯するデモ機。これは明らかに違反行為なので、担当者を呼び消灯するようにアドバイスをし、一般公開時では点灯することはなかった。

しかし、時が流れ、デイライトの有効性が叫ばれ始めたとき、オートサロンに展示したある自動車メーカーの補助灯が青色になっていることを見つけ、ここでも消灯するようアドバイス。

両方ともショーに展示しているデモカーだから・・・と思われるかもしれないが、これを見た一般の方々は、「自動車部品や自動車メーカーが出しているんだから青色でいいんだ」という認識をしてしまうので、非常に問題だというのが私の見解。

デイライトの色が問題になり始めたとき、国土交通省のサイトには「デイライトの色に関するQ&A」があり、ここでは、「青色をデイライトに使っても違反にならないのか」という問いに対し「青色を禁止する項目はありません」という返事が書かれていた。

ところが、しばらくして「すみません、間違っていました。自動車の前方に照射するライトの色は透明(白色を含む)と淡黄色という道路運送車両法保安基準がありますので、青色は使えません」という訂正文が国土交通省の同サイトに載っていたが、すでに時遅しだった。

なのにまたである。メーカーとしてどうあるべきか、ということの認識を持たないと、同じ過ちを繰り返してしまう。今回は、気がついた時点で一般公開となってしまっていたため、後の祭りだ~~~
自動車の前方を照射するライトの色は法律で決まっているのだが、その認識を持たないと、どんな色でもかまわないことになる、たとえ赤でも・・・

2011年11月25日金曜日

2012年次RJCカーオブザイヤー顛末記


 今年のRJCカーオブザイヤー最終確認テストが、11月15日ツインリンクもてぎ内の周回路を利用して行われ、当日投票して結果が出た。

 当日は、事前に選ばれたシックスベストのクルマや技術が、ツインリンクもてぎのパドックに持ち込まれ、改めて試乗したり、開発者から話を聞いたりするわけだが、そのシックスベスト(6のノミネート)を選ぶにも、会員の気持ちとメーカーやインポーターのヤル気がその結果に繋がるのは当然だ。

 最後の確認試乗が開始される前のパドック。メーカーの関係者がミーティングをする風景も見られる

 そのシックスベストだが、テクノロジー(新型車に採用された新技術)は、マツダ・デミオのSKYACTIV-G 1.3、同じくマツダ・アクセラのSKYACTIV-Drive、日産リーフの電気自動車技術、トヨタ・プリウスαのコンパクトなリチウムイオンバッテリー、フィアット500/500Cに搭載のTwin Airエンジン、ボルボS60/V60に採用された歩行者検知機能付追突回避・軽減フルオートブレーキシステム。以上順不同

 インポート(輸入車)は、フィアット500/500Cツインエア、アウディA1BMW1シリーズ、シトロエンDS4、フォルクスワーゲン・パサート/パサートバリアント、ボルボS60/V60。以上順不同

 カーオブザイヤー(国産車、逆輸入車も含める)は、ダイハツ・ミラ・イース、ホンダ・フィットシャトル、マツダ・デミオ13SKYACTIV、日産リーフ、トヨタ・プリウスα、スズキ・ソリオ。以上順不同

 投票会場前には広報の方々が最後のお願いに集まる。しかし、ここで会員の気持ちが揺らぐことはない。一種のパフォーマンス?
 そして、もてぎでの最終投票の結果、選ばれたのは、テクノロジーがマツダ・デミオのSKYACTIV-G 1.3。インポートがボルボS60/V60。カーオブザイヤーは日産リーフだった。

 この結果は、予想通りというのが会員大半の意見。つまり、メーカーやインポーターの広報活動が影響を与えているといっても過言ではない。

 テクノロジーはマツダデミオのSKYACTIV-G 1.3に決まる。圧縮比14と言う数字を具現化した技術が評価されたのだ。実用燃費も高い

 インポートはボルボS60/V60に決まる。特別強い個性を持たないが、時代を先取りする安全技術などが盛り込まれたことも評価された

 もちろん、問題のある技術やクルマに対して、どこかの国のお役人ではあるまいし、裏取引で票集めをしたわけではない。どうしてもRJCのカーオブザイヤーが欲しいという気持ちが、試乗会や技術の説明会を頻繁に開催する。RJC会員に対して見識を持ってもらいたいがためである。その見識を持って「投票願いたい」、という気持ちの表れが、結果に繋がったのだ。

 まだ未完成(充電インフラや、道路環境など多いと思う)と言われるEV市場で、日産リーフがカーオブザイヤーとなったのは、三菱のi-MiEVが市販されたときにカーオブザイヤーが採れなかったことから、同様なリーフがそれを採るのはおかしい、という批判もあるだろう。しかし・・・

 当然のことだが、私の評価はどちらも同じ。以前のi-MiEVに対しても最高点を入れたし、リーフも同様に最高点を入れた。

 時代を牽引する技術やクルマに対しては「差別なく評価する」。そして、それができる見識は重要であると思っている。

RJCカーオブザイヤーは日産リーフ。三菱i-MiEVから具体的に始まった電気自動車へのシフトは、世界規模へと動き始めた。専用設計のボディによる性能は実用性を高い方向へ導いている

2011年11月6日日曜日

ブレーキ不調の原因は、フルードの混合にあった


知り合いのメルセデス。最近中古で購入したものだが、当初からブレーキの不調を訴えていた。それは、走行中のブレーキングで後輪がいきなり効いたままになったり、駐車場から出そうとすると、走り出しが重かったりという現象。それもしばらく放置するとそのトラブルが消えてしまう。

何が悪いのか、「一度見てやるから自宅に持っていらっしゃい」、という話をしておいたら、やってきました翌日には。
 
エンジン停止の状態で、ブレーキペダルを数回踏んでみると、ブレーキブースターにはバキュームがなくなっているにもかかわらず、踏み応えが優しい。つまり、まるでブースターが作動しているかのように、フワフワした感触がある。これは、ブレーキエアが入っていると判断し、早速エア抜きを開始する。

フロントはブレーキペダルを踏むたびにブレーキ液がブリーダープラグから(少し足らない感じだが)排出される。

ところが、リヤにおいては一向に排出されない。バキュームポンプを使って引き抜き作戦を試みたが、それでもブレーキ液が吸引される気配はない。試しにブリーダープラグを締めて、ブレーキの踏み応えを確かめると、なんと感触ゼロ。踏み代がひとつもないのである。 これこの通り、目
の前にマスターシリンダーがあり、ブレーキパイプのフレアナットを緩めるにも、ブースターからマスターシリンダーを取り外すにも、苦労はしない。

そのときの状態をリザーバータンクの液面で見ると、ブレーキペダルを踏んだときには液面が下がり、ペダルを放すと元の液面に戻る。つまり、ブレーキ液はマスターシリンダーとブレーキパイプ、ブレーキキャリパーまでの間を行ったり来たりしているということになる。

ここで思い当たるのは、息子のハーレーでブレーキパッドを交換したとき。リヤブレーキのパッドを交換し、いざブレーキペダルを踏んで踏み代を出そうともがいたが、一向にパッドはローターに当たらない。よく見ていると、ブレーキペダルを踏むとパッドが押されるが、ブレーキペダルを放すと、パッドが元の位置に戻る。

これは、ヒョットするとブレーキ液の混合があったのかもしれない、という判断の元、マスターシリンダーを分解してみると、ピストンのカップは膨潤して大きくなり、カップの役目をせずリングの作動となっている。

本来ならピストンが戻るときにカップとシリンダーの間をブレーキ液が通過しなければならないわけだが、それが出来ていない。更に、ブレーキペダルを放したときに必要な、ブレーキラインの残圧を逃がす、コンペンセーティングポート(リターンポートと解釈して良い)もカップで塞がっていた。

この原因は、ブレーキ液の品質違いを混ぜたこと。ハーレーはシリコン系を純正としているが、日本国内で普通に流通しているのはグリコール系。このふたつが混じるとゴムは膨潤してトラブルを起こす。

 マスターシリンダー分解では、スナップリングにスナップリングプライヤーを引っ掛ける穴がないので、シリンダーの一部を削り、小さなマイナスドライバーを差し込んで、こじり出した。分解考えていないのかな~。

市販のブレーキ液には「このブレーキ液はグリコール系。シリコン系や鉱油系との混合は禁止」と表示してある。更に、「自動車用非鉱油系ブレーキ液」と書いてあるはずだから、これをしっかりと守ることが重要。

ブレーキクリーナーなどで洗浄すれば、シリコン系のブレーキ液を使用していたものに、グリコール系を使っても膨潤は起きていないことから、変更するために専用のカップやシールの必要性はないようだ。

以上の経験から、メルセデスも同様な状態にあるのではないかと、マスターシリンダーを取り外し(国産車よりもやりやすい)分解してみると、ピストンにはめ込まれているカップは3個とも、フニャフニャで使える状態にない。リヤのオイルシールも膨潤し、まともな状態ではない。
 この通り、すべてのゴムカップは膨潤してフニャフニャ。カップ状態とならず、シリンダーの中ではどちらからの圧力も受けるリング状態となってしまう。これではブレーキ液を送っても、引き戻す作用が起きて、使い物にならない。

マスターシリンダーの構造がこれまで分解したものとは違うので(国産車ばかり。ハーレーのブレーキも日本製)、ブレーキ液の流れや作動状態を把握するのに時間がかかったが、ブレーキペダルを放した後の残圧を逃がす、コンペンセーティングポートの構造が大きく違っていることに気が付いた。

日本製は、ピストンのカップが通過するシリンダーに、リザーバータンクと繋がる小さな(1mmぐらい)穴があり、ブレーキペダルを踏むとカップはその穴を通り越して油圧が発生し、ペダルを放すとカップとシリンダーの間をブレーキ液が流れて、キャリパーから戻るブレーキ液の遅れ分を補う。ペダルが完全に戻る瞬間、コンペンセーティングポートとリザーバータンクが繋がり、マスターシリンダーの残圧はリザーバータンクへ戻る。
 問題はカップだけではなかった。コンペンセーティングポートの作動が壊れていた。
国産車で使われているものでは、写真のようなところにあるのがコンペンセーティングポートで、この図は少しブレーキペダルを踏んだ状態。ポートはカップが通過することでリザーバータンク繋がりがなくなり、油圧を発生させる。ピストンが戻るとコンペンセーティングポートとリザーバータンクは繋がるので、残圧をリザーバータンクへ戻す。

このコンペンセーティングポートが正しく作動しなければ、ブレーキラインの残圧は残り、ブレーキが効いたままとなってしまう。

ブレーキトラブルのメルセデスは、シリコン系とグリコール系のブレーキ液が混合されたことで、ゴムが膨潤した。それにより、パッドが摩耗しても必要なブレーキ液は送られず、まるでエアを吸い込んだ状態となったばかりではなく、ブレーキペダルを踏んで出来た液圧の開放ラインが閉ざされてしまい、リヤのブレーキが効いたままとなる状態が発生していたのだ。
 メルセデスに使われていたピストンをよく見ると、なにやら見慣れぬ構造がある。リヤ側(手前)ピストンには、直角に開いた穴にグラグラ動く四角い棒が取り付けられている。フロント側のスリットは、ピストンの動きに対応するものだが、その中を見ると、何か出張っている。ドライバーで押してみると、ピコピコ動き出たり入ったりする。弱いスプリングが組み込まれているようだ。リヤ側も同様な作動なのだろうが動きは渋い。これがコンペンセーティングポートの役目をする部分で、ピストンが押し戻されたときに、この細い棒が押し込まれ、通気状態になり減圧されるのだ。この作動がトラブルを起こしており、どの状態としても通気しなかった。


リヤのブレーキに関わる部分の膨潤がひどかったのは、リザーバータンクの構造が関係する。つまり、フィラーキャップの位置が、リヤブレーキを受け持つ側(後方)に付いていたため、ブレーキ液補給のとき主にリヤ側に混ぜてはいけないブレーキ液が入り込んだからだ。

部品を注文しようと近くの部品商へ電話してみると「本国オーダーとなり一ヵ月半かかります」との返事。さーどうしようか、と思案していると、メルセデスのオーナーは「自宅に別のメルセデスから取り外したマスターシリンダーがあるので、それが使えるかどうか調べます」という。

ネットで注文した中古品は形が違って使えず(かなりいい加減な業者だ)。「そういえば・・・」で思い出したマスターシリンダーがピタリと合って、翌日にはブレーキトラブルは解消した。

ガソリンに浸すと大きく膨潤するので、内部のシリコン系ブレーキ液が排出されないかと、数分浸けてから天日干ししたが、完全に元へは戻らなかった。


 メルセデスのW202Cクラス。V6エンジンを搭載する。ボンネットが直角に開くため、ブレーキのマスターシリンダー脱着はとてもやりやすい。

2011年9月19日月曜日

やってはいけないバッテリーメンテナンス

バッテリーの液レベルは、見ないふりするのが正しい

クルマやバイクに搭載される鉛バッテリーは、充電と放電のたびにガス(水素と酸素)が発生して、少しずつ電解液(濃液硫酸を蒸留水で希釈したもので比重が1.261.28)中の蒸留水も蒸発する。数ヶ月あるいは数年使用すると、バッテリー液のレベルが低下することで、蒸発していることを確認できるため、バッテリーのメンテナンスは、バッテリー液レベルの点検、ということを推し進めてきたが、実はそれほど簡単な話ではない。

バッテリーの様子を正しく見ていないと、確かにエンジン始動で問題が出たりする。昨日まで元気にセルが回っていたのに、今日はなんだかおかしい、と言う経験は、長くクルマを乗っていると、1度や2度あったと思う。その原因がメンテナンスに関する場合であったり、バッテリーの寿命であったりするから厄介である。

メンテナンスと言っても、それほどややこしいものはない。エンジンオイルのように、液の交換などと言う作業はないからだ。せいぜいターミナルの締め付け具合や、接続状態、バッテリー固定ボルトの緩み(緩んでいても、性能には関係ない。ただし締め付けボルトがなくなると、落下してショートする)ぐらいなもの。これで終わり。
 
何か忘れてはいないか?と言う問いかけをする方もいるだろうが、あえてそれを忘れよう。それとは、バッテリーの液レベルのことである。
 
昔は、バッテリーのメンテナンスで忘れてはいけない「筆頭項目」であったように思うが、それは大きな間違いだった。
 
バッテリーの液レベルが意味するものは何か、よく考えてみると、液レベルや量が大切なのではなく、その内容であることに気が付く。内容とは、電解液(蒸留水と濃硫酸の混合液)の硫酸分比率である。バッテリー液中の硫酸分比率は、つまり比重で判断できる。
 
大切なのはバッテリー液の比重であって、液レベルや量ではないのだ。ついこの間までは液レベルを最優先し、液補充により何が起きるのかが無視されていた。で、比重のことは考えずに、バッテリーの液レベルが低下していたら、補充液(蒸留水など)をアッパーレベルまで注入するよう指導されていた。
 
しかし、それがそもそも間違い。何故バッテリーメーカーは、未だにバッテリー液レベルについて、管理するよう指導しているのかわからない。それでいて、液補充が出来ないバッテリー(完全シールドバッテリー)の販売や、液レベルがろくに見えないようなケースの採用をやって、何とか問題を取り繕っているようにしか見えない。
 
バッテリー液のレベルは、使用する過程で少しずつ減少する。しかし、全ての電層で同じ量が減少するわけではない。バッテリー製造過程でのばらつきで、各電層間で発生電力の違いが出る。バッテリーを取り外して、充電してみるとわかるが、各電層で泡の出方が違うはず。これがバッテリー液の減少に結びついており、泡の出る電層ほど液レベルの低下は早い。
 
さて問題は、ここでバッテリーの液比重(つまり硫酸分)がどうなっているかである。これまでの経験からすると、たいてい泡のよく出ている電層は、比重が低い。つまり硫酸分が極板から排出されてこない。極板が劣化し始めている証拠である。ただし、ひとつの電層で考えて、その部分に使われる極板の全ての部分で劣化しているわけではなく、部分的である。(劣化はサルフェーションと呼ばれる酸化した状態)

このサルフェーションの中は、硫酸分が取り込まれた状態で、充電しても硫酸分を放出しないため、その電層の液比重は下がったままとなる。さらに、充電時には、容量が少ない分だけ集中して電解液は反応し、液レベルは低下する方向となる。
 
しかし、劣化し始めている電層でも正しい比重(1.261.28の硫酸分)を欲しがっている。それは、まだ正常に働ける部分があるからで、比重を正常にしてやることが必要になる。でも、バッテリーのメンテナンスでは、液レベルの管理がうるさく言われ、ついつい液レベルが低下している電層へ、補充液(蒸留水など)を入れてレベル合わせをしてしまう。
 
しっかりと液レベルが合わせられた結果、何がどうなったかというと、電解液が薄められ、それまででも低下していた比重はさらに低下して、硫酸分は下がり、充放電出来ない領域まで追い込む結果を作り出してしまう。

液レベルを無視して、そのまま使い続ければ、まだ数ヶ月は十分使用できたはずだが・・・
 
バッテリー液で大切なのは、比重、つまり硫酸分であるので、どうしても液レベルを調整したいのなら、全ての電層で比重を見ながら、電解液を補充するのか、蒸留水を補充するのか見極める必要がある。それもかなり大変で、生半可な知識では出来ない。
 
であるから、バッテリーの液レベルについては、ただ単に見るだけにとどめるべき。異常にバッテリーの液レベルが低下し、極板が露出しかかっているような電層を見つけたら、他の電層が正常でも、バッテリーの寿命と考え、できるだけ早いうちに交換するべき。

間違っても、補充液(蒸留水など)を入れて、液レベルを合わせないこと。これをやると、たいてい1カ月以内にバッテリーは使い物にならなくなる。また、場合によっては数日でセルが回らなくなる。

バッテリーの液レベルを見ても、そのまま無視していれば、必要な性能を保った状態で、しっかりと使い切ることが出来る。これを肝に銘じておきたい。


バッテリーの取り付け状態は、交換後数ヶ月経ってからチェックする。ある程度落ち着いてから見たほうが判断しやすい。ブラケットが動くようなら、ふたつある締め付けナットをそれぞれ半回転ぐらい締めこむ

ターミナルの締め付け状態も確認。緩んでなければ問題なし。今のバッテリーはこの部分に酸化物(緑青・ロクショウ)が湧き出ることはないはず

ターミナルの締め付けが弱かったら、一度完全に緩めておいて、出来るだけ下のほうにバンドを押し込み、その後にしっかりと締める

バッテリー液のレベルは・・・見えない。何のためにあるのだろうか液レベルの表示???

バッテリーを取り外して、前後に傾けるなどすると、液レベルが動くので、何となくそれらしいことが分かる。一番左の電層は他の場所に比べて5mmほど低下していた。それにしても、全ての電層で液レベルは最低ラインに近い

フィラープラグを外して内部を覗いてみると、まだ電極が見えるまで液レベルは低下していない。これまでであると「ヤバイ、蒸留水を補充して、液レベルを上げなければ」となったのだが、これが大きな間違い。大切なのは、液レベルではなく、バッテリー液の硫酸分、つまり比重だからだ

バッテリーが元気かどうか(まだ使えるかどうか)、エンジン停止後24時間以上経ってからの電圧を計測すると12.67Vであるから、いきなり始動不良とはならない状態

では肝心の比重を測定する。一番液量が残っていると思われる電層から

この部分は1.28~9で、少し比重が高いが、さしたる問題はない

一番液量が低い電層では、どのようなことになっているのだろうか

この電層は1.27~8という状態。バッテリーとして必要な比重を保っているので、使用する上での問題はない。やはり液レベルが低い電層は比重が低い。
でも、どの電層も液レベルは最低。ここに蒸留水を入れれば、液レベルは上がるけれど、硫酸は希釈され一番重要な比重は下がる。だから、液補充はやるべきではないのだ

バッテリーを交換したら、ラジオなどのチューニングばかりではなく(やらなくても事故にはならない)、パワーウインドウのオートでは、挟みこみ防止機能を働かせるための初期設定をやっておくこと。完全に開放した状態から、少しスイッチを引き閉まりきってから、2~3秒そのまま保持する。これで初期設定は完了。
なお、ホンダ車のように、初期設定(挟みこみ防止)を行わない場合には、オート作動のしないクルマもある(開発者に敬礼)









2011年8月30日火曜日

デミオ・スカイアクティブのエンジンはミラーサイクルを充実させたものだ

ハイブリッドの燃費にも迫るという、デミオ・スカイアクティブだが、プレスインフォーメーションには、肝心の表現が抜けている。それは、圧縮比を上げることの目標が、ミラーサイクル(アトキンソンサイクル、高膨張比エンジンなど呼び方は様々)状態での走行性を上げること。そのために出た結論が、見かけ上の圧縮比を出来るだけ高くしておくことが重要で、14という数字になった。
これが新開発された、デミオ・スカイアクティブ・エンジン。圧縮比14という数字だけが一人歩きしているが、実は燃焼の膨張比を大きく取ることを目的にしたミラーサイクルエンジンで、ミラーサイクル状態でも十分なトルクが得られるよう、見かけ上の圧縮比を大きく取り、エンジン負荷によって一番効率の良い燃焼を取り出す作戦だ

見かけ上の圧縮比(気筒容積+上死点での燃焼室容積:上死点での燃焼室容積)をこれまでのエンジンより高めておき,ノック等異常燃焼が問題となる低速域では吸気バルブの閉時期を遅らせて実圧縮比を低下させるもの。デミオ・スカイアクティブの場合、低中速域はオットーサイクル・エンジンの圧縮比で高膨張と言った方が、ある意味正しいかもしれない。

もちろんこれを達成し、更に燃費を効率よく向上させようとするには、なみなみならぬ技術を詰め込んでいる。例えば、圧縮比を上げるには、ピストンの頂面を限りなく飛び出させ、バルブとの接触を回避するリセスを切り込む、という手段になるが(ディーゼル燃焼とは違うので、フラットな頂面では出来ない)、このような設計とすると、熱効率が悪くなる。

それは、点火プラグとピストン頂面が近すぎる結果、燃焼で得られた熱が直接ピストンへ伝わり、膨張過程が妨げられること(つまり効率が悪い)。

そこで取り入れたものは、リーンバーンエンジンのようなキャビティを造ること。一般的には、キャビティを造ると、ピストン頂面の表面積が大きくなるので、熱を受ける面積ということだけ考えれば、燃費が悪くなるのだが、ピストン頂面のペントルーフ角度とバルブ挟み角から、燃焼室のあるべき形状を求め、シリンダーのボアが決まれば、キャビティを造ることへの抵抗もなくなる。
ピストン頂面にあるキャビティは、希薄燃焼エンジンで使うものとは違い、ここに混合気を溜める目的はない。点火直後の火炎がピストンへ当たらない距離をとるための、「逃げ穴なのだ」。もしこの穴がなかったら、点火後の火炎が膨張に入る前からピストンに当たり、せっかくの熱が無用にピストンから逃げてしまう。それを防ぐことが目的だ

確かに熱効率を判断するS/V比(燃焼室表面面積/燃焼室容積)はキャビティを造らない場合に比べ大きくなるが、それでも10%以下に抑えている。数字上のS/V比より重要なのは、点火した後の火炎が、直下に有るピストンへ当たらず、キャビティの中で広がりながら膨張させること。そして、ピストンから逃げる熱を大幅に少なくした結果、効率の高いエンジンが完成した。
カットエンジンで見るピストン。全部をクロームメッキしているので、光り輝いて判断がしにくいが、上死点にあるピストンと点火プラグの位置関係は、このキャビティがなかったら、異常とも思えるほど接近していただろう

ちなみに、圧縮比だけで見ると、プリウス1.8のエンジンは13有るが、これは完全にミラーサイクル・エンジンでオットーサイクル(普通燃焼)にはならない場合でのこと。

バルブタイミングを比較してみると面白いことが分かる。プリウスはミラーサイクルだけしか狙っていないということ。そのプリウスは吸気の開き角度がBTDC29度~ATDC12度、閉じ角度はABDC102度~61度。排気は固定で開きはBBDC31度、閉じはATDC3度。

対してデミオ・スカイアクティブは吸気の開き角度はBTDC36度~ATDC38度、閉じ角度はABDC110~36度。排気側も変化し、開き角度はBBDC9~52度、閉じ角度はATDC48~5度となる。

バルブタイミングの可変目的がエンジン性能は元より、燃費と排ガスを目的としたミラーサイクルの確立であるから、吸気カムシャフトの位相には電気モーターを採用して、レスポンスをアップしているのもスカイアクティブの特徴。

排気カムは油圧を使うが、カムの位相を変化させることで、内部EGRのコントロールを緻密に行い、排ガスばかりではなく、ノッキング防止に使われる。
見かけ上とは言うものの、圧縮比14が生半可な状態で達成できたわけではない。ミラーサイクル燃焼から目標となる性能を取り出すためには、シリンダーのボアを小さくし(71×82mm、1298cc)、バルブの挟み角などはもとより、吸気ポートの角度まで計算してもとめたタンブル(縦渦)の効果もある

積極的にミラーサイクルとオットーサイクルを使い分けながら、出来るだけミラーサイクル状態を保つために、ミラーサイクル専用のプリウスよりも圧縮比が高いエンジンを完成させ、ミラーサイクル状態でも、トルクと燃費のいい状態を持続させることに成功したのが、スカイアクティブ・エンジンである。

BTDC=上死点前 ATDC=上死点後 ABDC=下死点後 BBDC=下死点前

2011年8月26日金曜日

イグニッションコイルに外部抵抗器は何故必要か その2

今でこそ見たことのない人が多くなったポイント式の点火装置。そこに使われてきたイグニッションコイルは、そのままであると高回転に対応しないという状況が出ていた。それを解決したのが一次コイルの巻き数を減らし、減らした分の抵抗をプラス端子に直列配線すること。これがトータルの抵抗を同じに設定した外部抵抗器付きのイグニッションコイルということになる。

自己誘導作用と相互誘導作用というものを利用して、高電圧を発生させるのがイグニッションコイルの役目となることは前回説明した。

構造的なことから見ると、ポイントを閉じて一次コイルへ電流を流した後、ポイントを開いたときの一次コイルにおける自己誘導作用で発生する高電圧を、一次コイルと二次コイルの相互誘導作用で更に昇圧させることで、その瞬間、点火プラグにはスパークが起きる。
コイルに直流電流を流しても逆起電力の関係で、最大となるまでに僅かに時間がかかる。その時間はコイルの一次抵抗により変わる。抵抗が小さければ時間は短くなる

一次電流と二次電圧の関係をグラフで見ると、スイッチをOFFした状態からONしたときにも電流は変化し、磁界は発生するが、コイルのインダクタンス(誘導係数のこと。回路に電流を流したときの電磁誘導の大きさを表す定数で、誘導起電力と電流変化の比)のため電流は急激に流れないので、それによる磁界の変化も緩やかに立ち上がり、二次コイルに誘導される電圧は低く、点火プラグへスパークさせるような放電電圧に達しない。
スイッチ(ポイント)が開いた状態から閉じるときにも電流は変化するが、コイルの自己インダクタンスのため、電流は穏やかに流れるため磁界の変化も小さく、二次コイルに誘起される電圧は低く、放電する状態にはならない

大きな相互誘導起電力(点火プラグへの電圧)を得るには、一次コイルへ流れる電流を出来るだけ大きくし(限度がある、発熱が大きいと磁界が低下して起電力が低下する)、その電流の遮断を急激に行えば良いことになる。

ここに流す電流の大きさと、その遮断速度が磁束の変化の速さ、更に磁束変化量の大きさに直結する。つまり、点火エネルギーに影響を及ぼすことになる。

ところがエンジン回転が高くなると、ポイントの閉じている時間は短縮される。これは一次コイルに電流を流す時間が短くなり、その電流も低下してくる。

一次電流の低下は、つまり二次電圧に関係して、十分な昇圧とはならず失火が起きる。これを防ぐのが、外部抵抗器である。

フルトランジスター点火などでは、閉角度制御(ポイントでいうと閉じている時間を制御すること)なるシステムを組み込んで、ある回転以上となると一次コイルに流す電流の量を多くしているが、普通のポイント式ではそれが出来ない。そこで考え出されたのが、一次コイルの巻き数を減らし、減らしたことで起きる抵抗の低下を、外部に抵抗を取り付けて補うという方式。その抵抗はインダクタンスに関係なく、電圧とのつじつまを合わせることに作用する。

一般的な例で言うと、ポイント式点火装置で使われる普通のイグニッションコイルは、一次コイルの抵抗値が3Ω程(12V専用)だが、それを1.5Ωとした場合のコイルの巻き数は半分となり、そこに流す電流を妨げるインダクタンスは小さくなる。

言い換えると、イグニッションコイルに電流を流しても、直ぐにコイル全体へ行き渡るわけではなく、例えば3Ωのイグニッションコイルでは0.01秒掛かるが、それを1.5Ωとすると0.006秒に短縮する。これが重要なことで、高回転或いは多気筒エンジンでは、このように電流の立ち上がり(コイルへの満充電)を素早くしないと点火性能は発揮されない。

インダクタンスが小さくなるとコイルに流れる電流は直ぐにいっぱいとなり、点火性能を確保できるというわけだ。

テストベッドに使っているIGコイルへ流れる電流を計測すると、4.20アンペア

コイル本体の一次抵抗は1.7Ω。外付け抵抗器で3Ω近くになるよう調節する。そうしないとコイルに流れる電流が多くなり、発熱による弊害が起きる

外付け抵抗器を通して一次コイルの抵抗を測ると2.8オーム

外付け抵抗器の抵抗部分は、電流が多いので巻き線抵抗となっており、発熱(火傷するほど)するため、絶縁部分は碍子を使用する。抵抗の数値は1.2Ωとなっているが、実際とは少し違うようだ。この程度は問題ない





2011年8月13日土曜日

イグニッションコイルに外部抵抗器は何故必要か その1

結論を先に言ってしまうと、高回転まで安定したスパークを得るため、ということになる。

ポイント式普通点火装置では、4気筒以上のマルチシリンダーエンジンが、高回転高出力化できない理由があった。

ポイント式普通点火の時代であるから、この話しはかなり前のことになるのだが、当時はその理由を理解する人が少なかった。多気筒化すれば全てのフリクションが増えるからではない。同じ排気量なら多気筒化することによって燃焼室が小さくなる(シリンダーボアも)ため、エンジンの最高回転を高く設計できるので、それをギヤで減速すれば駆動トルクは上がる。つまり加速はよくなるのだが。

ただし、その条件が整っていなければ高回転を望んでもそれは無理。バルブタイミングや燃焼室形状、バルブの径などだけが関係している訳ではない。

忘れてはいけないのが点火装置である。そして、当時のポイント式点火装置で、ディストリビューターを使用したものでは、エンジン回転が高くなると点火エネルギーの不足が生じてしまう。その結果、不完全燃焼となりHCを多量に放出するだけではなく、エキゾーストマニホールド内で燃焼するため、オーバーヒート現象まで引き起こす。もちろん急速燃焼とならないため、エンジン回転は上がらない。

その理由は、回転上昇によってポイントの閉じている時間が少なくなるからだ。つまりイグニッションコイルに対して、十分な電気エネルギーを送り込むためには、それ相当の時間が必要。多気筒とディストリビューターが合体すると、ポイントカムは気筒数のカム山が必要となり、ポイントカムが高回転となればポイントが閉じて、イグニッションコイルへ通電している時間は回転の上昇と共に少なくなる。結果、点火エネルギーの減衰が起き、吸気量に見合った燃焼とならないのだ。
ディストリビューターを使うポイントでポイントがひとつのものは、気筒数分だけポイント開閉用のカム山がある。カム山の数だけポイントは閉じている時間が少なくなる。エンジン回転を上げると、そのことが問題を引き起こす


点火装置に関わるシステムの話になるのだが、これを知るにはコイルの自己誘導作用について理解しておく必要がある。

コイルに直流の電流を流すと磁界が発生する。ただし、コイルには磁界の発生を妨げる方向に起電力が起きる。

このためコイルに電流を流したとしても、電流は直ぐに最大とはならず、一定の時間後に最大電流となる。この時間はイグニッションコイルの巻き数によって違うが、100分の1秒~1000分の1秒単位である。

また、コイルに電流を流しておきながら、これを急激に遮断すると、コイルには電流を流し続けようとする起電力が一瞬発生する。
直流はコイルに電流を流すと、その瞬間だけ電流が流れる。また、電流を切った瞬間にも電流が流れる。この特性を利用したのがイグニッションコイルである


このようにコイルに対して電流を流し始めるとき、電流を絶つときに、コイルの磁束の変化を妨げようとする現象がコイル自身の中に生ずる。これを自己誘導作用と呼び、そのときに発生する起電力を逆起電力と呼ぶ。

ところで点火装置に使用するイグニッションコイルは、ふたつのコイルを並べた状態で(鉄芯に巻かれている)、入力側のコイルを一次コイルと呼び、そこに流れる電流を変化させると、出力側となる二次側のコイルには、一次コイルの磁界の変化を妨げる方向に起電力が発生する。これをコイルの相互誘導作用と呼んでいる。

つまり、一次コイルに一定の電流が流れているときは、磁界が変化しないので、二次コイルには起電力が発生しない。
これがイグニッションコイルとしての原理。コイルに電流を流すことで、起電力を溜める。一定の電流が流れているので磁界が変化しないため、二次側コイルに起電力は発生しない


しかし、この状態から電流を遮断すると、今まで発生していた磁界が急になくなるので、二次コイルには磁界の消滅を妨げる方向に起電力が発生する。
電流を切ると、その瞬間逆起電力が発生し、電流が流れる


直流電流ではこのように動作するが、交流電流では、周波数(正弦波)の関係で、交互にプラス・マイナスに電流が変化することから、二次コイルには、一次コイルとの巻き数比に合わせた電圧が常に発生する。つまり相互誘導作用が連続的に起きている。一般的なトランスがそれである。
これがトランス。直流では使えないが、交流(発電所が作る電気がそれ)はトランスを使って電圧の上げ下げが簡単に出来る。ただし効率は悪い。最近では、一般家庭でも最終的に直流化して効率を高くする、インバーター制御が当たり前。テレビやPCも直流を使う。そのため、発電所からの電気も直流のほうが効率が高く、変更しようではないかという運動が起き始めている

                                                               以下次回に続く